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人生の中で「こより」に触れる回数

  おはようございます、須恵村すえむらです。
 元速記士で、現在は日本語音声を文字に書き起こす「反訳」という仕事を在宅にて請け負っております。

 正しい言葉遣いや敬語にウルサイ人よりも、呼び捨て・ためぐちをフレンドリーに強要するタイプの人が苦手な、そんな人間です。
(自分という人間を端的に紹介しようとしてスベっただけなので、あまりお気になさらず。毎日のことです)

 本日は、最近は使わなくなった速記関連アイテムについてお話ししたいと思います。

こより_七夕用品(PhotoACでお借りしました)

 「こより」ってご存じですか?
 上の写真のような形状なのですが、そうめんではないのであしからず。

 「ティッシュペーパーなどをひも状に巻いて、先端を細くしたもの」を想像する方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 漢字では「紙縒」「紙撚」などと表記し、「かみより」がなまって「こより」という名称になったようです。

 細く裂いた和紙を2、3本より合わせて強度を高め、ひも状にしたものです。
 こよりは祝儀・不祝儀の袋にかける「水引」の材料にもなるので、冠婚葬祭の場面で触れる人も多いかもしれません。最近では水引をアレンジした和風のアクセサリーもありますね。


 私は人生のある時期、この「こより」というものに日常的に触れていました。
 80年代後半、速記者養成所に通っていた時代です。

 速記録は習字用の半紙でつくった符号帳に、速記用のシャープ(0.7ミリ回転式)に書くのですが、この符号帳は、25枚の半紙を半分に折り、折り目のところに2カ所、千枚通しで穴をあけ、その穴からこよりを通して玉結びにして閉じます。
 そうして事務のかたがつくった符号帳の片隅には、養成所の名前のスタンプが押されていました。
 昇降口に置かれた長机には、いつも符号帳のストックと使用済み符号帳の回収箱があったので、速記術の授業や練習のために、いつもそこから取っていました。

 ちなみにうちの学校は、授業で使う文房具は無料で支給されていましたから、支給品オンリーなら全くお金がかかりませんでした(**下記注)。
 符号帳やシャープ以外にも、ノート、消しゴム、鉛筆、速記以外の普通のシャープ(0.5ミリノック式)、下敷きなどは、事務室に申し出れば即座にもらえました。(が、文具は大した金額ではないし、回転シャープがどうにも手になじまなかったので、私はシャープは自前で0.7ミリのノック式のを買ったりしていました)

**
適切なたとえではないのですが、アニメ『ようこそ実力至上主義の教室へ』で、調子に乗ってポイントを使い過ぎた生徒が無料の支給品で何とか生活する的な描写を見て、ちょっと身につまされました。要するに、支給品に選択の余地はないのです。何より実用性が大事な文房具なので、あそこまでのミジメさはありませんでしたが。

 符号帳の話に戻りますが、長期休暇の際は、1人につき1,000枚入りの半紙1箱を渡されます。全部符号帳に仕立てれば40冊ということです。
 千枚通しまでは自前で持っていない生徒が多かったので、大体は教室で共同で符号帳をつくっていました。2、3本の千枚通しを7人で譲り合って使うためです。
 よくよく考えると、千枚通し程度なら支給してくれてもよかったのではとか、買っても大した値段ではなかったのでは――と思いますが、まあそういうスタイルだったのです。

 こよりは細長い箱にたっぷり入っているし、しなやかで強いので、「あー、ちぎれちゃった。やり直し!」的なロスもありませんでした。
 適当に雑談をしながら気楽にできるので、割と楽しい作業ではありました。
 速記教官から「『なくなったのでもう1箱ください』なんて要望は大歓迎ですよ~」とプレッシャーをかけられましたが、そこまでの域に達した人がいたかどうかは記憶不詳ですが、私が知らないだけで“いた”のでしょう。マジメで練習熱心な人は、消費冊数でマウントを取ったりしないでしょうし。


 速記帳に半紙を使うのは、多分かなりポピュラーだと思いますが、議会勤めのときや、とある速記事務所から派遣されていたときは、裁断してのりづけ製本したタイプでした。
 正直これは、こよりで綴じたものよりも使いやすかったのですが、どうしても手に入らないときは、無地のノートや落書き帳的なもので代用していました。

 半紙は簡単に手に入りますが、個人で裁断やのりづけ製本するための道具を準備するのはなかなか難しいものです。
(高い安い以前に、どこで手に入るのやら…でした)
 せめて速記生徒時代みたいに、こより綴じができればと思うものの、そのこより自体、普通の文具店で聞いても「??」という反応でした。

 1990年代も後半に差し掛かったある日、スーパーで七夕飾りのセットを娘にねだられ、あることに気付きました。
 なんとっ、短冊を笹にくくるため「こより」が、短冊用紙と同じ本数入っていたのです。私はうれしくなって2セット買いました。もちろん1セットは、符号帳を綴じるこより目当てです。

 こよりがせいぜい10本しか入っていないのに、セット自体は500円ぐらいするので、かなり割高ではあるのですが、それでも久々の半紙符号帳にありつけ、かなり上機嫌でした。
 そうこうしているうちに現場派遣自体がなくなってきたので、符号帳をつくることもなくりました。


 速記現場に出なくなってから、もう20年以上になります。

 しかし裁断機、のりづけ製本用のあれこれ、そしてこよりに至るまで、ちょっとネット検索しただけでも簡単に見つかりますし、かなり安価です。
 ついでにいえば、速記にぴったりだと評判のシャープペン「プレスマン」も安価で買えますし、場合によっては100均でもそこそこのものが手に入ります。
 私が「現役」の頃は、そもそも100均で0.7ミリ、0.9ミリなどの太目のシャープもあまり扱っていませんでした。
 もっといえば、ダイソー、セリアなどの独立した100円均一ショップがなく、スーパーの一隅を使ったり、駐車場に運動会みたいなテントを張って「特設100円コーナー」みたいな。私が速記を始めたのは、そんな時代でした。

 不要になった後に調達しやすくなるとは、何とも皮肉なです。
 “こういう”現象に名前ってないのかな。

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