6度目の正直
「あの、英検2級受かりました。」
いつものように聞こえるかどうかギリギリの小さい声で彼女はそう言った。
他の指導席が盛り上がっている時には声がかき消されてしまい、彼女の発言を聞きなおすこともしょっちゅうだが、今回は1度でハッキリと聞きとることができた。
せっかく1回で聞き取れたのだが、発言の内容に驚いてしまい、
「え?どっちも?」と思わず聞き返してしまった。
「どっちも」というのは1次試験と2次試験のことで、
英検2級は1次試験(筆記・リスニング)と2次試験(スピーキング)の両方の合格をもって正式に英検2級保持者となるのだ。
僕の質問に対して、照れた表情で、はにかみながら彼女はうなずいた。
「そうか!おめでとう!すごいね!」
とお祝いの言葉を伝えると、
「6回受けました。」
と、これまた恥ずかしそうに小さな声で、彼女は付け加えた。
「よく頑張ってきたもんね。これまでやってきたことが、結果になったんだね。周りにもそんなにいないでしょ?2級持ってる子。すごいじゃん!」
という僕の言葉に、これまで見たこと無いような笑顔で彼女はうなずいた。
彼女の笑顔の中にある控えめな誇らしさに、僕まで誇らしくなった。
どうにも誇らしくて、どうにも嬉しかった。
だってこれは【偉業】なのだ。
英検2級を簡単にクリアする子も世の中にはきっといるだろうけど、
僕と彼女の中で、これは間違いなく偉業なのだ。
彼女が僕に報告してくれたのは、僕をチームメイトだと思ってくれているんじゃないかと思うと、それも嬉しいし、そうじゃないとしても、やっぱり嬉しい。
「形容詞と副詞の違いってなんだっけ?」
という質問を彼女にした回数はこれまでに20回は軽く超えていると思う。
同じ古文単語2つを1週間、会うたびに聞き続けたこともある。
こうなると聞く側も答える側もどちらも中々の根気がいるのだけど、
僕も諦めずに聞くし、彼女も諦めずに答えることをずっと繰り返してきた。
そんな調子でやってきた僕らからすると、英検2級はかなりの強敵なわけだ。
「6回受けました」と彼女は言ったけど、この言葉には簡単に扱えない重みと凄みがあると思う。
「何回も受けました」ではなく、「6回受けました」という言葉には、
受けるたびに悔しさを正面から受け止めてきたことが透けて見えるような気がするのだ。
受けるたびに前回よりも努力を積み重ねているからこそ、悔しく思えるのだろうし、
それを何度も繰り返してきたからこそ、
「6回受けました」という言葉が出てきたんじゃないかと思う。
6回目で受かったというけど、6回チャレンジしたのだ。
同じことに対して真剣に5回失敗できる人がどれだけいるだろう?
「別に英検なんていいや」とすることもできたはずだし、2級を持っていない人も沢山いるわけで、逃げ道もあったはず。
よく諦めなかったと思う。
本当にかっこいいです。
お祝いの言葉はもう伝えたけど、まだまだ嬉しさがこみあげてくる。
英検2級合格おめでとう!
報告してくれてありがとう!
君のような生徒を教えられているのが誇らしいです!
この先の受験もがんばりましょう!
生徒たちに教えているようで、教わっているんだといつも思います。
一緒に走ってもらえるように僕も頑張ります!
それでは!