日本の政治と金(第5回)
政治と金の「抜本的」改革を
これまでもロッキード事件、リクルート事件、東京佐川急便事件、ゼネコン汚職事件などなど、政治と金の問題は数多く起きてきました。
それでも改まることなく繰り返されているのは、日本の政治、とりわけ自民党の体質に問題があることと、それを規制する法律が骨抜き状態になっていることが根底にあるといえます。
この原稿を書いている2024年5月時点では、「政治資金規正法」の改正議論が始まっているところです。改正の成り行きについては注意深く見守るとして、ここでは今の社会的な倫理や規範に即して、抜本的に改正しなければならない問題の数々を見てゆきたいと思います。
ザル法によって作られた無法地帯
この連載を書くに当たり、「政治資金規正法」の中身を調べてみたわけですが、あまりの抜け穴の多さに驚いてしまいました。まさに「ザル」状態であり、極端な話「何でも」できるような法律なのです。
なぜこのようなことになっているのでしょう。それは法律が国会議員の手によって作られているからであり、「政治資金規正法」は実質与党自民党のお手盛りで作られたものです。たとえ野党の反対があったとしても、数の力で押し通してきたわけです。
はっきり言いますが、彼らは規制法を作りはしましたが、何でもできるように「抜け穴」(例外)を「意図的」に入れてきたのです。
それにしてもよくもまあこんな法律が放置されてきたものだと、あきれてしまいます。もはや政治と金が「無法状態」になっているのですから。私は法律の専門家ではありませんが、政治資金規正法は日本で一番甘い法律ではないかとさえ思えてしまいます。
その上この法律さえも守れず組織的に裏金を作っていたのですから、国民はもっと怒らなければならないでしょう。
今は令和の時代であり、企業や個人には厳しくコンプライアンスが求められています。ここではそういった観点から、政治資金規正法の本来在るべき姿を見てゆきたいと思います。
①企業・団体献金を認めてはいけない
現行の政治資金規正法では、企業・団体献金は、政党と政党支部に対してのみ例外的に認めています。しかし抜け穴により、実質は派閥も議員個人も巨額の企業・団体献金を受け取っており、その見返りとして彼らの要求する政策を優先的に実施してきました。
自民党は、政治には金がかかるのだから企業・団体献金は必要だと開き直っていますが、まず旧態依然の金のかかる政治を改めるべきであり、それでも足りないのであれば税金からの歳出を増やす議論を、正面から行えばいいでしょう。
海外の状況を見てみると、G7加盟国のうちアメリカ、カナダ、フランスでは企業や団体の献金を禁止しており、ほかの国でも何らかの制限を設けています。また、OECDやEUでも加盟国の半数が企業・団体献金を禁止しているのです。
②政治資金の透明化と完全公開化
政治に関係する金については政治資金規正法により、報告書の提出が義務付けられています。
しかしその記載に関して、寄付の収入では5万円以下のものは相手先の氏名を出さなくてもよいことになっています。さらに政治資金パーティーの収入ではなぜかこの基準が20万円にまで引き上げられています。
また支出に関しても国会議員関係政治団体を除き、5万円以下では記載や領収書はいらないとなっています。
この結果金額が隠れ蓑になって、誰が金を出したのか、誰に何を支払ったのかがチェックできない状態になっています。
私たちの税務申告には1円たりともごまかせないほどの厳格さを強いているですが、片や政治ではあまりにもゆるい状態を許し、裏で何が行われているかを分からなくしているのですから、もはや怒りさえ覚えるほどです。
政治資金報告書に関しては、全ての金の動きの記載と、領収書などの添付を義務付けるように改めなければなりません。例外を認めない完全な透明化を図ることでチェックが可能になり、不正の大きな抑止になるはずです。
また透明度を担保するためにも寄付などは現金での授受を禁止し、デジタル化を義務付けることも必要でしょう。
さらに、国会議員が年間1200万円もらっている「調査研究広報滞在費」についても、もらいっぱなしの状態ですが、使途の公表を義務付けるよう改めなければなりません。そして余剰金があった場合は返納させるべきでしょう。
これも前回に書いたことですが、「政策活動費」という名の、時には億単位の金が党から幹部議員に渡されており、その使い道は一切明らかにされていません。これについても禁止にするか、最低でも使途を公開するように義務付けるべきでしょう。
③政治資金パーティーの禁止
同じく前回で詳しく触れていますが「政治資金パーティー」に関しては、政党以外で禁止されている企業・団体献金の抜け穴になっており、派閥も政治家も見えないところで寄付を受けています。ですから開催すること自体が問題であり、即刻禁止にするべきでしょう。
④派閥の解散
派閥は政策集団ではありません。派閥とは派閥の領袖や幹部がメンバーに便益を与え、その代わりにメンバーが派閥や領袖に忠誠するという組織であり、独自に企業・団体献金を集めて巨額の金を動かしています。
今回の裏金事件も派閥を舞台としたものであり、不正の温床になっているのです。
派閥は自民党内のお山の大将とそれを支えるグループともいえる、自民党の古く悪しき体質そのものです。こんなものは即刻解散すべきでしょう。
⑤違反の厳罰化と連座制の適用
現在運用されている政治資金規正法は、不正を犯したとしても収支報告書の虚偽記載や不記載だけが処罰の対象になっている状態です。しかも会計責任者が主たる対象であり、議員本人を立件するのが困難な仕組みになっています。
そして時効がほぼ3年と短く(国会議員の任期が衆院4年、参院6年にもかかわらずです)、罰則は禁固が最大5年、罰金が最大100万円という甘さなのです。
今回のように大きな不正事件であっても結局トカゲのしっぽ切りで終わっているのは、そもそも法律が甘すぎるという壁があるためです。
この部分についても違反の厳罰化と、議員本人にも責任の及ぶ「連座制」の導入が必要でしょう。(自民党が提出したなんちゃって連座制は論外ですね)
改正の本気度を注意深く見守る
今回の裏金事件を受けて、現在国会では政治資金規正法改正の議論が行われています。与党自民党に対しては、野党も連立の公明党も、もちろん国民も大幅な改正案の提示を求めているのですが、出てきたのはほぼゼロ回答の案という、あきれてものが言えないほどのものです。
それは彼らが力の源泉としてきた「金」を、何があっても手放したくないという意思の表れといえます。
今回の裏金問題は検察の捜査や、自民党のお手盛り処分で一区切りつけたようになっていますが、本当にやらなければならないのは、厳格な法改正を行い、政治を国民の手に取り戻すことです。
それが自民党の抵抗で不発に終わるのであれば、次はいよいよ選挙でNOを突きつけることになるでしょう。
金のかからない政治にするために
これまで政治には金がかかるといわれてきました。例えそうだとしても、その中で見直すべきものはないのでしょうか。
まず自民党が築き上げてきた、地方議員など集票ネットワークに金をばらまくスタイルはもうやめにしなければなりません。
また議員秘書にも金がかかるといいますが、彼らは政策立案というより、次の選挙に備えて選挙区に張り付き、支援者への顔出しなどのケアを行っているのが実態です。議員本人も毎週末に選挙区に戻り、ドブ板活動に汗を流しています。
この国の選挙では、選挙区というオラが地域のために貢献することを訴え、金と情で支援者をつなぎとめるという、昭和の手法がいまだに行われています。そのような選挙に長けているのが自民党であり、豊富な金と組織によってこれまで勝ち続けてきました。
元明石市長の泉房穂氏は「政治に金がかかるのでなく、しがらみの選挙に金がかかっている」そして「今の政治家は政治家ではなく選挙屋である」と断じています。
今やITの時代なのですから、金をかけずにPRする方法は色々あるはずです。有権者には情に訴えるのではなく、政策を訴えて支持を求め、国民の側に立った政策立案など、本来の議員活動に汗を流してもらいたいのです。
同時に、私たち有権者も意識を変えなければならないのは当然のことです。そして真にこの国と私たち国民の未来を考えてくれる政治家を国会に送り込まなければならないのです。
(全6回)
(#018 2024.05)