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将棋の終盤は、「秒読み」という地獄!(その1)

 将棋ペンクラブは社団戦に出ているが、ごく稀に、すごく強いチームだと誤解する人がいる。そのチーム名が、将棋に深~くかかわっている人たちだと意識させるらしい。
 
 まったくの誤解というわけではない。将ペンには将棋界に携わっている人たちが多いので、その人たちの引っ張りで、ときおりすごいアマ強豪が助っ人で加わることがある。そういう人に当たった相手は、『やっぱり将棋ペンクラブ』って名乗っているだけあるわ!」と思ってしまうことだろう。
 
  でも、助っ人は助っ人。そんな人が参加することはほとんどないし、来ても遠慮して全局参加しなかったりする。正直、将ペンチームの核となっている人たちは、ぼくを含めてたいして強くないというのが実情だ。
 
 だいたいチーム名が「将棋ペンクラブ」なのだ。強ければ「将棋」チームという名になる。ペンクラブという言葉は、文系ということを表している。文系の要素が入り込めば入り込むほど、将棋というものは弱いというのが世の理だ。将棋は完全に理系だからだ。将棋のタイトル戦では、着物ではなく科学者の着る白衣で対局する方が合っていると個人的には思う。それほど、将棋というのは理系なのだ。
 
 将棋ペンクラブの幹事や選考委員には確かに強い人がいるが、そういう人は将棋ペンクラブチームから出ないで、他の強豪チームから参加している。もしそういう人たちが将棋ペンクラブチームから出てくれたら強豪チームとなろうが、そうなると現在核となっている人たちはまったく用無しとなる。なにかのチームが強くなるためには、「鍛錬」ではなく「入れ替え」が必要なのだ。
 
 ときおり、他の強豪チームに入っていた実力ある将ペン会員が、将ペンチームに入ってくることがある。我々を助けるためではない。その人が齢とって、強豪チームの在籍するクラスで通用しなくなったからだ。
 
 そういった人たち、腕はたいして落ちていない。齢とって何が最も落ちるのかというと、『時計』の扱いだ。
 
 時計とは、以前『1手30秒!』の記事で書いたチェスクロックのことだ。それがどういうものか分からない人もいるので、その記事に載せた説明を再掲する。

 将棋を知らない人は、それがなにか分からないだろう。『対局時計』と書いた方が分かりやすいかもしれない。将棋や囲碁、チェスなど、ボードゲームをするときに、お互い考える時間が公平になるようにする機械のことだ。
 
 時計は1台に、対局する人数分、つまり2つ付いている。上記表題の画像はデジタルだが、アナログのもある。使い方は、たとえば1手につき30秒と設定すると、指す方の側の時計が30から減っていく。0になると時間切れで負けで(ピーッとかなりの音が鳴る)、それまでに指さなくてはならない。指したら、その指した手で(逆の手で押すのは反則)時計の上のボタンを押す。すると自分の時間が止まり、今度は相手の時間が減っていく。相手が指してボタンを押すと、自分の時計がまた30から減っていくということになる。
 対局時計には、情けがない。やさしさもない。ただただ冷徹に秒を刻んでいくだけだ。また刻むだけならまだしも、合図の音も鳴らすのだ。時計は10秒ごとにピッと音を鳴らす。1分で設定すれば、50秒、40秒、30秒、20秒の地点でだ。そして10秒以下は、1秒刻みでピッピッと鳴らす。それが、真剣に考えている人間にどれだけの重圧をかけることか! 

 
 この時計は本当に厄介だ。時計の刻む時間に意識がいけば、悪手を指してしまう。しかし盤面に集中すれば、時計を押し忘れてしまう。
 
 社団戦という将棋の大会は、30分の持ち時間がなくなると、1手につき30秒で指さなければならない。持ち時間が切れて1手に付き決められた秒数で(多くは30秒や20秒)指さなければならない状況のことを、「秒読み」という。その「秒読み」に入る時というのは終盤なので、とてもせっぱつまった状態だ。お互いの攻め駒が相手の玉に迫り、自陣の囲いは崩されている。攻めも守りも考えなければならない。また、ちょっとでも間違うと、一気に敗勢になってしまう。
 
 上記で、持ち時間が30分と書いたが、そんなに長く考えられるのかと思う人が多いかと思う。しかし30分という時間は、じっくり考えるには、とても短い。競馬をやる人は、準メインが終わってから、メインレースの検討をまっさらな状態で始めることを想像していただきたい。準メイン終了後に初めて枠順を見て、検討して購入するのだ。締め切り時間までに、とても検討などできないはずだ。どうです、4半刻なんてアッという間! ということが分かるでしょ。
 
 そしてその、じっくり考えるには短い30分という時間がすぎたときに訪れるのが、「秒読み」地獄なのだ。
 
 チェスクロックがピッと10秒を伝え、そしてまたピッと20秒を知らせる。それから1秒ごとにピッ、ピッ、ピッ。最後の5秒はピ――という連続音。もう時間切れだぞっ! 負けだぞっ! と機械が急かすのだ。
 
 そこでなんとか指した。しかしホッとしてなんていられない。相手がどう指すかを、相手の「秒読み」の間に考えなければならないからだ。相手の時間だからと気を緩めていたら、次の自分の30秒で応手を考えなければならない。それでは、とても間に合わない。なので、相手の「秒読み」時にも、どう指してくるか考え続けなければならない。
 
 それでも、相手が意表の手を指してきて、パニックになることなどしょっちゅうだ。
 
 つまりは「秒読み」に入ったら、もういっときも気を緩める時間がないのだ。
 
(その2へつづく)

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