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うまく歩けなくて走った日

実家で暮らす弟が箱根に行ったと聞き、温泉旅行かなあなんて連想ゲームをしていたわたしはじつに浅はかだった。弟は美術館を訪れていた。

近頃、動画制作の勉強を始めた弟は、関心が現代美術にも広がっているらしい。さらに、弟は学びの中で自らの尖った創造性や言語力を発見した。「ずっと発達障害のことで苦しんできたけど、今は発達障害があってよかった。発達障害に生んでくれてありがとう」と涙を流しながら両親に話したのだ。

弟は、10代のころ、家を飛び出してあてもなく、結局は隣の県まで、自転車を走らせたことがある。若気の至りと笑う人もあったけど、当時、弟にとってつらい出来事があったから、弟が消えてしまうのではとひどく緊張した。

よくぞ生き延びて、走ってくれたなあ。偏りがあってよかったと泣く弟の眩しさと険しい道とを思うとぐしゃぐしゃに泣けて今朝はウォーキングにならなかったので、途中からいっそ走った。走っていけばいいんだ。

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