2022ファジアーノ岡山にフォーカス29 J2:第8節:山形 vs 岡山(Away)『 溢れ出す想い 』
2022 J2 第8節 (再試合・Away)
モンテディオ山形 vs ファジアーノ岡山
『 溢れ出す想い 』
この試合に関しては、様々な立場の人から様々な意見や声が出ていた。ルールを尊重すべきであることは理解できる。しかし、激闘の末に掴んだ勝ち点3が、一度は消滅してしまった事実は重く、山形側としても、勝ち点0を勝ち点3に変えるチャンスではあるものの大きな声を出し難い側面もあり、両チームのサポーター同士の負の声がでてしまっていたのも致し方ない。
両チームが、約5か月の間、悶々とした気持ちのまま迎える事となったこの再試合。声出し応援ができることが救いかもしれないが、この気持ちは、再び勝利する事で晴れるのか。そして、関係が険悪になった部分は、元に少しでも戻す事ができるのか。岡山と山形のサポーターだけではなく、多くの方にも注目された一戦は、間接FKから再開されて、再び90分間(79分+AT)の激闘が幕を開けた。
注目されたメンバーの変更点
コロナの影響があるとはいえ、5か月も経てば全くの別チームだ。
1、決壊した想い
試合後に木山 隆之監督の試合前の気持ちについて、こう語っている。
不満があってもそこに試合があれば、全力を尽くす。間接FKにもしっかり時間を割いてきた岡山。
23ヨルディ・バイスの試合後コメントからも相当準備した事が伝わって来る。
確かに、念入りに練られた間接FKだった。実際に蹴るまでの駆け引き。再開直後に直ぐに蹴るのではなく、わざとフェイントを入れて、山形の選手に飛び出させて、警告を狙っていく岡山。実際に、一度目は、最初のフェイントに、山形の選手が、簡単に引っ掛かり飛び出して、注意を受けた。
2度目は、何人もフェイントを挟み、溜まらず動いてきた所で、すぐにアピール。これで、非常に動き辛くなった山形。
3度目の正直か。しかし、なかなか動きをみせない岡山。逆に笛を吹かれても不思議ではないほど焦らしていく。そして、数秒の沈黙のあと素早くパスを後方に出し、27河井 陽介がボールを止める。前の選手は、外に展開し、シュートの邪魔にならないようにコースを開く。23ヨルディ・バイスは、止まったボールを強く正確に蹴ることを意識したと思われるシュートは、出足が遅れた山形選手の頭上を越えて、右隅に突き刺さった。岡山が、先制に成功した瞬間だった。
蹴る側の岡山が色々と、準備できることがあっても、山形側が、準備できることは限られる。配置や相手の取る動きを予測し、約束事を共有することぐらいである。
実際に、対策は難しかった事が伝わる山形の2山崎 浩介選手の言葉。
対して、岡山は、感覚派の選手も多く、色々な形を用意しつつ、得点ができる形を模索できていたことで、この先制点に繋がった。
5柳 育崇は、こう語っている。
普段の試合や練習で、想定した練習することはほぼ0であり、それだけに良く準備された(デザインされた)間接FKの攻防は、最初にして最大の見せ場であったかもしれない。そして、ここで得点できた事は、このゲームの勝敗を大きく左右するものとなった。
実際の間接FKの公式動画
【フル】焦らして焦らして仕留めた!完璧にデザインされた間接FKで奪った先制ゴール|2022明治安田生命J2リーグ第8節 山形×岡山
2、繋がる想い
この試合への想いが強かったのは、岡山だけではない。山形も約30試合リーグ戦を戦ってきた中で、サッカーを着実にアップデートしてきた。山形も岡山同様に、コロナというアクシデントで、主軸選手や監督が、欠場に追い込まれて、この試合を迎えた。
山形のピーター・クラモフスキー監督もコロナの影響で、佐藤 尽コーチが指揮を執っている。岡山の木山 隆之監督が、もし、コロナで陽性となってしまった場合に、勝つことができたどうか考えると、如何に厳しい状況であったかよくわかる。
試合の方は、山形ペースで推移する。高速なパスワークと多彩で高精度のクロスの2枚看板が武器の山形のサッカーに対して、11宮崎 智彦ではなく、4濱田 水輝が、左CBに入っていた。中2日の疲労も考慮していると思うが、ある程度、岡山が、守勢に回る事を意識しての起用であったことは間違いない。
警戒感とリスペクトの高さを感じる木山 隆之監督の言葉
この言葉通り、岡山がボールロストすると、岡山の守備態勢が整う前に、サイドに素早く運び(展開し)、そこからクロスを効果的に使ってのスピード勝負に持ち込まれて、戻りながらの守備が迫られた。基本的に3人+WB(戻れる時のみ)で、対応することで、横に幅がある対応ができることで、3人の誰かが触って守ることができたシーンも少なくなく、少しでも足や頭が届かなければ失点というシーンばかりであった。
4-2-1-3(4-3-3)の特性を活かした縦に速い攻撃にサイドの幅を使った一撃必殺のような攻撃は、試合を通して岡山の脅威であった。
どうやら岡山は、前に行く守備は得意でも、背後を突かれる裏への守備対応は苦手なチームで間違いない。そう考えると、前から行ける3-1-4-2は、岡山に適したサッカーであることもよくわかる。
ただ、岡山の3-1-4-2の前から行く守備も山形のパスワークの前に奪いきる、遅らせるということはなかなか難しかった。それでもGKまで戻させるシーンを何度か作らせていたことを考えると、プレスは間違いなく効いていた。あのパススピードのパスワークを正確に続ける事ができる山形が凄いのである。
山形の武器は、サイド攻撃だけではないのだ。バイタルエリアまで運ぶ。いや、前進(ゴール前に人数をかけた攻撃を)すると、岡山の守備網の裏へのパスを何度も通して来る。パスの正確性・イメージの共有・視野の広さの全てがハイレベルである。
オフサイドで失点を免れたシーンを含めて、岡山は、山形の猛攻に晒され続けた。しかし、岡山が、懸命の守備とセーブで凌いで、0-1でリードを持って前半を終えた。
3、耐えた先に
後半は、山形優勢の色がより強くなっていく。前半は、まだ運動量があったこともあり、攻められる中でも突破力を活かした9ハン・イグォンのシュートや、PA内での22佐野 航大のシュートのクリアボールに、反応した8ステファン・ムークのポストバーに当たる惜しいシュートの決定機や、15ミッチェル・デュークや23ヨルディ・バイスのフィードからチャンスを作る事もできていたが、後半はより守る時間帯が長くなる。
山形優勢の状況も、同点に追いつくために先に動いてきたのは、山形。
高卒ルーキーの30坂本 稀吏也。高卒ルーキーとは思えない安定感。岡山の強度の高いプレスに対してもミスをせず、フィジカルを売りにする岡山の選手に対しても一歩も引かず、今後のプレーに可能性を感じ、驚かされた。
2年目の41横山 諒乃介から大学在籍中の43吉田 泰授へと若い選手のリレー。決定機に絡んでいた9デラトーレが下がり、29ディサロ・燦シルヴァーノを投入。
コロナの影響を感じる中でもしっかりゲームを作る山形。
しかし、この辺りから山形がPA内に進入するプレーや決定機を作るシーンは減っていく。それでも主導権を握り、岡山の攻撃機会を作らせず、岡山にクリアさせる選択に追い込む山形。
その状況下で、岡山は、逃げ切る事を意識した交代カードをきる。
前からのプレスがかかりきらない状況下では、18斎藤 和樹のキープ力で前で持てる時間を作りたいという意図と、15ミッチェル・デュークのプレーが、孤立気味になってきた中で、24成瀬 竣平を投入して、中盤で持つ力を高め押し返す狙いと運動量の連動性(距離感)を意識しての交代であったように感じられた。
山形も攻撃のキーマンが下がる。前半からハードワークしており、体力的にかなり厳しいようだ。
岡山も27河井 陽介が、足を痙攣。前半から攻守にハードワークしていたので、その貢献度は、かなり大きい。11宮崎 智彦のWBでの出場は、恐らく今季初(未確認)。
岡山の守備を搔き乱していた20チアゴ・アウベス(山形)が下がる。ここまで来ると総力戦だ。
試合は、ATに突入。山形が追いつくのか、岡山が逃げ切るのか。そういった時間帯になってきた。ただ、思わぬ形で試合は、動く事となった。
試合途中から出ていた43吉田 泰授とGKの32大友 竜輔へのパスがずれる。パスの先は、32大友 竜輔ではなく、この時間でもGKにプレスをかけようとしていた9ハン・イグォンであった。
振り返りながらの難しい大勢であったが、9ハン・イグォンが力強く反転して、シュートを放ち、コースに入っていた32大友 竜輔の体の上を突き抜けてゴールに突き刺さった。勝負を決定づける1点であった。
いつものメンバーでないことを感じさせないハイレベルなサッカーを展開していた山形に、最後の最後で綻びが出た。岡山が、苦しくても前から行くことを諦めなかったことからこそ生まれた追加点。
前節の15ミッチェル・デュークのゴールのように、チームで掴み獲った追加点だ。
ここで、最後の交代カードをきる。
スピードのある選手を入れて、サイドのテコ入れと、19木村 太哉のゴールの再現を狙う。ただ、残された時間はあまりに短くそのまま試合終了し、岡山が0-2で勝利した。
結果的に、山形は、再試合を実施した事で、2点差の敗北となってしまい。得失点差が更に-1となってしまった。
逆に岡山が、勝ち点3を得て、得失点差も再試合で+1できた。ただ、表現が難しい複雑な気持ちであるのも事実だ。最後に、この得点失差が活きる事になれば、大きな意味を持つ勝利にできるかもしれない。
4、前への想い
この試合では、前に行って攻撃の芽を潰す守備をする3バックの3選手。中盤の選手のインターセプト、前線の選手の前からの守備を敢行する岡山。前に素早く前進し、岡山の背後やスペースを巧く突き、攻め続けた山形。
結果的に、スコア上では、岡山の完勝であったが、決して簡単なゲームではなかった。ホームで行われる山形戦では、両チームベストメンバーでの試合ができることが望ましいが、その時になってみないと分からない。
木山 隆之監督のこの試合に関する言葉。
難しいゲームであった事が犇々(ひしひし)と伝わって来る。そして、頑張った選手を称える木山 隆之監督。
5柳 育崇もこう語っている。
これで前を向いて、前の試合だけに集中できる。そういった想いを感じることができた。
うん、想うことは、確かにある。しかし、これでやっと前に進めるのだ。
5、試合雑感
この試合では、23ヨルディ・バイスのパスの出所への守備のアクションが良く目立った。3バックの効果で、こうした積極的な守備に出やすくなっている。そのまま攻撃参加もできるという事で、チームの攻守での積極性は、4-4-2よりも高いものがある。
ただ、コロナの影響が出ている事もあるが、90分間で、流れを握る時間が、どうしても短くなってしまう問題も出てきている。その辺り、ベストメンバーを組めた時のゲームプラン(試合運び)には、注目である。
また、コロナからの復帰戦となった16河野 諒祐。アシストこそ記録できなかったが、スペースへ走ってクロスまで行く形や、後方から素早く上がってのインターセプトなど、持ち味を十二分に発揮した。
しかし、この試合を得点シーン以外の90分間(約80分)で考えると、山形の試合であった。岡山が、戻りながら守備対応するシーンが、今季で一番多くなった試合であり、守備の人数が揃っていても、効果的なパス交換で、背後のスペースに抜け出されたシーンもあった。
そういったシーンで、岡山が失点していたら違った結果になっていても不思議ではなく、間接FKで、先制できたことで、守勢に回る事になっても開き直って、焦ることなく守る事に専念できたことも大きかった。
次回のホームでの山形との対戦では、間違いなく難しい試合になる。メンバーもコロナが悪化しない限り、この試合よりベストに近いメンバーが揃う筈で、両チームともより自分達のサッカーを体現できる。
今は、勝利できて良かったと思う気持ちと、今でも消えきらない審判や決定の過程への不満といった気持ちと共に、ホームで対戦した時に、この山形に対して、どこまで戦えるのか。そういった気持ちも同時に起こっている。
それだけ、山形のサッカーは、ハイレベルで完成度の高いサッカーであった。ただ、岡山もこの時期に来ても総力戦で、2連勝した通り、簡単に勝ち点を山形に持って行かれる試合にさせない力を持っている。
山形のハイレベルなサッカーをリスペクトする感情と同時に、岡山の昇格と勝利を信じて応援する気持ち。相反する気持ちを岡山サポーターである以上抱いてしまうが、サッカー好きとしては、正真正銘の”90分間"で戦える山形との今季唯一の試合に注目していて、今から楽しみである。
23バイスの熱い言葉。山形戦への想いを感じる。
ただ、まずは目の前の町田戦。ダブルは避けたい。そして、アウェー戦での借りを返したい。もう選手や監督の気持ちは、前を向いている。
最後までお読みいただき有難うございました。
文章・図=杉野 雅昭text・figure=Masaaki Sugino
引用したインタビュー記事のリンク紹介
Jリーグ.jpより監督コメントと選手コメント
ファジアーノ公式HPの試合後コメントより選手・監督コメント
おまけ
ファジ造語
参考
2022ファジにデータでフォーカス2
「中盤の真田丸(本山丸)」
2022 J2第2節 岡山 1-1 徳島 レビュー
は、こちら(別サイト:SPORTERIA)。
URL:https://sporteria.jp/blog/sugi8823/6905499896963403777
筆者紹介
代表作
代表策
2021ファジアーノ岡山にフォーカス46
J2:第42節:ファジアーノ岡山 vs ジェフユナイテッド千葉
「有難う有馬さん、有難う椎名さん、有難うファジ」
は、こちら(別記事)。
URL:https://note.com/suginote/n/n511a1b501907
ここから先は
¥ 100
自分の感じた事を大事にしつつ、サッカーを中心に記事を投稿しています。今後とも、よろしくお願いいたします。