人智を超えた遺伝物質DNA
専門性 ★★~★★★
事前知識 DNA、セントラルドグマ、タンパク質
・ポイント
なぜ、DNAを遺伝物質として利用しているのか
DNAは利便性が抜群
生体内に潜む人智を超えるものの一つとして、遺伝物質のDNAがあげられる。
今回はそのDNAのすばらしさを共有しよう。
DNAとはデオキシリボ核酸とよばれ、4種の塩基のうち一つをもつ。そのDNAの塩基が3つ並ぶと、ある一つのアミノ酸を指定することができ、そのアミノ酸を連続指定し組合すことでタンパク質も指定できる。
つまり、生体内に必要なタンパク質の材料情報をDNAの塩基配列という物質に置き換えて保存しているのである。
ではなぜ、生物はDNAを遺伝物質にえらんだのか。わざわざ、DNAが登場する意義があるのか。
昔は、タンパク質が遺伝物質であると考えられていた。なぜなら、タンパク質はそれぞれ異なる機能をもち、多種多様な環境で活躍していたので、遺伝物質を保存しているようなタンパク質があってもおかしくないとされていたためである。
たしかにタンパク質の複雑性と多機能を併せ持つとそのようなことも可能かもしれない。しかし、生物はその戦略を選ばなかった。
それは、DNAの驚異的な安定性のためである。DNAときいて思い浮かべる二重らせん構造はあらゆる生体分子の中でも、随一の安定性を誇る。このことは遺伝物質を次の世代までに安定的に保存し、伝えるためにもっとも重要である。
さらにその安定性により、二重らせんを紐のように扱うことができるため、非常にコンパクトに保存できる。(ちょうど釣りのリールのようにDNAを巻き込んでコンパクトに保存している)
タンパク質も安定的なものもあるが、それらは耐性をもつために様々な制約を受けるためタンパク質の多機能性が損なわれてしまう。さらに複雑なタンパク質は巨大で、持ち運ぶにも大変なのである。
これで遺伝物質としての安定性、コンパクト性が優れていることが理解できたであろう。
しかし、DNAは単純な物質であるため、その物質情報自体での生物を生み出すほどの複雑性を出すことは難しい。
では、その情報の複雑性はどのように再現しているのかというと、DNAを制御する調節機構がカギを握っている。
DNAのほとんどは遺伝子の情報をもっていない領域である(トラフグなどの一部の生物を除く)。それらの領域は様々な用途で利用されている。塩基配列がタンパク質の着地の目印になったり、ある配列とある配列の距離が遺伝子の発現を調節したり、塩基の種類の違いによってDNAの安定性を変化させたりなど、DNAは単なる遺伝物質としての役割だけではないのである。DNA自体がDNAの遺伝子調節にも加わっており、余すことなく、DNAを上手に使っているのである。
つまり、単純な物質を制御機構の複雑性によって、複雑な情報を指定することができるということである。
DNAは遺伝物質として、とても使い勝手のいい最高の分子であることはおわかりいただけただろうか。
生物がこの分子を見つけてきたこと、そしてこれらの機構が自ずと進化してきたことには驚嘆に値する。
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