痩せたらコンプレックスは本当になくなるの?「やせる石鹸」イラスト感想文
こんにちは。
読書大好きイラストレーターのササダテ スイです。
歌川たいじさんが、2015年に書き下ろしで刊行した小説「やせる石鹸」のイラスト感想文を書きました。
かわいいマトリョーシカみたいな人形(キャンドルだそう)の表紙ですが、帯には「やせたってアンタの心はデブのままよ。」の文字が!
かなりなインパクトでした・・・。
あらすじ
家庭の愛情不足から食に救いを見出したたまみは、「巨デブ」と言われる域に達する体になっていた。
太っていることで数々の傷を負ってきたたまみだが、なんと理想的な相手に告白される。
だけどその理由に引っかかり、どうしても素直に「はい」と言えない。
痩せて自分に自信を持ちたいと、中学校で同じようにデブだったのに、ダイエットに成功したよき子に会いに行こうとするが・・・。
さて、デブ専のゲイバーで働く實(みのる)は、ぬるま湯のような日々に満足はしていないものの出る勇気もない。
ところがある時、一緒に働いているラミちゃんが悪質なダイエットの泥沼にはまってしまい、なんとか助け出そうとする。
「巨デブ」と言われてきた登場人物たちが、自分に対して抱えていたコンプレックスを克服するために、「やせる」こと以外で奮闘するのだった。
イラストは、この小説に出てくるビッグボディたちと、その中のたまみに恋する(?)拓也のイメージです。
感想
読み始め少しとまどったのは、「〜なのね」「だったわ」など、語りかけてくるような文体。
でも、段々とたまみに直接話されているような気分になってくる。
たまみはじめ、出てくるビッグボディたちはそれぞれに、当たり前みたいに周囲に傷つけられてきたのだけど、「太っているというだけで、容赦ない攻撃にさらされなくてはいけないのは、本当はおかしいのでは?」
と、たまみは疑問を持ったのだ。
そう言えば私も、太めな人を見たら、「なぜダイエットしないのか」「不健康」となんとなく思っていたかも・・。
迷惑かけられたわけでもないのに。
そして自分でも、太ることに対してはかなり恐怖心がある。
確かに、考えてみれば、日本人は「太る」ことになぜこんなに厳しいんだろう。
諸外国の人より圧倒的に肉がついていなくても、「デブ」と言われる。
もしかして、コンプレックスを作り上げて、商品やサービスを売ろうとしてる?
この小説に出てくるビッグボディたちも、「痩せる石鹸」や、ダイエット食「スリムバンバン」に心揺らされ、沼にはまっていってしまうのだ。
コンプレックスに囚われる闇の部分も色々な形で書かれているんだけど、とにかく表現が面白いので、つい笑ってしまう。
散々太っていることで辛苦を味わってきたたまみたちだけど、乗り越えるために選んだ手段は「やせる」ことではなく、ビッグボディを逆手にとることだった。
・・・そもそも、痩せて全てがうまくいくわけでもないのよね。
よくテレビでやっている「ダイエット企画」。
参加したビッグボディたちが一生懸命努力して痩せて、今まで着られなかった服が入った!と晴れ晴れしている姿には拍手したくなるけど、それはその一瞬にスポットライトを当てているから輝いているのであって、皆が抱えているコンプレックスは、脂肪みたいに運動や食事制限で消えていくわけじゃない。
たまみたちは、太っている=ネガティブだと思っていたことを、強みとしてポジティブに変えていくというところに、目から鱗が落ちた気になった!
脂肪を落とすことではなく、団結して心と体を鍛え、自信を持ったのだった。
ただ、そこにはとてつもない努力があるのだ・・・。
ところで、豊満ボディでパワフルなダンスを踊る渡辺直美さんが、オリンピックの開会式での演出で「オリンピッグ」と揶揄していた、とアートディレクターが大バッシングを受けていましたが、その取り上げ方も、ただのバッシングのネタにされたような感じがした。
渡辺直美さんを擁護するかのように見せかけて、迫力のある、明るくコミカルなダンスまでもネガティブなイメージに引き戻しているような・・・。
彼女のことを二重に傷つけていたのではと思う。
渡米した渡辺直美さんだけど、もしかして、こういう日本の空気感が嫌だったんじゃないかなと思った。
それにしても、「デブ専のゲイバー」や「デブ専のキャバクラ」とか出てくるんだけど、世の中には色々な世界があるのね。
ちょっと興味がでて、検索してみたけど、生半可な気持ちで踏み込んじゃいけない世界が垣間見えてしまった!
読後感
この小説は、ダイエットに苦しんだことのある人はもちろん、そうでない人にも、絶対に共感と勇気を与えてくれる本だと思う。
ちなみに、文中に出てくる「ノギス」、てっきりどこかの業界の言葉かと思って調べたら「ものさし」のことだったわ。笑
お腹の肉をはさんで、測りたくなるってことかしら・・・。