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オンライン広告のターゲティングは本当に効果的?FacebookとSpotifyの実証実験が示す意外な事実
1.はじめに
デジタル広告の世界では、「ターゲティングが重要」というのが常識になっています。
しかし、選択肢が増えすぎた今、どのオーディエンスを狙うのがベストなのか、確信を持てているマーケターはどれくらいいるのでしょうか?
また、そもそもの話としてターゲティングは本当に効果があるのでしょうか?
私が抱いている疑問を解消するために今回はワーウィック・ビジネススクールのイマン・アフマディ准教授、ウィーン経済大学のナディア・アブ・ナバウト教授、フランクフルト大学のベルント・スキエラ教授らが行った最新の研究を参照してみたいと思います。
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FacebookとSpotifyの広告データを活用し、ターゲティング戦略の収益性について新たな知見を明らかにしています。
2.ターゲティングの選択肢が多すぎるとどうなる?
FacebookやGoogleの広告プラットフォームでは、年齢、性別、興味関心、行動履歴など、数百ものオーディエンスセグメントを提供しています。
しかし、ターゲティングの選択肢が増えすぎると、逆に「どれを選べばいいのか分からない」という問題に直面します。
P&Gのチーフブランドオフィサー、マーク・プリチャード氏も「ターゲティングしすぎて範囲を狭めすぎた」と語っており、適切なバランスを見つけることの重要性を強調しています。
3.Facebookの実験が示した意外な結果
研究チームはFacebookの広告データを使い、「広いターゲティング」「狭いターゲティング」「ターゲティングなし」の3つの戦略を比較。
結果、ターゲティングした広告のクリック率(CTR)は若干向上したものの、収益性にはほとんど影響を与えませんでした。
特に狭いターゲティングを行った場合、広告コストが増加し、ターゲティングなしの広告と比べても利益が上がらないケースが多く見られました。
この結果は、「ターゲティングすれば必ず広告のROIが向上する」という考えが必ずしも正しくないことを示唆しています。
4.Spotifyのデータが示すターゲティングの限界
さらに、Spotifyの広告データを分析したところ、半数以上のオーディエンスセグメントは、ターゲティングなしの広告よりも利益を上げるにはクリック率を2倍にする必要があることが判明しました。
特に狭いターゲティングでは、CTRを150%以上向上させなければ収益がプラスにならないことも。現実的に考えて、これだけの成果を出すのはほぼ不可能です。
5.AppleのATTがターゲティングに与えた影響
Appleの「App Tracking Transparency(ATT)」導入後、広告のデータ精度は大きく低下しました。
この研究では、ATT導入前後のFacebook広告データを分析し、ターゲティング広告のパフォーマンスがどう変化したかを検証。
その結果、特に狭いターゲティングを行っていたキャンペーンではクリック率が大幅に低下し、ターゲティングの効果が著しく悪化しました。
データの質が低くなると、ターゲティング広告のメリットが失われる可能性が高いことが分かります。
6.じゃあ、どうすればいい?
この研究結果から、マーケターが考慮すべきポイントは以下の通りです。
Point1.ターゲティング前にシミュレーションを行う
どのくらいのCTR・CVR向上が必要かを事前に計算し、収益性を確認する。
Point2.狭すぎるターゲティングを避ける
細かく絞りすぎると広告コストが高騰し、ROIが悪化しやすい。
Point3.データの質を見極める
AppleのATTなどの影響でターゲティング精度が落ちる可能性があるため、最新のデータ環境を意識する。
Point4.広すぎず狭すぎず、適度なターゲティングを行う
適度にセグメントを広げることで、広告の投資対効果を最大化できる。
7.まとめ:ターゲティングは万能ではない
オンライン広告のターゲティングは、戦略的に活用すれば有効ですが、単純に「絞れば効果が上がる」というものではありません。
ターゲティングとリーチのトレードオフが引き起こす利益への影響を理解した上で判断することが重要です。
また、ターゲティングのコストやデータの精度を考慮しないと、むしろROIを悪化させる可能性があります。
ちなみに私は事業会社でマーケターとして働いていますが、下記のような会話は少なくない頻繁で社内で起こります。
「結局、リーチを増やすことに予算を使ったほうが儲かるの?あるいは特定顧客層のCVR(購買確率)を高めることに予算を使ったほうが儲かるの??」
ターゲットを絞り込むほどリーチは減りますが、その代わりに「メッセージとニーズの合致度」を高めることができるのではないか?などの議論が続くわけです・・・。
今回のFacebookやSpotifyの実験結果はこのような終わりのない議論に止める力を持っているかもしれません。
つまり、この論文が示唆している重要な点は「広告施策において、リーチの少なさをCTRやCVRの高さで相殺するという考え方は非現実的である」ということです。
上司から無理なリクエストがきた際は今回の論文を提示しつつ現実的な広告戦略を考えていければと思います。
7.参考図書『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』
今回のような実証実験を踏まえた論文は現場で働くマーケターからすると大変有難い情報です。
該当の論文『Overwhelming targeting options: Selecting audience segments for online advertising』は株式会社コレクシア 芹澤 連さんの『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』で紹介されていました。
エビデンスやファクトをベースに施策を推進したい全てのマーケターにお勧めしたい良書だと思っています。
以上です。最後まで読んで頂きありがとうございました。