(13)九州に踏み込む儀式
(今はなくなってしまった東京駅12・13番線ホームの、夕方から深夜にかけての風景を綴った連載)
この連載の(11)で、子ども時分に抱えていた「反新幹線」の意識のことを書いた。ブルートレインに凝るあまり、ブルートレインが鉄道界の王者で、新幹線より上だと思い込みたかったのだ。
なにをもって上と定義するかなど、分からない。子どもの意識なので曖昧だ。とにかく、新幹線を上回っているぞ! 新幹線とちがうゾ! と思えるところを、熱心にかき集めた。
それが、先の記事でも書いたが、「九州各地に伸びている」というところだった。新幹線より走行距離が長く、新幹線の届かない県まで直接届く。これは王者の風格と言ってもいい。
しかし、やはり後発の新技術に既存のものが優るところなど、そうあるものではない。ぼくは今度、子どもならではの勝手な解釈をした。
それが、九州まで延びるブルートレインの、関門トンネル通過時の気動車入れ替えだった。これは新幹線では行われず、ブルートレインの『特別待遇』と取ったのだ。
九州へと向かうブルートレインは、本州の端の下関で、それまでけん引していた気動車を付け替える。そして関門トンネルをくぐって門司に着くと、そこでまた付け替える。つまり、関門トンネル通過用の『特別!』な気動車があったのだ。
それが、これ。
EF81のステンレス。関門トンネル通過にだけ使われる、たった4台しかない希少な気動車だ。
関門トンネルは水滴が落ち、また湿気も強いためにステンレス製のものが作られた。ここの地点だけに使われる、特殊車両だ。
九州に向かうブルートレインは下関で朝日を浴びながら、牽引車をこのステンレス製EF81に付け替える。それは新幹線をはるかに凌ぐ距離を走る最優等列車の、厳かな儀式に映った。鈍い光を放つ気動車は、ぜいたくな眠りから覚めた乗客たちを乗せて3,5キロほどの長さのトンネルに入り、九州の地に上陸する。
再び陽の光を浴びたステンレス車はたった1駅だけの役目を終えて、門司駅で付け替えられる。となりは、小倉。ブルートレインブームと合わせるように政令指定都市となった北九州市の、中心地。しかしEF81はそこに列車を運ぶことはない。ワンポイントの起用なのだ。
その行程に特殊車両を用意するブルートレイン。EF81ステンレスは、子どもの短絡的なひいき目を成立させ、満足を与えてくれる気動車だった。
(こちらはステンレス製でない、一般的なEF81)
(14)につづく
※連載終了時には電子書籍にしてしまうので、記事は削除します。コメントをいただいた場合も一緒に削除されますので、ご了承ください。
書き物が好きな人間なので、リアクションはどれも捻ったお礼文ですが、本心は素直にうれしいです。具体的に頂き物がある「サポート」だけは真面目に書こうと思いましたが、すみません、やはり捻ってあります。でも本心は、心から感謝しています。