ジンバブエ・コンピュータ技術隊員の活動内容とは?[JICA海外協力隊の仕事]
今回は、私の活動内容を想像していただけるように具体的に書いてみようと思う。実際協力隊として何をするんや、というところである。
実はなんやかんやあって派遣後1ヶ月以上経ってもまだ任地に住み始めてもいなければ、活動も始まっていないに等しい。が実は、同じような要請で私とは別に2名のコンピュータ技術隊員が派遣されており、彼らの活動はもう1年以上が経過している。その先輩たちの話もつなぎ合わせて、今回は予定されている活動をできるだけ詳しく書いてみよう。
そういえば、ジンバブエで日々起こる面白いことを気楽に聞いてほしいなあと思って、Podcast を始めてみた(電波が弱くても簡単に上げられるのがいい)。2023/1/10現在、任地にいついけるかわからなくなったという話(#2 青天の霹靂)を上げているのでぜひ聞いてみてほしい。毎回10分程度で気楽におしゃべりしていくつもり。読むのちょっとめんどいな、、という人にもおすすめ。
🔼上記リンクから、SpotifyやApple Podcastsで聴けます!
要請内容
さて、JICAの要望調査票はこちら。JICAはこういった要請の概要を公開しており、誰でも閲覧が可能。応募時にはこの一覧を見て第三希望までの要請の希望を決める。
私はコンピュータ技術という職種で、ジンバブエのシャンバという村の教員養成カレッジに派遣される。業務の最終ゴールは、ざっくりいうならば、学校のICT環境の改善である。
いろいろ書いてはあるけれど、実際に何をするかは隊員次第であることは言及しておきたい。そもそもがボランティアであり仕事ではない。隊員の性格やスキルによって、同じ要請でも活動内容には差が出ることを念頭に置いていただく必要がある。
ちなみに私はジンバブエは希望していないけれどこの要請になった。周囲の様子を見ていると、半数程度が第一希望で通っているイメージである。決まった要請から変更を願い出ることは基本的にはできないし、私はあまり場所にこだわりはなかったので、希望外ではあったけれど受けることにした。
赴任先:マジワ教員養成校
赴任先にはようやっと一度訪れることができ、情報もだいぶ集まったので、できる限り詳しく書いてみよう。
首都からバスで2時間半。一番近い街まで40~50分かかる。協力隊が居る場所で一番田舎とのこと。なーんにもないところに、ぽつーんと大学がある。生徒も基本的に全寮制。寮には1000人程度の学生が住んでおり、学校が大きめの村みたいなものである。学内に小規模ではあるがクリニックや、野菜や卵が買える商店、食堂などがある(ただ私の住む教員寮からは徒歩30分くらいかかりそうだったので、毎日は行かなそう)。
ジンバブエも首都に上がれば大体のことができるけれど、日帰りは無理だろうな、、という感じ。なんせバスが何時に出るかがわからない。バスに人がいっぱいにならないと出てくれないらしい。アフリカあるある。
生活環境としては、停電は頻繁に起きるだろうけれど、元々鉱山だったのと変電所が近いので国内では比較的安定しているという話。電気はマシだが水が基本的にひどいらしく、昨年は3日に1回しか出なかったということなので節水は上手くなりそう。100ℓバケツに水を溜めて、飲む以外の水の用事を済ませるらしい。
家は一軒家で、教員の女性とシェアハウスとなる。家はまあまあ細かい部分はボロボロだったが水回りは綺麗で、住めば都となりそう。一人ずつ個室があり、さらにもう一人泊まれるゲストルームまでついている。
写真に映るシェアメイトが思ったより若く、いい人そうだったので異文化交流含めて楽しみなところ!サザ(というメイズの粉を温めて練ったこちらの主食)の美味しい作り方を教わりたい。
学校の機能は、小学校教員の養成をしているCollege(単科大学)と言える。1年目と3年目の学生はここで学び、2年目は学校で実習をしにいくようだ。学生は20代〜40代。ジンバブエの教員は優秀らしく、ジンバブエでは稼げない(公立校の給料が少なすぎる)ので他の国に出稼ぎで教えにいく人も少なくないらしい。
私はこの大学のICT部門のサポートスタッフとして勤務することになる。この学校のコンピュータ室などはまだ見られていないので、次回以降のnoteで情報を更新したい。前任者から聞くところによると、海賊版のWindows10が入った端末が100台程度あるとのこと。赴任したら、まずはそのうちの何台が使えているのか、そもそも今はどんな使用のされ方をしているのかから、要調査というところである。
他の教員養成校について
ジンバブエには10個の公立の小学校教員養成校がある。要は公立の専門学校で、各州に設置されている。私が赴任するマジワは、他の学校よりも田舎なので集中して勉強できる、とかいうことを売りにしているようだ。母校の筑波みたいだなあ…などと親近感が湧いてくる。なんなら大学が広くて、学内で街のようになっているところも似ていなくはないなあと勝手に思っている。
この上には高等教育省という省庁があり、基本的に高等教育省の政策によって予算などは決まるらしい。ICTには基本的にお金がかかる。例えば、新しくパソコン買ってくれ!ということを誰を通して誰に頼むのか、というのは組織図をきちんと理解しないといけなさそうである。
他の2校の教員養成校にも協力隊が現在4名派遣されている。2名は私と同じくコンピュータ技術で、2名は体育である。
先日、もう一人のコンピュータ技術隊員と体育隊員が派遣されている首都の学校に見学に行かせてもらった。
教員養成校の中で、コンピュータ環境はここが一番優れているということで、まずはこんな状態を目指すといいよ、というアドバイスを受けた。たしかに、4GB以上メモリが積んであるような、ある程度速く動くコンピュータの数も多く、All-in-oneタイプ(デスクトップパソコンとディプレイがセットになった一体型)の新しいパソコンも10台程度あった。
ICT部門の問題点
私はまだ赴任していないけれど、他校の様子を聞いて、その課題をまとめるようなことをしている。今、聞いた範囲でまとめてみようと思う。基本的には問題だらけではある。
まず、教員養成校のICT部門の担当領域は、①学内のICT環境を整える仕事と、②ICT教育関連の仕事があるように思う。
問題1. ICT専門のスタッフを雇えない
第一の問題点は、部門の仕事としては②がメインであるにも関わらず、この2つの仕事がごっちゃになっていることにある気がする。日本であれば、情報教員とは別にITの専門スタッフが常駐しており、パソコン系のトラブルはその人がやってくれるケースが多い。
だが現状、教員の給与も満足に支払えていない(月々$100~200とのこと)中、新たにスタッフを雇うのは難しそうだ。そのために私のような隊員がボランティアで働きに行くという面もある。
現状としては、ICTを教えられるような教員がICT関連のトラブル解決に当たっているため、教員の教員としての仕事が満足に行えていないようだ。ICT教員の専門性もそんなに高くはないので、トラブル処理も一回一回時間がかかっていると思われる。
問題2. 古くて遅いパソコン。数も少ない。
次に出てくるのは、パソコンのハードウェアが全て古く、中身も海賊版しかないということだろうか。一番整備が進んだ学校でさえ、Windows10は全てコピーされたもので、メモリが2GBしか積んでいないものも多くあった。2GBでWindows10はなかなか動かないし、海賊版は動きが変であっても文句は言えない。ただ、この国に海賊版を取り締まる法律はない(!)のである程度そこは容認していかないと話が進まないという面はある。
問題は、遅いパソコンは授業で使えないということだ。同じようなスピードで授業をしたいのに、遅いパソコンがあると授業設計が難しいだろう。
また、学生数に対してのパソコン数が圧倒的に足りない。マジワであれば1000人以上の学生に対して、満足に使えるパソコンは100台中何台あるのだろうか。半分あれば良い方かもしれない。
問題3. 環境整備に必要な情報がまとまっていない
こちらには文書化という概念がないらしい。例えば、ネットワーク環境整備に必要不可欠な構成図などが全く残っていない。業者がやったなら業者のものがあるはずだけれど、それも頼んでも出てこない。
どうやってメンテナンスするんじゃー!と思うけれど、基本的には動けばいいので適当にプラグを刺したりなんだりして、適当に動かしている状況らしい。それでどこかが動かなくなったら、いちいち全部調べて直す、あるいは直せない、ということになってしまっている。
PCも、どんなPCがどれだけどこにあるのか、というような管理は全くされていなかったようで、こんなもの盗み放題じゃないか、、というような感じ。盗まれてもそれを証明する手立てがない。
私の場合は前任者が半分くらいはやってくれている気がするので、私は実際にマジワに行って、どのくらい前任者の遺産が使われているのかを確認するところからスタートである。他のまだ協力隊が入っていない学校は、上記のような状態なのだと思われる。
問題4. 教員・学生ともにITリテラシーが低い
パソコンがどれだけ使えるかというのは、本当に人による。日本もまあ同じようなものかもしれない。地方の中高年の方たちはパソコンなんか使えない人も多いだろう。こちらも、大学の教員はおじさんおばさんの年代の人が多く、そういった人たちにコンピュータの概念を(デジタル化すると仕事が楽になるんだよ!ということから)説明するのは難しそう。我々のターゲットは若い学生にしたほうがいいかもね、というのは話し合っている最中である。
学生も教員もリテラシーが低く、なんでもIT担当者に聞きに来てしまうので、工数削減のためにもIT教育は必要そう。「ググる」という概念を教えてあげた方がいいよ、というのは前任者のお言葉である。
隊員たちもインストラクターではないけれど、何度かワークショップを開き、いろんなスキルを教えようと試みているとのこと。
教員にICTの授業を教えるスキルがないというのも問題のように見える。現状、首都の一番ICT環境が整えられているとされている学校でも、プラクティカルレッスンと呼ばれるような実践的なパソコンの使い方の授業はほとんど行われていないようだ。小学校教員になるためのテストは筆記なので、プラクティカルな授業がなくてもいいらしい。学生は結局、ICTの授業の教え方だけでなく、コンピュータの使い方をわからずに卒業していく。
また、既存のコンピュータ技術隊員が困っているのは、学生教員に関わらず、パソコン室に蓋なしの飲み物や食べ物を持ってきてしまうことだという。そしてこぼしてパソコンを壊す。こちらの環境でパソコンを直すのは簡単ではない。困るのは使用者なのに、なかなか習慣がつかないようだ。
ルールを作って週次でチェックさせるなど徹底は促しているものの、アフリカンのルーズさにもよってあまりうまく行っていないように見える。部屋の入り口に飲み物BOXでも作ろうかと考え中である。
解決が難しい問題(前提とする環境): 電力供給が不安定
これは学校では手を出すことができないのだけれど、電力が不安定というのはICT教育ひいてはICTの普及において、大きな問題であるとは思う。停電しまくっていたら、いつパソコン室で授業ができるかわかったものではない。またコンピュータやその他のハードウェアも、コンセントを毎回引っこ抜かれているようなもので負担がかかって良くないのは自明。
電力供給は近々の2年間で改善することが政府からは言われているが、この国の将来がどうなるかは正直わからない。解決するとしたら学校で発電のジェネレーターを常備するのか、ソーラーを常備するのか、ということになると思うけれど、発電の予算はどう取るか考えると現実的ではない。
参考: BBCがジンバブエの電力不足について書いたニュース
解決策の理想と現実
たくさん問題点を上げてきたけれど、全てを2年間で、一人で解決するのは無理だし、どこを理想の状況として良いのかもよくわからない話ではある。日本の水準を目指すのは無理があるだろう。そもそも日本の水準が正しいのかも議論の余地があるかもしれない。あるのは絶対に問題だらけな現場だけ!笑
今このnoteを書いていて、少しずつ、こちらの教員が仕事をしやすいように整えてあげるしかないんだろうなあと思うところである。
終わりに:私の仕事内容(予想)
実際に赴任したら、まずはいろんなトラブルシューティングから始まりそう。いろんな人の悩みを聞きつつ、壊れたパソコンを直したり、遅いネットワークを少しでも改善したりして、現地のICT教員やその他教員、また校長先生の信頼を得るところから始めたい。
現時点では、その後、ICTリテラシー改善のワークショップを開いてみたり、設備投資の提案を校長や高等教育省にしてみたりするところまで行けたらいいなあと考えている。
また、唯一使われている(のかは行ってみてからのお楽しみ★だけれど笑)図書貸出ソフトや成績処理ソフトの改善や、WordPressで作ってあるという学校のWebサイトの改善・更新なんかも仕事にできそう。
またJICA的にやっていいのかはよくわからないけれど、日本の中古PCを販売する企業に協力してもらうか、クラウドファンディングでお金を集めて新しいコンピュータをいくつか購入する、というのも手かもしれない。お金を集めるのもスキル、ということでローカルの人たちをうまいこと巻き込んで、プロジェクトを作るのも面白そう。
必要とされる支援と自分のできることが必ずしもイコールとは限らないのが協力隊活動。他の学校で働く隊員や、日本の友人たちの力を借りて、少しでも実になる種を蒔けたらいいなあと考えている。