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公益通報者保護法の闇


労働者の皆さんは、組織内での不正を目撃し、または強要され、葛藤した経験はありませんか。
組織の不正を是正しようとしても、自分が不利益を被るかもしれない。
この恐れを打破して組織を是正するために、公益通報と公益通報者保護法があります。
しかし、公益通報者保護法には、重大な欠点があります。
この記事では、わが国の組織の不正が後を絶たない理由、従業員が泣き寝入りを続けている理由を説明します。


公益通報と自殺の関連

公益通報とは

公益通報とは、労働者・退職者・役員が、不正の目的ではなく、勤務先における刑事罰・過料の対象となる不正を通報することを指します。
つまり、組織が刑事罰・過料の対象となる不正を行っている場合、組織内部の自浄作用・行政機関による指導や処分・報道機関等による公開による是正により、組織の不正を改善する方法となります。

公益通報者保護とは

公益通報を行う場合は、組織の不正を指摘したとして、労働者・退職者・役員が組織から処分を含む不利益な取り扱いをされる恐れがあります。
例えば、解雇・降格・減給その他の不利益な取り扱い・損害賠償請求の制限などがあげられます。
こうした事業者からの不利益な取り扱いから通報者を守ることが公益通報者の保護にあたります。

公益通報と自殺の関連

組織内部の不正・不正を強要される・不正を隠蔽される・不正を隠蔽している姿を見ることで、従業員は、不正を行い続けること、不正をさせられることへの恐れを抱いて、退職を検討しなければならなくなります。

もちろん、不正が生じるまたは不正が生じる恐れがある場合に、所属部署内で指摘し改善するような自浄作用のある組織であれば問題はありません。
しかし、不正が生じる組織は、それを隠蔽したり当然のこととして行い続ける場所が少なくありません。

こうした組織では、不正を指摘したことで、組織内部での位置づけが下がり、ハラスメント・職場のいじめ・退職勧奨・懲戒などの不利益な処遇を課されてゆくことになります。

職を失うことは生きることにとって重要です。
家族を持っている、借金がある、親に打ち明けられない、転職の資金がない、どうしても行いたい職場を追われたことで生きがいがなくなる、狭い業界で風評被害にあい転職できなくなる、など生きる手段を奪われてゆきます。
これは自殺に直結する極めて重要な問題です。

皆さんの中にも、組織内部で不正が横行している、不正を行う場面を目撃した、不正を行っていると知ったが指摘して不利益な取り扱いを受けたくないがために黙認している方がおられるでしょう。
黙認している従業員を知っている方もおられるでしょう。
これは人が生きてゆく手段を奪われてしまうと恐怖を感じるためです。

それでは、公益通報者保護法の闇を知る前に
公益通報者保護法の内容を見てゆきましょう。


公益通報に真実相当性は不要 (法第二条)

公益通報の定義

公益通報とは、公益通報者保護法の第2条で以下のとおり規定されています。

この法律において「公益通報」とは、
誰が
労働者・派遣労働者・役員が
何を
不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく
役務提供先、その役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を
何処に
当該役務提供先 (内部通報) 又は
当該通報対象事実について処分若しくは勧告等をする権限を有する行政機関等又 (行政機関通報) 又は
その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(警察・マスコミ等) (外部通報)
に通報することをいう

公益通報者保護法 第二条を意訳

以下、定義の重要なポイントを解説します

通報対象は限定されている


公益通報の通報対象となる法律一覧

組織の不正は様々な種類があります。
近年では、組織に不正や倫理違反があれば、正しい指摘をしたから通報者が守られて当然だとの風潮があります。
しかし、法律では通報対象は限定されています
指定された通報対象以外の事実を告発した場合は、情報漏洩や風紀違反として懲戒に処される可能性があるので注意してください

例えば、ハラスメントは、暴力や傷害など刑事罰が科される犯罪行為に該当しなければ公益通報の対象となりません
万が一、ハラスメントの事実について外部に情報を漏洩してしまうと、懲戒に科される可能性があるので注意してください。

通報先は三種類

通報先は、内部通報、行政機関通報、外部通報の三種類があります。
基本的に、この順番で通報を検討するのが一般的な考え方となります。

公益通報には「真実相当性」は不要

従業員・派遣社員・役員が、限定された通報対象を、3種類のいずれかの通報先に通報した場合、直ちに公益通報とみなされます。
注意したいのは、公益通報そのものには「真実相当性」は不要であるという点です。

真実相当性とは、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があることです。
単なる憶測や伝聞ではなく、通報対象事実を裏付ける証拠や関係者による信用性の高い供述など、相当の根拠があることを意味します。
公益通報は、真実相当性がなくても成立するため、通報者が通報対象に違反があると判断すれば定義をみたします

該当者から、指定する通報対象の違反の指摘があれば、即座に公益通報として理解してください。


公益通報者の保護 (法第三条:通報先別)

公益通報は組織の不正を内部・行政機関・外部に通報する行為です。
したがって、通報者は組織の価値や風紀を乱したとして懲戒等の処分が科される恐れがあります。
それでは、組織は外部に知られなければ不正を継続できることになってしまいます。
そこで、公益通報者の保護がなされます。

公益通報者の保護とは、公益通報を行ったことを理由に、解雇その他の不利益な扱いをしてはならないことです。
通報者を保護する要件は、通報先により異なっています

内部通報

公益通報であれば
解雇その他の不利益な取り扱い (降格、減給、退職金の不支給その他不利益な取扱い) をしてはならない。
通報内容に真実相当性は不要であり、従業員が通報対象となる法律が犯される・犯されたと感じれば保護される。

行政機関通報

公益通報で
真実相当性があり
①公益通報者の氏名又は名称及び住所又は居所
②当該通報対象事実の内容
③当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由
④当該通報対象事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由
が記載された書面を提出する場合
解雇その他の不利益な取り扱い (降格、減給、退職金の不支給その他不利益な取扱い) をしてはならない。
したがって、真実相当性があり、さらに通報者氏名と根拠を添えなければ保護対象となりません。

外部通報 (警察・メディア等)

公益通報で
真実相当性があり
以下のいずれかに該当する場合
①内部通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
②内部通報をすれば、役務提供先が、当該公益通報者について知り得た事項を、当該公益通報者を特定させるものであることを知りながら、正当な理由がなくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合
③行政機関通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
④行政機関通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
⑤書面により行政機関通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該役務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
⑥個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人の財産に対する損害(回復することができない損害又は著しく多数の個人における多額の損害であって、通報対象事実を直接の原因とするものに限る)が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
解雇その他の不利益な取り扱い (降格、減給、退職金の不支給その他不利益な取扱い) をしてはならない。
したがって、真実相当性があり、さらに
まずは内部通報を検討すべきだがそれでは隠ぺい・偽造される・通報者を特定され不利益な取り扱いがなされると信じるに足る理由があるか、行政機関通報を行えば不利益な取り扱いを受けると信じるに足る理由があるか、行政機関通報をしたが組織が対応しないか、生命・身体・財産に危険があると判断される場合にのみ、
通報者は保護されます。


公益通報者の特定・探索の禁止

これまでの議論に照らせば、
公益通報者は保護の要件を満たせば、
公益通報を行ったことを理由に通報者を解雇その他の不利益な取り扱いをされないことになります。

それでも、個人が特定されるのではないか、特定する行為 (公益通報者の探索) が行われるのではないかと不安に感じる方がおられると思います。
そこで、公益通報者保護法では、以下のように通報者の特定・探索を禁じています。

内部通報

公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない (法第十二条)。
また、事業者は、通報者個人の探索を防止しなければならない (法第十一条4項及び内閣総理大臣の定める指針)


公益通報者保護法の闇

ここまでを読み、公益通報者保護法の闇に気づいた方はおられるでしょうか。

内部通報以外は通報者を特定できる

公益通報者の特定と探索を禁じる条文は、法第十一・十二条にありました。
しかし、法で公益通報者の特定と探索を禁じられているのは「内部通報に限定」されています。
したがって、事業者は、行政機関通報・外部通報の事実を知りえた場合は、通報者を特定することが可能となります。
繰り返しますが、条文では一切禁止されていません。

内部通報以外は、事業者が真実相当性がないと「判断すれば」処分できる

通報者の不利益取り扱いは法第三条で禁止されていました。
内部通報は、通報者を特定できず、かつ通報内容が特定の法に触れると通報者が感じたものであればどのような内容でも根拠に乏しくても、通報者の不利益な取り扱いをできません。

しかし、行政機関通報・外部通報であれば、
まず、通報者を探索して特定することが可能です。
次に、通報内容に真実相当性があれば通報者は保護されますが、
言い換えれば「事業主が通報内容を知り、かつ、真実相当性がないと判断すれば」特定した通報者に対し、就業規則等の内規に基づいて処分することが可能となります。

すなわち、通報内容が真実であるかを行政機関に判断されて是正措置をとられるまえに事業者が従業員を解雇その他の不利益な取り扱いに処した場合は、その処分を撤回するためには裁判を行わなくてはならないことになります。

これは恐ろしいことです。
もし、内部通報を行っても、組織が通報内容を隠蔽・捏造・改ざんする場合には、行政機関通報・外部通報を行うしかありません。
しかし、行政機関通報・外部通報の場合は、通報者を探索・特定しても問題がないため容易に特定され、さらに組織が真実相当性について検討したうえで処分することが可能で、処分の妥当性は裁判でしか決着できなくなります。
行政機関通報・外部通報を行うものは、個人が特定され、処分されることとそれを撤回するには裁判することを前提に公益通報を行わなければなりません。

これは法整備の不備です。
国が公益通報者保護法を早急に是正するよう望みます。

また、通報を検討する従業員・派遣社員・役員の皆さんは、
特定の法律に触れる通報でなければ公益通報にすらならないこと、
行政機関通報・外部通報を行う場合は事業者から自身が通報を行ったと特定されること、
万が一その通報内容に真実相当性がないとして事業者から不利益な取り扱いをなされた場合には撤回するために裁判をするしかないこと、
は十分注意・覚悟して臨んでください。
社会の風潮に流されて安易に外部に告発するのはあなたの人生を破壊します。


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