_1_誰が音楽をタダにした_

#1 「売る」から「囲い込む」へ移り変わったコンテンツビジネス:誰が音楽をタダにした?

こんにちは!すがっしゅです。

3つ目のnoteマガジンを作ってしまいました。
その名も「ビジネスガッシュ!」。
ビジネス書などいわゆる「実用書」と呼ばれる書籍に関して、書評というか思ったこと・感じたことをつらつら語ります。元広告代理店プランナーから独立して「企画屋」を営んでいる私の、「アイデアで課題解決する仕事」をしている視点から、いろいろと語っていきますので、よかったら読んでみてください!

さて「ビジネスガッシュ!」第1回で取り上げるのは、
「誰が音楽をタダにした?(原題:HOW MUSIC GOT FREE)」という本。
コンテンツビジネスについて考えさせられる、音楽の歴史を辿った本です。


*「この音楽、どこからきているんだ?」

著者であるライターさんは、まさに「海賊版」の世代。
WEB上で著作権を無視した違法音楽ファイルを好きなだけダウンロードし、
音楽にお金を全くかけない世代でした。
もちろん違法は違法なのですが、当時「海賊版」は当たり前すぎました。

そんな海賊音楽を楽しむ中で、著者は1つの疑問に取りつかれます。
「この音楽、一体どこからきているんだ?」という疑問。
つまり、実際に海賊行為を働いているのは誰なんだ?ということです。

私自身も疑問に思ったことはあります。そしてこう勝手に思ってました、
「世界中であちこちから誰かさんが違法ファイルを手に入れて、各々別々にアップロードしてるんだろう」と。でも、その考えは間違いだったことがこの本で分かります。なんと、海賊版のほとんどのファイルは、海賊組織によって戦略的に奪われ、計画的にリークされていたのです。

この本では、世界で起きたこのリーク集団たちの歴史と、それに対抗する音楽業界の姿、そもそも「デジタルファイルがCDと同等の音質を保持するようにした」テクノロジー・mp3の誕生秘話・・・
さらには海賊行為・音楽ビジネス・技術開発と、それぞれの世界で自分自身の生活を守り熱意を叶えようとする1人1人の姿が描かれていきます。


*テクノロジーによって足元から崩れ落ちる音楽産業

著者が調査・記録しまとめたこのノンフィクションの物語。
全体を通して、「mp3」や「ビットトレント」等の新しいテクノロジーに音楽産業自体が翻弄され、著作権を守れず、足元から崩れ落ちていくような世の中の流れを見ることができました。「足元から」と表現したのは、自分の足、つまり音楽産業自身に欠陥があり、自業自得だった側面も多分にあったということです。

音楽業界は、「海賊行為は音楽を奪う犯罪行為だ」と声を荒げることしかできませんでした。しかし、それでは何も解決しなかったのです。
なぜなら、それが何十億ドルの損害を生む犯罪行為だったなんて、誰も意識していなかったから。
CDを大量生産する工場に勤務していたある男性は、発売前のCDを工場から盗み出し、mp3に変換し、音楽をリークしていました。最初は好奇心もありましたが、主な動機は収入を増やすことでした。

工場の発売前CDをリークするのは、工場から解雇されるリスクのある行動でしたが、当時リーク集団として絶大な力を持っていた組織への加入をきっかけに、リークを始めます。
当時リーク集団は、いかに他のリーク集団より先に最新曲をリークできるか競い合っていました。海賊行為自体がサブカルチャーになっていたのです。

他の組織を出し抜くリークを決めれば、組織に認められ、上層部に入り込めます。上層部に入れば、上層部だけに許されるトップサイトにアクセスする権限が与えられました。トップサイトには、最新の作品から過去の作品までありとあらゆる音楽、映画、その他コンテンツのデジタルデータが完璧に揃うライブラリーがあり、好きなだけコンテンツをダウンロードすることができます。

この工場従業員の彼は、このトップサイトのコンテンツを好きなだけ手に入れ、海賊版を売り捌くことで収入を大幅に増やすことができました。中には最新コンテンツもあるのですから、みるみる売れます。工場現場で出世しシフトを組む役職にまで就くと、彼は史上最大のリークポイントとなり、音楽産業市場を陥れる存在になっていました。そしてその頃には、海賊版の販売と工場での収入を合わせ、年に20万ドルもの富を手に入れていました。

この本中にあったスゴいエピソードを1つ紹介すると・・・
あるレーベルが2人のアーティストのアルバムを同時発売することを決定。お互いのアーティストがどちらが売れるかで言い争い、「あいつより売れなきゃ引退してやる!」と宣言する、というようなプロモーションを仕掛け、発売前プロモーションに多額の広告費をかけます。どちらのCDも客に買わせるトリックです。
この時、工場従業員の彼はとんでもない立場にいました。両方のアーティストのCDを発売前に手に入れることに成功したのです。これはつまり、この2人のアーティストの引退がかかったバトルの勝敗を、彼がどちらのCDをリークするか次第で決定することができる、ということでした。先にリークされた方のCDが間違いなく売れる、という状況。世の音楽のトレンドは、彼の手の平の中にありました。

こんな彼ですが、彼は別に音楽産業を陥れる気なんてさらさらありません。彼のリークは、ただ最新のコンテンツを見たい好奇心と、収入を増やしたい思いだけで支えられていました。インターネット生まれたての初期、リークが重罪だなんて常識はなく、海賊行為を止める良心は小さなもの。彼は家族を大切にしていたし、子どもを養いながら不自由ない生活を送るためにお金が必要だっただけ。その手段として、音楽の海賊行為はとても自然に生活のすぐそばにあり、彼はそれを誰よりも早く手に取っただけでした。


*「売る」より「囲い込む」コンテンツビジネス

インターネットの発達、mp3の開発、プレーヤーの開発にビットトレント…
技術革新をきっかけに、悪気のない人達によって、海賊行為は起こるべくして起こされたものだったんですよね。
音楽業界側は、この時代の流れ、人の心・生活を想像して、著作権ビジネスをどう捉えるか?考え直す必要がありました。だけどそれがうまくいかず、文字通り足元から崩壊していきました。

従来、音楽は、コンテンツは、それをそのまま「売る」だけのものでした。
CDという媒体でそのまま店頭に並ぶもの。それがデジタルになった時、海賊行為によってインターネット上でタダで手に入るようになり、CDが見捨てられていったんですよね。

ですがそこから、会員制・広告制を採用したSpotifyやApple Musicなどストリーミングサービス、音楽フェスなどのイベントなどが台頭し、反対にリーク集団は影をひそめるようになります。

音楽で「囲い込む」ビジネスが生まれたんですよね。
例えば、定額音楽配信サービスで会員を集め、その会員数を価値としてメディア化させ、広告費を企業から募るビジネス。
また例えば、音楽フェスなどの催し事。「聞く」から「感じる」ものになった音楽は、インターネットでは感じることのできない感動をリアルのイベントに求めるようになります。1日で何千、何万の人が集まるイベントはまたメディア化し、企業からスポンサー費を募ります。

この「囲い込み」を今に当てはめると、まさしくGAFAがやってることです。
SNSやECサイトで会員数を集め、メディアにし、広告収入で稼ぐ。

このモデルなら、例え音楽が海賊行為を受けたとしても、より色んな曲をずっと聞けるストリーミングサービスや、リアルな感動を味わえる音楽フェスはなくなりません。
コンテンツの魅力をそのままお金に買える(=売る)考え方に加えて、
コンテンツの魅力で人を集め、メディア価値を生み(=囲い込み)、
その影響力を売る考え方
を、もっと早く思いついていれば、音楽産業はまた違った道を行ったのかなぁ・・・と考えさせられました。
可処分所得を奪う戦いから、可処分時間を奪う時間にシフトした、と言っても良いなと思います。

まぁそんなこと、当時はほとんど誰にもできなかった訳ですが、今に生きる我々こそ、この歴史を読み解いて、IoTやAI等が台頭するだろう未来のテクノロジー社会に生かしていかないとなぁ、と思います。


次は何を奪い合うことになるのでしょうか・・・?
もし仮に、かつてコンテンツを海賊したように、メディアをそのまま瞬時に海賊できるとしたら笑。コンテンツのレイアウト等、UIを向上させた方が勝つ「なんか使いやすい」を奪い合うようになるのでしょうか??

実際周りを見回してみると、今はむしろ、メディア化を狙う流れが主流になりすぎていて、1つ1つのコンテンツの魅力が薄まっているんじゃないのかなぁと感じます(ブログとかSNSとか色々流行りがありますが・・・)。
どんなやり方にせよ、優れたコンテンツがあるからこそ成立するものです。
それを忘れずに、今日も目の前の仕事に尽力すればよいのかなと思います!

以上。第1回「ビジネスガッシュ!」終わります!
「誰が音楽をタダにした?」ぜひ読んでみてください。

ではまた!

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