「ありがとう」が言えないのには訳がある。
私は、ありがとうが言えない子供でした。
決して感謝の気持ちが足りないのではなく、言うタイミングがつかめなかった。
父は、挨拶しない人でした。
「んー」「ああ」「おい」で会話を済ませる、大変無愛想な人でした。よくある昭和の親父。
一方母は、「ありがとさーん!」「サンキューベリマッチ!」といつもおどけた挨拶をする愉快な人。
そんなだったので、家の中で真面目に「ありがとう」と言う機会がありませんでした。
だから、ありがとうという言葉が大変気恥ずかしく、なかなか口をついて出てこないのです。
自然なタイミングがわからない。
外国人に話しかけられて、英語を使うのが恥ずかしくてつい日本語で話してしまうような感じ。
子供の頃のある日、近所のおじちゃんに自販機でジュースを買ってもらいました。
躾の厳しいお家で、私のお行儀の悪さも気にかけて注意してくれる、怖いけど優しいおじちゃん。
心の中で、
「買ってもらったら、ありがとうって言おう」
とドキドキして構えていました。
欲しいのを選んで、ボタンを押して、取り出したら笑顔で「ありがとう」と言おうと、心の中でシュミレーション。
ゴトン!と缶が落ちる。
「いまだ!」と思った瞬間。
自販機のコンピュータ音声が、
「アリガトウゴザイマシタ。マタカッテネ!」
、、、。
機械にセリフを食われた…!
タイミングを逃してモジモジしている私に、おじちゃんは、
「この自販機はエライねえ!
こんなときは何ていうんだっけ?」
そう言われて、ますます「ありがとう」が言えなくなったのでした。
だから、大人になった今、挨拶しない子供がいても叱らないことにしています。
だって、それには理由があるから。
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