棋士の世代交代(4)将棋番組で解説する若手
前回このマガジンでは、将棋ソフトにAI(人工知能)が入り、その高度で膨大で精密な読みに幼い頃から慣らされた実力者が出現し、AIがなかった頃の天才棋士たちがワリを食っているという話をした。
上記を端的に言うと、「世代間格差が大きくなった」ということ。発明品が生まれれば世代間で大きな差が出ることは、当然ではあるし、仕方のないところだ。平安時代も江戸時代も明治も結核で死ぬ人の割合はそう変わらなかっただろうが、ストマイなど抗生物質が出現してからは割合が極端に減ったはずだ。
AIの出現は、パソコンという「だれもが廉価で持てるコンピュータ」というものの普及があってこそ。
コンピュータを手持ちにできて、ネットという、電話やテレビ以上の威力を発揮する通信手段が出てきたから、延長線上に作られた。
ぼくは羽生さん世代で、彼らのカッコいい指し手をこれまでたくさん見てきた。藤井システムに影響されて、今も四間飛車だ。それも、角道を止めるやつ。
ぼくも他のファンと同じように、羽生さんは60代でもA級にいると思っていた。大山康晴との実績を考えると、そう考えて当然だ。羽生さんが大山さんに劣るのは「政治力を利用しての番外戦術」くらいだろう。
しかし、彼ら羽生世代が大方の予想以上に、ズルズルと成績を落としているのを見る羽目になった。コンピュータ、そしてAIの普及によってだ。
しかし、コンピュータの出現は悪いことばかりではない。この連載『棋士の世代交代』の(1)で将棋番組のことを書いたが、通信手段の拡大は棋戦にも波及した。今や、ネットで、毎日のようにプロの対局を生で観られる。
そしてまた、番組が増えたことによって、質も上がった。なんの質かというと、「解説者」の、だ。
以前の将棋番組は、解説者によって面白さに大きな格差があった。将棋はとにかく「間」が長いし、画面に動きがないので、解説者の腕が大きく響く。無口な人だと、いかに将棋ファンでも眠くなってしまう。
NHK杯などは「格」で解説者を選ぶので、お地蔵さん^^のような解説者に眠気を誘われたものだ。「解説○段」と、棋力とは別の格付けをしてほしいと思っていた。
その点で、今の若手の多くは、解説八段、九段だ。手、棋士のエピソード、うまく取り入れ、聞きやすくて面白い解説を披露してくれる。
特に、早指し棋戦など、見事と言うしかない言葉まわし。よくこんなに分かりやすく手の解説をしてくれるのかと、感心してしまう。
彼らのすばらしい解説を聞いていると、世代交代の早さには悲しむものの、いい時代に将棋観られてよかったなぁと思ってしまう。