コロナ禍のチームマネジメントは「やさしさ」こそが鍵だった
2020年ももうすぐおわり。
はじまるときにはこんな世界になるなんてほとんどの人が想像していなかったコロナがあらゆることに影響を及ぼした1年。
経済活動、社会の常識がひっくり返る中で、会社員の自分として、マネージャの役割をもつ人間として、チームのあり方と向き合った1年でもありました。
リモート環境での生産性の議論、リモートでのチームコミュニケーションの議論、リアル/リモートどちらがいいんだという論争。
色々な話がメディアのみならず、各社の中でも起こっているのではないかと思います。
こうした環境の中、私たちのチームの出来事を通じて、コロナ禍で大切にすべきだと強く感じたことを書き留めておきたいと思います。
フルリモート環境でのチーム拡大
2020年がはじまった時点で私たちのチームは自分を含めて6名。4月に20年度新卒の方と、社内の複業制度をつかってきてくださった方が加わりました。さらに7月にも社内複業で3名が加わって11名に。
メンバーが増える中で、何よりも気にしたのはやはり新卒入社の方。前代未聞の入社からフルリモートという社会人のスタート。誰もが経験したことがない受入となりました。
複業の方も社内とはいえ、フルリモートでスタートして2割のリソースを割いていただきます。
初対面だというのもあって、きちっと連携がとれるのか、信頼関係を築けるのか、不安は尽きませんでした。
フルリモートの新卒含めて「チーミング」
何をやるにしても信頼関係がなければ始まりません。だからこそ重視したのが「チーミング」です。
似たような言葉で「チームビルディング」というのがありますが、私は使い分けています。「チームビルディング」はワークや特別な機会を通じて、チームとしての結束力を高めていくもの。スナップショットで場面を切り取っていくイメージです。
一方で、「チーミング」は日常の仕事の時間を含めた一連の流れの中で、メンバーの相互作用を通じてチームとしての方向性をひとつに向かせていくもの。そう捉えています。(これは私の勝手な解釈なので定義づけられたものとは違うかもしれません…。)
具体的にどんなことをしたのか。いくつかあげてみます。
(1)チームラーニング…メンバー同士の持ち味を知り合うものです。強みはもちろんのこと、弱みや苦手なこと、仕事に影響する個人的な事情(育児をしているとか)、そういったものを持ちよりシェアしあいます。最初はちょっと恥ずかしかったりするのですが、マネージャが率先して素直に自己開示をすることで、一気に距離が縮まりますし、理解が深まります。
(2)エクスペクテーションアライメント…英語で書くとなんだそれって感じですが、チーム単位の期待値調整のことです。チームが目指す方向性はもちろんなのですが、チームとしてどんな価値観を大切にしたいのか、どんなコミュニケーションを目指すのか、どんな関係性が理想的なのか、そういったことをキーワードで出していき、お互いの期待値を理解し、すり合わせます。
(3)プロセス承認の仕組み化…いわゆる「褒める」というのとは違って、コーチングでいうところのアクノレッジメントです。事実を事実として認める。私たちのチームではGoodJob賞というネーミングをつけて週一回必ずやっています。メンバー1人ひとりが1週間の出来事を振り返って、「Iメッセージ」でプロセス承認する。自己肯定感につながりますし、お互いに関心を寄せる時間になるので、チームの帰属意識につながっていきます。
(4)クイックレスポンス…上記がプロセス承認(行動承認)とすると、こちらは存在承認につながる取り組みです。やることはシンプルです。チャットツール(私たちの会社はTeams)でオープンなやり取りを中心にシフトすることが第一ステップ。その上で、ボタンひとつでよいので発言に気付いたらできるだけ即時にリアクションを示す。なぜクローズドの会話を可能な限り避けるかというと、他メンバーから見えないのでリアクションが限られるからです。情報のやりとりだけなら会話でもいいですが、存在承認の観点ではオープンのやり取りが多いほど、良い空気が生まれやすいと感じます。
(5)柔軟な1on1…もともと近年の組織づくり界隈や人事界隈では1on1がバズワードに感じるくらいに広がり、取り入れている企業も多いかと思います。私たちのチームも継続してやり続けていましたが、コロナ禍の環境にあわせて変化をさせています。頻度を増やす、時間を増やす。一律的な運用ではなく、下限は決めつつメンバー1人ひとりの状態にあわせて可変させていく。偶然の雑談に期待するのではなく、能動的に状態を把握する時間をつくります。
「チーミング」の先に生まれた「相互感謝」
「チーミング」の取り組みはイベント的なものではないので習慣化していくものです。
よって劇的に1回で何かが変わるわけではありませんが、負担も小さく実行できます。
リモート中心の生活になってからもバランスは調整しながら「チーミング」の取り組みはシンプルに継続していました。
一定続いていくと、徐々に相手に気持ちを伝える時の恥ずかしさのようなものが薄れていき、「ありがとう」「助かってます」の言葉が劇的にチーム内の会話の中で増えていきました。
新しく加わってくださったメンバーからも、長く同じチームにいるメンバーからも、同じようにメンバーからメンバーへの感謝の言葉が溢れだしたのです。
特にマネジメントの立場からすると「めちゃ良いな!」と感じたのが横横の関係の中で感謝の言葉を伝えあう場面が圧倒的に多くでてきていることです。
上司が部下を褒める、というような構図は一切無く、相互に承認し合い、相互に感謝を伝える「相互感謝」。
この一連のコミュニケーションが高い心理的安全性を確保して、業務の進行、組織生産性に直結していると感じます。(ただし、ここは定量指標がなく、私の体感値です。)
メンバーの「関係性」が成長機会をつくる
チームのマネジメントを任されている以上、チームの成長、ひいてはメンバー1人ひとりの成長はやはり実現したいものです。
そのために、成長機会はある程度マネジメント側が設計をして、機会提供していかなければならないものと考えていました。
ところが、「相互感謝」が生まれた先にあったのが実はメンバーの成長機会でした。
メンバー同士が感謝を伝えあい、信頼関係が強固になるにつれて、挑戦する意欲が高まります。自己効力感の高まりは、信頼する仲間によっても補強されるからだと感じます。
実際に高いハードルに挑戦した時にも、相互に支え合う分、乗り越えられる度合いが全く変わってきます。
おそらくですが、私たちのチームの1年目、2年目の社員は自分の時では考えられなかったほどの視野と視座をもって仕事に臨んでくれています。
その姿を見るにつけ、「育成してやろう」「成長機会をつくってやろう」というのはおこがましいことだと感じます。
そんな一方的な目論見や予測をはるかにこえて人は成長できます。
人は環境さえ整えば、「自ら挑戦し、成長したくなる」欲求をもっているものだと信じて、そのように向き合える環境をつくる。
それがマネジメントが成すべきことなのではないか、と考えるようになりました。
チームにおけるマジックナンバー「2」と「3」
チームの環境がぐんぐん良くなっていく中で、マネジメントにおいてこの数字が大事なんじゃないかなと思ったのが「2」と「3」です。
「2」というのは仕事をする最小単位のペアの事です。多くの仕事は1人では完結しないもので、実行にあたっては誰かと関わります。そのペアとなる「2」の信頼度を徹底的に高める。
ここが生産性やレジリエンス(何か不測の事態が起こった時に復帰する復元率や復元までにかかるスピード)に直結します。
「3」というのはペアにリーダー役を加えた最小単位のチームです。ペアでは方向性に迷う時にリーダー役の存在が重要になります。
「2」はフラットが理想ですが、「3」では役割上の分担が発生します。「2」の信頼強度をキープしたまま「3」にできるか、つまりチーム化できるか。「2」から「3」にできれば、あとは関係の質をキープしたまま一定数までチームを拡大できます。
「やさしさ」が生み出す関係性
ここまで色々な取り組みと、そこで起こったことからの気付きをお伝えさせていただきました。実際にチームの中で考えてやってきた1つひとつのことはいずれもチームメンバーが、チームメンバーのために考え、実行してきたものです。
全てを通じて根底にあるのは、同じチームメンバーとして過ごしていく相手に向けた「やさしさ」につきると思います。
心理的安全性など、そういった概念的な理解も大事ですし、理論を知った上での実践は重要。
ですが、コロナ禍という特殊な環境下、コミュニケーションの制約が生まれた中であらためて発見したことは、相手に向けた純粋な「やさしさ」から生まれる関係性が、真にチームをチームとして機能させるということでした。
「やさしさ」が生み出す関係性は、空気が暖かい。
「やさしさ」が生み出す会話は、明るさに溢れている。
「やさしさ」が生み出す気遣いは、感謝と感動を生む。
「やさしさ」が生み出す連携は、隙がなく強い。
「やさしさ」が生み出す議論は、新たな視点をもたらす。
「やさしさ」が生み出す信頼は、物理的距離を超える。
チームは「やさしさ」からできている。
そう思うと、日々メンバー1人ひとりへの感謝の気持ちがとめどなく溢れてきます。
マネジメントの役割として、チーミングの要諦として、「どうしたらこのチームにやさしさをもたらせるか。」「どうしたらやさしさの総量を増やせるのか。」
そういう問いを自らに掛け続けることが、チームを成長させ、チームの生産性を向上させるのだと感じます。