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底が…なくなる!?

 貯金など、蓄えていたものがなくなることを、「そこをつく」と言います。

「そこ」は「底」ですが、では、「つく」にはどんな字を当てますか?

「米びつのお米がなくなって、底に触れられるようになった」ところをイメージすれば分かると思いますが、正解は「突く」です。

 いやいや今さら何言ってんの?という向きもありましょう。何なら私もそう思います。

 あえてそんなことを持ち出したのは、ひょっとして、「突く」以外の漢字を想定して、この言葉を使っている方も結構多いのでは?という場面によく出くわすからです。

 仕事で預かる音源の中で、「そこがつきた」「そこをつきた」という言い方の方が結構いるのですよ。

 ひょっとしてですが、「尽きる」という字を当てているのではないでしょうか。
 要するに「なくなる」という意味なので、そのお気持ちは分からないでもないのですが、「底が尽きた」では、「底(自体)がなくなる」という意味になってしまいますぞ(底を尽きるだと、もはや意味が分かりません)。
 言い換えてよければ、「無尽蔵」という全く逆の意味になってしまいます。

 この手の言い誤りは、一応、文字起こし作業者の裁量で修正してもいいことになっていますが、問題は、クライアントが「底が尽きる」を正解だと思っていた場合です。

 これは一例として挙げただけで、辞書に書いてある語義いみと世間に広く知られている語義に隔たりがある場合、「こっちが間違っていることにされる」というのはよくあることです。


 ――と、「流れに任せる」の意味で「流れにさおさす」と作文に書いたら、「これはどういう意味?」的な指摘を国語教師に指摘されたときの、何とも言えない気持ちを思い出しつつ書いております。

「流れに棹さす」
 流れに棹をさして水の勢いに乗るように、物事が思いどおりに進行する。誤って、時流・大勢に逆らう意に用いることがある。【デジタル大辞泉より】

 ちなみに文化庁の「国語に関する世論調査」では、おおむね6割が「流れに逆らう」の意味にとらえているとのこと。
 ただ、年度が進むごとに、わずかながらですが正しい意味を答える人が増えているようですが、これも「こちらが正解と見せかけて~」「か~ら~の~」みたいな、逆張りでたまたま正解している人が増えているだけではという気もします。

 この手の言葉では、「破天荒はてんこう」あたりも割と“正解”の方を知る人が増えてきた印象がありますが、実はこの言葉に関しては、平成20年度と令和2年度を比較すると、正解も不正解もポイントが上がっているという珍現象が起きています。
 正解・不正解を合わせても100に達しないのは、「分からない・無回答」の方がいるということでしょう。

【正】だれも成し得なかったことをすること
 16.7%  →→  23.3%
【誤】豪快で大胆な様子
 64.2%  →→  65.4%

 分かりやすくするために「正誤」と表現しましたが、同調査では、「本来の意味とされる」「本来の意味ではない」と表現しています。まあ、いつひっくり返るかも分からない――というか、既に世間的にはひっくり返っているからこその「調査」なのでしょう。そりゃ逆張りも増えるってものですわ。

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