見出し画像

【読書メモ】マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識

1.はじめに

データサイエンティスト/マーケターの松本健太郎さんがこちらのnoteで紹介していた『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識』読んでみました。

私が関わるWebマーケティングは計測環境の整備や、利用ツールの選定、広告が関わる開発プロジェクトの進行管理など地味だけど重要な裏方仕事が多いと感じています。

本書は上記のような普段は光が当たりにくい仕事の意義を明文化してくれていると感じました。

今回は特に興味深いと思ったポイントをまとめてみようと思います。

2.MOpsが生まれた背景

マーケターは広告運用、コンテンツ制作、イベント運営、データ分析、マーケティングオートメーション(MA:Marketing Automation)の運用まで、実に幅広い責任範囲を任されている。

チャネルやテクノロジーツールは爆発的に増え、その専門性や複雑性も上がっている中、施策の実施に加えて戦術設計も行うのは現実的に難しくなってきている(個人的にとても共感)。

上記のような業界動向の中で、実務者であるマーケターと、テクノロジーツールやプロセス、組織体制などを管理運用するマーケティングオペレーション(MOps:Marketing Operations)という役割に分かれ、それぞれ専門性を持つ動きが米国を中心に広がっている。

まだ日本では語られることが少ないものの、マーケティング部門全体の管理を司るMOpsの重要性は高まっている。

3.マーケティングオペレーションが注目される理由

マーケティングの現場でシステムとデータを活用する専門職が存在する
欧米では「マーケット調査や施策結果の分析をしたうえで、マーケティング施策の企画をする」、「クリエイティブな発想を持ってコピーライティングや広告物を作成する」といった以前からあるマーケターの仕事と、「マーケティングの課題解決にクラウドシステムの仕様を理解し、最適なテクノロジーを導入する」、「収集されたビッグデータを分析し、レポート・ダッシュボードを構築する」といったデータやシステムの活用を推進する仕事は、同じマーケティング組織に属していても、別の部署でそれぞれ別のスキルを持った人材が専任している。

これらの仕事をマルチにこなせる人材など、ほとんど存在しないから。

そして、このデータやシステムの活用を推進する仕事のことを「マーケティングオペレーション( Marketing Operations:略称 MOps)」と呼ぶ。

マーケティングオペレーションとは?
「マーケティングオペレーション(以下 MOps)」という言葉は、外資系や SaaS企業では馴染みがあるかもしれないが、まだまだ日本全体では認知度の低い言葉。

マーケティング組織のデータやシステムの活用を推進するために、マーケティング活動の管理体制やプロセスの構築、そしてその運用を行う役割を指す。

MOpsチームはよく「マーケティングとITの架け橋」と呼ばれており、実際に施策を実施するマーケターとIT担当者の間に入り、業務を進めている。

つまり、IT部門と共通言語で会話ができるくらいクラウドシステムやデータマネジメントの知識が必要とされ、従来のマーケターとは異なるスキルが求められる。

Marketing Ops ProfessionalというMOpsのコミュニティが米国で550人を対象に行った2022年の調査では80%以上の企業が専任のMOps担当・チームがいると回答しています。

マーケティングに関するテクノロジーの数が年々指数関数的に増え、マーケティングチームが取り扱うデータが膨大になっている今、国内でもMOpsのニーズが認識され始めています。

4.MOpsチームの4つの役割

1.自社に最適なマーケティングテクノロジーの選定・導入・管理・運用
マーケティングテクノロジーの選定と導入はMOpsの業務の中でも大変重要かつ難しいエリア。

これを効果的に行うには各ツールに関する知識など技術的な要件はもちろん、自社のマーケティングの現状や戦略、ロードマップなどのビジネス的な要件も理解する力が必要になる。

2.プロセスの策定とベストプラクティスの集約
導入したツールを部門内で活用を進めるためにプロセスを策定することが必要。社内での運用ルールを策定し、ノウハウを一元化することで全社的なテクノロジー活用を推進する。

3.データマネジメントと分析
マーケティングチームが扱うデータは膨大になってきている。

他部門と連携し、マーケティングが収益に与えた影響を可視化するためには高度なデータマネジメントと分析スキルが求めらる。

DMPやBIツールの知識、そして分析に必要なRやPythonなどのプログラミングの知識が求められることもある。

4.マーケティングチームのテクノロジー教育
プロセスを決めてもチームメンバーがその通りに動いてくれなければ意味がない。文書やセッションなどを通して正しいツールの使い方や社内のルールなどを伝えることもMOpsの大事な業務の1つ。

5.MOpsと従来のマーケターとの違い

MOpsはマーケティングチームに所属しますが、施策の企画や実際の実行などは行わず、バックエンドの管理やプロセスの管理・運用を徹底することで、営業案件の創出を担当するマーケターの効率化を図る。

MOpsの業務は一言でいうと、「人、マーケティングテクノロジー、マーケティングプロセスを横断的に俯瞰しながら戦術を作りメンテナンスすること」。

MOpsにとっての顧客はマーケティングチームで、彼らの業務は全てマーケティングプロセスマネジメントや効率性の向上に向けられており、施策の運用などの実務を行うフィールドマーケターたちが所属するマーケティング部門全体を管理する立場にある。

一方、実際に施策の企画や実行を担当するフィールドマーケターは従来通り、ターゲットに対して効果的な施策を熟考し、デジタル広告やイベント、メールなど様々なチャネル上で実行に移すところまでを担当する。

このように明確な責任範囲があることはとても重要です。

日々施策を大量に実行しているフィールドマーケターにMOpsの業務内容もやってもらうのは現実的ではない。

スキル面の課題がありますが、業務量的に難しいでしょうし、効率性を考えても管理者と実務者の責任範囲は明確に線引きするべき。

ものづくりの生産現場でも部品の組み立てをする方と機械のメンテナンスや管理をする方は違う。

これと全く同じことで、管理者であるMOpsは施策の生産性を上げる環境づくりに、実務者であるマーケターは営業案件創出の戦略・戦術設計に集中する、といったように専門性を持って協業することでマーケティング部門全体の効率性を高めるアプローチがマーケティングの世界でも取られている。

6.MOps担当の役割詳細

①マーケティングツールの要件定義から導入
マーケティング部門が使うツールの数は増加傾向ですが、要件定義をせず、現状を理解しないまま最先端のシステムを導入しても、宝の持ち腐れ状態になってしまうケースが多々ある。

デジタル時代の今、ツールの選定と運用はマーケティング戦略や戦術に直接的に影響するため、テクノロジーを正しく理解・選択し、適切なツールの選定・導入・運用をするスキルが重要視されている。

これこそ、 MOpsの第一の役割。適切なツールを選定するには技術的な知識はもちろん、自社のマーケティングの現状や戦略、ロードマップなどのビジネス的な要件も理解する必要がある。

MOpsが存在しない場合は、ITチームがこれを行う場合が多い。

しかしマーケティングツールの管理者が部署外だと様々な支障をきたします。問題があるたびに彼らに頼らざるを得なくなり、ツールの知識やベストプラクティスは部内に蓄積されません。

IT部門はもちろんマーケターではないため、現場に合ったツールの使い方や、施策運用に最適な設定などを必ずしも理解しているわけではない。

ツールを最大限活用するためにも、マーケティング部署内でツールの検討、導入・運用、プロセスの策定、さらにはベストプラクティスの集約などを行う必要がある。

②マーケティングテクノロジースタックの構成と管理
マーケティングツールの要件定義や導入は、結果的にマーケティングテクノロジースタックを構築することにつながる。

マーケティングテクノロジースタックとは、「指数関数的に増えるマーケティングテクノロジーの中から適切なツールを選択し、適切に組み合わせて計画的に活用するためにポートフォリオを構築すること」と定義されている。

ソーシャルメディア管理ツールからMA、 CMS、広告プラットフォーム、BIツールまで多様なツールを使用する中で、各ツールが素晴らしい機能を持っていても組み合わせによっては協調性が欠け、各ツールの利点がつぶれてしまうことがあります。

この話はよくオーケストラにたとえられますが、音色の全然違うバイオリンを集め、オーケストラのサイズに合わない特大シンバルを買ってしまっては指揮者がどんなに頑張っても素敵な音楽にはなりません。

マーケティングテクノロジースタックもそれと同じで、目先のニーズだけに捉われず組み合わせた時の全体像や1、3、5年後に向かいたい方向を踏まえて各ツールを選定することが大変重要。

マーケティングテクノロジースタックはマーケティング組織の成熟度を測る1つの方法でもあるため、欧米では自社のマーケティングテクノロジースタックを公表する会社もあるほど。

次の記事はマイクロソフト社のマーケティングテクノロジースタックの例です。記事内の図では彼らがマーケティングを行うのに使用しているツールが目的ごとに分けられている。これだけの数のツールをそれぞれ連携し管理運用するのは容易ではありません。

便利なツールが増えたのは喜ばしいことですが、選択肢が広がっているからこそツールを選択する私たちの眼が大事になっている。

マーケティングテクノロジースタックの設計はこれからのマーケティング活動の可能性や効率性を大きく作用するため、 MOpsが「マーケティングテクノロジースタックの専門家」として主導する必要がある。

③データマネジメントと分析施策の効果検証から収益分析まで専門的にデータを分析・管理
マーケター全員にこのスキルを身につけさせるのは非常に難しく、各施策の効果検証から年次のマーケティングの収益への効果分析まで、専門的にデータを取り扱うのもMOps。

データ分析や管理においては欧米のMOpsチームでも苦労しているポイント。

BrandMaker(現 Uptempo)による2021年の調査※でも米国CMO・VPレベルの回答者の65%がオペレーションデータを意義あるインサイトに変換することに苦戦しており、41%はデータソースが多すぎて苦戦していると答えている。

このデータからもわかるようにデータ分析や管理ができる人材はMOpsの中でも特に貴重であり、人材獲得競争の激化や人材育成が強化されている。

※出所: BrandMaker「 The 2021 State of Marketing Operations, A CMO Survey」
https://blog.acens.com/wp-content/images/2021-state-of-marketing-operations-cmo-survey-informe-blog-acens-cloud.pdf

④マーケティングチームのテクノロジー教育マーケティングチームのテクノロジー知識の標準化を担う
もう1つの MOpsの重要な役割、それがマーケティングチームのテクノロジー教育。

どれだけ緻密に標準化された運用方法やプロセスを決めてもチームメンバーが理解して守ってくれなければ意味がない。

文書や研修などを通して正しいツールの使い方や社内のルールなどを教育することもMOpsの大事な業務の1つ。

毎月数時間、フィールドマーケティングチームからの質問に対応するオフィスアワーを定例で設ける場合もあれば、ニーズに応じて研修を行う場合もあります。

新入社員のオンボーディングプロセスもMOps主導で行うことも多くあります。自社のマーケティングテクノロジースタックの紹介や各ツールの使用方法や権限、ルール、問題が起きた時のエスカレーション方法などを教育します。

しかし「データのエキスポート方法がわからない」「 MAツールでマーケティングプログラムを複製する方法がわからない」など、細かい質問を受けているとその対応で時間が取られて、気づいたら MOpsが雑務係と化してしまう例もあります。

それを防ぐためにも、先述したようにチーム全員がアクセスできる社内 Wikiなどにツールの使い方や社内プロセスなど文書化したものを全て集約し、いつでも誰でも確認して自己解決できるように工夫する必要がある。

ただ、MOpsはあくまでもマーケティングテクノロジーツールの使い方や部門内のテクノロジーに関する知識の標準化という責任を担っているため、その他の一般的な人材育成やトレーニング(コンプライアンス・IT)は人事部などが主導で行う。

7.著者がシリコンバレーのスタートアップで学んだこと

廣崎さんの教育系スタートアップでの経験
日本上陸直後だったマルケト(現アドビ)にて MAが実現する高度なデジタルマーケティングの世界について学んだ筆者(廣崎)は、米国の大学院を経てシリコンバレーの Cousera(コーセラ)という教育系スタートアップにエンタープライズビジネスの立ち上げメンバーとして入社しました。

当時まだ日本で普及していなかったMAはすでにマーケティングチームの必須ツールであり、組織的な運用が当たり前。

廣崎さんはシリコンバレーの現場で実務をする中で、コンセプトとして理解していた内容を自分が納得する形で昇華させることができたとの事。

1.戦略よりも戦術に時間をかける
マーケティング戦略を練ることはもちろんですが、戦術設計に時間をかけてディスカッションすることに大きな特徴だったとの事。

例えば、マーケティング施策を1つローンチするのにも、「5人体制で、 10万円の予算をA・B・Cという3つのチャネルに分けてプロモーションする」方がいいのか、それとも「ツールを導入することで必要人員数を2人に減らし、同じ予算をAチャネルだけに投じる」方がいいのか、期待できるROIや収益への影響をもとにベストプラクティスを推測し、実際の施策でデータを集めることで仮説を検証していくというプロセスに大変力を入れていた。

成功ケースからベストプラクティスを抽出するのはもちろんのこと、予測したROIを出せずに失敗したケースでは使用したチャネルが原因なのか、予算が原因なのか、それともそもそもROIが見込めない施策だったのか、徹底的に検証する。

これを繰り返していくことで施策データが蓄積し、地域や対象業種業態、製品サービス、そして施策タイプごとのノウハウが確立されていた。

当たり前のような話に聞こえますが、このようにデータドリブンな意思決定プロセスでマーケティング戦術を熟考できている組織は残念ながら多くないとのこと

そして、これらの過去データは施策担当者の頭の中にとどまるのではなく、全社に共有されるため、ノウハウや知識が組織に吸収されてマーケティング戦略および戦術がどんどん洗練されていく仕組みになっている。

2.緻密なマーケティング計画とカレンダー
「欧米人は大雑把だ」というステレオタイプな考え方を持つ傾向にあるが、実際のマーケティング現場では非常に計画的に緻密なマーケティングを実現しているそう。

最低でも半年先、もしくは1年先までのマーケティングカレンダーが決まっているのが当たり前。

このカレンダーは「6月にXという展示会に出展する」や「9月にYに関するウェビナーを開催する」などの粗い粒度のものではなく、「9月X週目のウェビナー集客用ランディングページ作成を7月Y週目にリードタイム3日間で完成させる」や「11月X週目の自社イベントのMAプログラム作成を7月X週にリードタイム1日間で完成させる」など、各施策を実現するのに必要なアクションアイテムレベルに落とし込んだものであり、これら全てが半年から1年先までプロジェクト管理ツールに登録されている状態。

このレベルで先々まで計画できる、ということはプロセスが確立していることを意味しています。組織的にマーケティングプロセスを運用すると過去データから目標達成までに必要なマーケティング活動量や施策数が見えているため、それを必要工数に落とし込んだ計画が立てられる。

3.意思決定能力を育てるキャリアパス
プロセスが確立され各チームメンバーの業務も全てツール上で管理されることで、タスクを担当する実務者にとって機械的な作業に感じたり、クリエイティビティを発揮したりする場面が限られるようになる。

だからこそ、実務の現場ではエントリーレベルの方にEメール施策やイベント運営など細かいタスクが出やすいプロジェクトで経験を積んでもらい、マネージャーレベルクラスに昇進した後に予算分配をどうするか、どのイベントに出資するべきかなど、データをもとに自分の意思決定を下せるようにキャリアパスと役割分担が明確に分けられているのです。

CMOやダイレクトレポートを抱えるポジションでは定期的に現場からフィードバックをもらうことが重要になるでしょう。

8.最適なターゲット層を導き出すデータ活用の方向性

ターゲット層の設定
どのようなマーケティング活動でもマーケターは、まず商品やサービスを売り込むマーケットを特定する。

自社の商品やサービスを販売できる可能性のあるマーケット全体の規模である TAM(Total Addressable Market)と、その中で自社の製品やサービスのターゲットにできるセグメントであるSAM(Serviceable Available Market)、そして、サービスの販売が可能なマーケットや市場占有率など自社が現実的に獲得できるセグメントであるSOM( Serviceable Obtainable Market)を設定します。

マーケティングオペレーション(MOps)の教科書 専門チームでマーケターの生産性を上げる米国発の新常識

ここで言うターゲット層とは、SOMを含むSAMのエリアと考える。

このターゲット層の設定が明確でないと、マーケティング施策の方針がぶれてしまい、顧客に一貫したブランドメッセージを届けることは困難。

ターゲット層が変われば、対峙する競合や提案する価値、ペルソナも全て変わるからです。  

全てのマーケティング活動において、 TAMの定義はもちろんですが、SAMやターゲット層の定義も極めて重要です。データに一貫性がないのは、この定義を明確にしないままマーケティング施策やテクノロジーを活用しているからです。 そして、ターゲット層はオープンデータやウェブフォームのデータなどをもとに定義できるものでなければならない。

企業データベースを活用したターゲット層の絞り込み
日本ではユーザベース社が提供する「SPEEDA」や「FORCAS」、ユーソナー社が提供する「uSonar(ユーソナー)」などのツールを使うと自社がターゲットとする企業リストを簡単に抽出・作成できる。

つまりターゲット層の大きさが即座に把握できるということ。最近ではスタートアップに特化した企業情報や、使用しているテクノロジーや顧客データベースの大きさ、または最近の企業活動のハイライト(例えばスタートアップであれば資金調達をした)など、一般に公開されていない情報でも絞り込みができるようになっている。

これらのデータベースサービスを活用することで、よりスピーディーにターゲット層の規模、動向などを一覧で把握できる。

ウェブ上のデータを活用した競合分析
競合より多くのマーケットシェアを獲得するためには、競合の分析も重要です。これまで競合調査といえば内部データをどうにかして入手しない限り、有益な情報を得るのは大変難しいものだった。

しかしタッチポイントのほとんどがデジタルに移った今、競合他社の様々なデータを簡単に分析できるツールがたくさん出ています。競合がウェブ上でターゲットにしているキーワードやそれに対するパフォーマンスや広告出稿状況、ソーシャルメディアのパフォーマンスデータなどを簡単に比較できる。

競合分析の代表的なツールとしてSemrushや Ahrefsが挙げられます。これらのツールでは競合他社がどのような広告を出稿しているのか、どのような自然検索キーワードで集客しているのか、そしてこれらのキーワードが自社とどのくらい重複しているのかなど、ウェブ上のマーケティング活動を簡単に分析できます。

競合のキーワードやウェブの流入戦略を分析することで、自社が狙うべきキーワードなどを的確に特定できるのはもちろん、価値提案やコピーライティングなどの差別化も図ることができるのです。

サードパーティ・インテントデータの活用
ここ数年グローバルで注目を浴びているのが、インテントデータ。

インテントデータとはウェブサイト上の様々なコンテンツの消費行動から推測される興味関心に関するデータを指します。サードパーティ・インテントデータプロバイダが提供するデータを使うと、自社のウェブサイトにまだたどり着いていない、もしくは読み取りきれない潜在顧客の広範囲な興味関心トピックやその度合いを把握することができます。

サードパーティ・インテントデータを提供するプロバイダの代表格として「Bombora(ボンボラ)」や「IntentData. io(インテントデータ・アイオー)」などが挙げられる。インテントデータの収集方法はそれぞれ異なる。

Bomboraは全世界4,000以上の事業者が集まるデータコープを保有しており、そこにダイレクトタグを埋め込むことで様々なB2B購買インテントデータを常時収集しています。

一方、IntentData. ioは、ウェブ上で一般公開されている情報をもとにしたインテントデータを提供しています。中にはサードパーティクッキーやIPルックアップに頼っているブラックボックスソリューションも数多くあります。

この種のベンダーのデータクオリティはたいてい低く、加えてサードパーティクッキー廃止の動きを考えるとスマートな選択ではありません。

サードパーティ・インテントデータを使う最大のメリットはターゲット層や潜在見込み顧客を早期に特定できることです。つまりターゲット層のリストの中で「今、自社の製品やサービスに関心がありそうだ」という企業の目星を付けることができる。

9.B to Bマーケティング文脈で勉強になるポイント

代表的なクオリフィケーションプロセス
レベニュープロセスにおける代表的な中間指標、クオリフィケーションのポイントをいくつか紹介。

・MQL( Marketing Qualified Lead)
マーケターと営業の間で定めた基準をクリアした有望なリード

・SAL( Sales Accepted Lead)
営業が案件化への対応を承諾したリード

・SQL( Sales Qualified Lead)
営業が案件化可能と判断したリード

スコアリングの方法
MQLかどうかは、MAに備わる「スコアリング」の機能を使い、先ほど解説したMQL基準に沿って点数をつけて判断していく。

点数は「属性スコア」と「行動スコア」の2つの基準でつけることが一般的。

属性スコアでは、ターゲット企業の属性(業界:自動車業界、従業員数: XXXX名以上、年間売上高: XXXXX円以上、所在地:日本または東南アジアなど)と、その企業の属性ごとにバイヤーペルソナ(所属:購買部門、役職:部長クラス以上など)を定め、点数をつける。

まさにこれは8.「最適なターゲット層を導き出すデータ活用の方向性」で記載したターゲット層そのもの。

行動スコアでは、ウェブページへの訪問、フォームへの入力、ウェビナーへの参加といったリードの行動を収集して点数をつける。

属性と行動の2軸で加点や減点のスコアを決め、それらを自動的に計算するのがスコアリングの機能。属性スコアは「自社がターゲットにしたリード」、行動スコアは「顧客側の現在の興味度合い」を表し、この2つの観点の掛け合わせによる評価で点数が加算される。そしてある一定の数値をMQLのしきい値と定め、定義する。

10.その他興味深いと思ったポイント

アイデアよりも活動量を重視する/優秀なマーケターでも勝率は3割
このように目標値から逆算して必要なマーケティング施策まで落とし込むと、多少うまくいかない施策があったとしても当初の目標値から大幅にずれる可能性が低くなります。

「バズる」という言葉で表現されるように、非常に高いパフォーマンスを発揮するマーケティング施策もありますが、このような施策を百発百中で当てられるマーケターはこの世の中に存在しません。

どんな優秀なマーケターでも施策の勝率は3割程度です。いくつかの施策がうまくいかなかったからといってマーケティングの予算がカットされたり、マーケティング人材に投資をしないなど、腰を据えてマーケティングに取り組めない場合はマーケティングの効果を得ることは難しくなる。

クリエイティブなアイデア施策で一発逆転しようと考える方が多いですが、9回裏2アウトからの満塁ホームラン大逆転を狙うより、コツコツ1回の裏から得点を積み重ねるという、一定の効果を出し続けながら活動量を確保し改善を繰り返していくやり方の方が目標の達成確率がはるかに向上します。

DevOpsから学ぶ効果的なプロジェクトマネジメント
もともとこのプロジェクトマネジメントの概念は DevOps(Development and Operations)※と呼ばれる、開発現場を統括する専門部隊で用いられていたもの。

細かなタスクが大量に出る開発現場ではタスク完了までにかかるリソースをスマートに分配するため、オペレーションを構築する必要性に早い段階から気づき、プロジェクト管理ツールなどを用いたチケット制のモデルを確立させました。

この動きがカスタマーサクセスやマーケティングなど会社組織の他部門に順々と広がっていった。

DevOpsとは?概要やアジャイル開発との違い、メリットなどを解説します | ニフクラ
DevOps(デブオプス)とは、「開発(Development)」と「運用(Operations)」を組み合わせた造語です。簡単に言えば、「開発担当と運用担当が緊密に連携して、柔軟かつスピーディーにシステム開発を行う手法」のこと。

11.MOps関連の記事まとめ

グローバルのテクノロジースタック
欧米ではマーケティングテクノロジースタックを広く共有している企業も多く、その例も様々。最近では単に効率的なテクノロジースタックを構築するだけではなく、顧客中心主義のテクノロジースタックを作ることが重要視されている。

マーケティングテクノロジーツールのカオスマップ
過去10年間でマーケティングテクノロジーツールの数と種類は爆発的に増え、スコット・ブリンカー氏がchiefmartec. comで公開している代表的なマーケティングテクノロジーツールのカオスマップ(2022年)には実に9,932に及ぶツールが掲載されました。

カオスマップの作成を開始した2011年の150に比べると実に66倍以上の数に増加しており、テクノロジーの発展のスピードを実感させる数字になっています。

11年前と比べると、カオスマップに載っているツールの複雑性も大変高くなりました。

複数のツールを組み合わせて効果を最大化するテクノロジースタックの設計
ポイントソリューションを組み合わせて柔軟なテクノロジースタックを構築する取り組み関して、ガートナーが記事を作成している。

・What the Best Digital Brands Do Differently
https://www.gartner.com/en/articles/what-the-best-digital-brands-do-differently

・Improve Marketing Technology ROI With Strategies From Top Brands
https://www.gartner.com/en/marketing/insights/articles/improve-marketing-technology-roi-with-strategies-from-top-brands

ガートナーは1,600を超える製品をポイントソリューション、マルチツールソリューション、スイートソリューションに分類した。ポイントソリューションは、単一のソリューションを提供するベンダーの製品、マルチツールソリューションは、 2~3のソリューションを提供するベンダーの製品、そして統合型スイートソリューションは、4つ以上のソリューションを提供するベンダーから提供される製品と定義している

代表的なMAツールだけでも356種類
米国の製品比較サイトG2に挙げられているMAのツールは次図のように356種類にもおよびます(2022年12月現在)。

・Best Marketing Automation Software
https://www.g2.com/categories/marketing-automation

日本語対応していないものもありますが、この中から最適なソリューションを選定、導入することも MOpsにとっては大切な仕事となります。

MQLのスコアリングの方法について
業種業態によってスコアリングの方法は変わるが、属性データのマッチが重要なB2Bビジネスでは、次図のように一定属性スコアがあれば行動スコアが低くてもMQL化されるようなリードスコアリングモデルを運用している企業も多い。同書内で紹介されていた記事は下記。

TAM、SAM、SOMとは?意味や活用シーン、計算方法を具体例を交えて解説


Marketing Technology Drivers of Genius Brand Performance
2020年にガートナー社のアナリストであるベンジャミン・ブルーム氏が発表したMarketing Technology Drivers of Genius Brand Performanceという調査レポートは、デジタルIQ(デジタルIQスコア)というガートナー社が独自に開発した、デジタルパフォーマンスを評価する指標と、マーケティングテクノロジーの活用度合い(多さ)の相関性の分析結果が掲載されています。

・Marketing Technology Drivers of Genius Brand Performance
https://www.gartner.com/en/marketing/research/marketing-technology-drivers-of-genius-brand-performance

このレポートではGeniusと名付けられたデジタルIQの高いトップブランドは、大手企業(グーグルやアドビ、セールスフォース)の統合ソリューションのみならず、個別かつ細部にわたる利用シーンで使えるポイントソリューションを含めた複雑なマーケティングテクノロジースタックを構築していることがわかった。

様々な機能が備わっている統合ソリューションで固めるだけでなく、特定機能に特化したツールをつなぎ合わせることで、より良いカスタマーエクスペリエンスを提供している。

MOps職種の市場価値について
欧米でも人材獲得競争が激化しているため、それに伴い給与レンジも上昇傾向にあります。 chiefmartec. comによる2022年の調査ではMOpsを含む、マーケティング部門のプロセスの統合をリードする人材(通称 Maestro)の給与はデマンドジェネレーションやブランド活動をリードしている担当よりも 26.6%高いというデータも出ているほど、需要の高いポジションになっている。

CMMIモデル
CMMIモデル(組織がプロセス改善を行う能力を評価する指針)に当てはめて考えてみると、多くのマーケティング組織がレベル1もしくは2に属しているのが現状との事。

MOps(マーケティングオプス)の他部門との関わり
Sales Ops, Customer Success Ops, Growth Ops, Web Ops, Loc Ops, Product Ops, Data Ops, Partner Opsと実に様々な部門と関わっているのがわかります。レベニュープロセスにおけるマーケティングの責任範囲が増えている今、このように様々な部署と連携しながらデータの活用をすることは大前提になっている。

米国の大手リサーチ会社、ガートナーが2021年にグローバルのCMOに対して行った調査(Gartner CMO Spend Survey 2021)によると、最も多くの予算を費やすと回答した分野として「デジタルコマース(12.3%)」、次に「 MOps(11.9%)」が挙げられている。

以上です。
引き続き勉強を続けます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?