日本の政治と金(第2回)
裏金とは何だったのか
「裏金」とは、表に出さずに隠していた金です。当事者たちはたとえ金額が数千万円であったとしても、「記載ミス」あるいは「知らないところで秘書が勝手にやった」などと言い逃れていますが、それで納得する国民などいないでしょう。では法を犯してまで作っていた裏金とはいったい何なのでしょうか。これまでの証言をもとに、その実態を見ていきたいと思います。
自民党の派閥の本質
今回の事件は自民党の「派閥」が組織的に作った「隠し金」であるといえます。では派閥とは何なのか、まずはそこから探ってみましょう。
派閥は自民党だけにあるものです。派閥をごく簡単にいうなら、その領袖や幹部がメンバーに便益を与え、その代わりにメンバーが派閥や領袖に忠誠を尽くすという組織です。
その最も大きな目的は、派閥が持つ力(金や構成員数)を足掛かりにして、ボスや幹部が総理総裁になる、あるいは党内で権勢を振るうことです。
またメンバーに対しては選挙での公認取り付けや金の分配によって、当選させるための援助を行います。さらにこれまでは派閥の発言力でもって、当選回数を重ねたメンバーに大臣や各ポストを順送りで配分してきました。
ですから自民党の派閥というものは、党内での覇権争い(党内抗争)のために集まった組織といえ、常に激しい駆け引きが行われているのです。
あえて法を犯してまで隠していた金
そして派閥運営の源となる金は、主に派閥主催の「政治資金パーティー」によって調達していました。その際に所属の議員にはパーティー券の販売「ノルマ」が課せられ、各議員は集めた金を派閥に上納するシステムになっていました。
その中でノルマを超えて販売した議員に対しては、超過分をキックバックしていたのですが、このキックバック分を報告書に記載せずに「裏金」としていたのが今回の事件の概要です。また議員が超過分を上納せずに「中抜き」して裏金にしていたものもありました。
上記は東京新聞掲載の表ですが、派閥の収入は驚くべき金額に上ります。しかもこれは収支報告書に記載した分であり、安倍派など3派閥ではこれ以外に5年で10億円の収入を裏金としていたのです。
そもそも自民党自体が税金からの160億円もの政党交付金や、20数億円の企業・団体献金など、およそ250億円の収入があるのですが、それとは別に派閥が独自に総額10億円以上もの収入を得ているなど、極めていびつでおかしな状態と言わざるを得ないでしょう。
裏金の目的は何なのか
では法を無視してまで作った裏金の目的とは何だったのでしょう?
繰り返しますが、本来は収支報告書に記載すれば何の問題もないのですが、法を犯してまで表に出さなかったのですから、なんらかのやましい金なのでしょう。
そこがこの事件の核心なのですが、肝心の部分は説明責任どころか、誰もが口をつぐんだままなのです。ただしこれまでの報道や関係者の証言を照らし合わせると、選挙対策あるいは私服に回していたのではとの疑いがあるのです。
それに関しては、かつて外務大臣などを務めた田中真紀子氏や元明石市長で元国会議員の泉房穂氏、元安倍派議員の豊田真由子氏などが具体的な証言をしており、ユーチューブでも見ることができます。
選挙対策については、自民党では各選挙区ごとに地方議員などのキーマンを中心にした票集めの強固なネットワークが出来ており、そこに金がばらまかれているようなのです。自民党はそれを「党勢拡大」や「地盤培養」の金と称していますが、実態は「選挙対策」ですね。
豊田氏は初めて選挙に出るとき、自分の選挙区の地方議員から「応援が欲しければ金を持ってこい」とあからさまにいわれて驚いたと述べています。
つまり現状では「しがらみ」を前面に押し出した選挙戦が行われており、そこでは後援会などに会合への動員がかけられ、投票の依頼が行われ、候補者もそれを盛り上げるべくサービス合戦のようにして都度都度金をつぎ込んでいるようなのです。選挙で動いてくれるスタッフなどにも法の定めを超えた金が渡されているといいます。そしてその差配をする地方議員らは、当然のように金を要求するのだそうです。
驚くことですが令和の時代になお、昭和の村々で行われていたような選挙が続けられており、候補者も地方議員も有権者もそれを当たり前のように受け入れているのです。
自民党では選挙時に党本部や派閥から候補者に資金が渡され(以前は党から1千万円~1千数百万円、派閥からも同程度との話がありました)、選挙の応援に入った幹部は「陣中見舞い」を渡すのが慣行になっているようなのです(相場が100万円との証言もありました)。
票集めにばらまかれる金
それらの金配りが悪質であからさまな場合には、買収事件にまで発展します。昭和ならまだしも、今の時代にそんなことがあるのかと思われますが、2019年の参議院選挙では、広島選挙区に出馬した河井案里元議員と夫の河井克行元法務大臣が、選挙目的で約3千万円を配ったとして起訴され、買収の有罪判決を受けました。
この時は自民党内で候補者を一本化できずに激しく争ったことと、当時の検察と安倍政権の対立があったことで検察が動き、摘発に至ったといわれています。ちなみに河井を擁立した当時の安倍総理と菅官房長官側からは選挙前に1億5千万円が河井夫婦側に入金されていました。
裏金を作る主たる目的は、おそらく選挙対策でしょう。そして私的に流用しているものもあると思われます。
おかしな言い回しになりますが、自民党の多くの議員は、政治家になることが最大の目的です。そのため選挙には異常なエネルギーを費やします。当選するためには隠れて金も使うし、政治信条を変えることもいとわないのでしょう。そして当選回数を重ねたあかつきには、資質にかかわらず所属派閥の推薦によって大臣にまで登り詰めることができたのです。
泉房穂氏は、今の議員はほとんどが政治家ではなく「選挙屋」だと断言してます。そして自民党は金と組織を使った選挙に盤石の態勢を作って勝ち続けてきたのです。
(全6回)
(#015 2024.05)