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権限委譲は、ただ「任せる」だけじゃない
昨年8月に、2年間EMを務めていた「カンリーホームページ」のチームを引き継いだ。
元々リーダーをやってくれていたメンバーをEMに昇格させ、役割をバトンタッチした形になる。
自分がEMとしてやってきたことを他の人に渡すのは簡単なようで難しい。
「ちゃんと任せきれるのか?」
「フォローしすぎると、結局自分がやってしまうのでは?」
「どこまで口を出していいのか?」
こういう悩みが出てくる。
権限委譲は、「任せる」と言葉で言うだけじゃなく、どうやって任せるか? が大事。
自分の経験を振り返りながら、権限委譲のテクニックを整理してみる。
1. 「任せる範囲」を明確にする
権限委譲で一番やりがちなのが、「結局どこまで任せるのか曖昧」という状態。
「この決定は、新EMがしていいのか?」
「ここはまだ自分が見たほうがいいのか?」
「どこまで相談を受けるべきか?」
こういう曖昧さがあると、任せられた側も判断しづらくなる。
なので、「任せる範囲」を明確にすることが大事。
具体的にどうやるか?
「この範囲の意思決定はあなたに任せます」と明確に伝える
「何を相談してほしくて、何は自由に決めていいか」 をはっきりさせる
必要なら「ここは半年後に引き継ぐ」「これは最初は一緒に決める」みたいに、フェーズごとに分ける
例えば、今回の引き継ぎでは、
「チームの戦略やロードマップの決定は新EMに任せる。ただし、組織的な意思決定は相談してOK」 みたいに整理した。
これを言語化して伝えるだけで、だいぶ動きやすくなる。
2. いきなり全部を渡さず、少しずつ委譲する
「もう全部任せる!」といきなり振るのも手ではあるけど、
現実的には、段階的に渡していく ほうがスムーズにいく。
急に「全部あなたの判断でお願いします」と言われると、
相手もプレッシャーになるし、見えないところで負担がかかることが多い。
具体的にどうやるか?
最初は「一緒に判断する」→ 徐々に「任せる」にシフト
「この領域からやってみて、問題なさそうなら次の領域も任せる」 という形で渡す
1on1で「どこが負担になっているか?」を定期的に確認する
今回は、最初の3ヶ月くらいは「自分も相談役として一緒に考える」モードで、
「もう自分がいなくても大丈夫だな」と思ったタイミングで、完全に引き継いだ。
3. 判断に迷ったときのガイドを作る
権限を委譲すると、当然ながら「判断に迷う場面」が出てくる。
「こういう場合、前任者ならどう判断してたんだろう?」
「どこまでチームの裁量で決めていいのか?」
「これは会社の方針と合っているのか?」
こういうとき、「判断の指針」 を作っておくと、引き継ぎがスムーズになる。
具体的にどうやるか?
「判断の基準」や「過去の事例」を共有する
「これはこう考えて決めていた」とロジックを伝える
「同じ状況になったら、どう判断する?」をディスカッションする
例えば、
「チームの技術スタックを変更する場合、どこまで相談すべき?」 という問いに対して、
「開発効率に大きく影響するなら、チーム内で議論して決める」
「会社全体のアーキテクチャに関わるなら、CTOや他チームとも相談する」
みたいなガイドを用意しておくと、新EMが判断しやすくなる。
4. 失敗する余白を残す
権限を委譲した後、つい「大丈夫かな?」と口を出したくなることがある。
でも、細かくチェックしすぎると、結局任せた意味がなくなる。
大事なのは、「ある程度の失敗は許容する」 というマインド。
小さな失敗なら、むしろ学びになるので、
「それは自分で気づいてもらったほうがいい」と思って見守るのも大事。
具体的にどうやるか?
すぐに修正できる範囲なら、口を出さずに様子を見る
「こういう結果になったけど、どう思った?」と振り返りを一緒にする
「失敗しても安全な範囲」を用意しておく
今回は、
「多少進め方が違ってもOK。結果的にチームが前に進んでいればOK」というスタンスでやった。
実際、小さなズレが起きることはあるけど、
その都度話し合って改善していけば、最終的にはいい形に落ち着く。
5. 抜擢人事 × 権限委譲の相性
今回、新EMに昇格したメンバーは、元々チームリーダーだった人。
つまり、ある程度「ポテンシャルがある」と思って抜擢した形になる。
先日、別の記事でも書いたがサイバーエージェントの曽山さんが提唱している「抜擢人事」 の考え方は、自分も好きで、
「実力が完全に揃う前に、先にポジションを渡してしまう」というやり方は、かなり良いなと思っている。
抜擢人事 × 権限委譲のセットで考えると、
先に役割を渡して、成長する機会を作る
フォローしつつ、最終的には自立してもらう
という流れが作れる。
権限委譲の目的は、「自分が楽をするため」ではなく、
「組織の力を引き上げるため」 なので、
「渡した後に、どう成長できる環境を作るか?」が大事だと改めて感じた。
結局、権限委譲は「チームの成長戦略」
権限を委譲すると、最初は不安なこともあるけど、
長い目で見れば、組織としての成長につながる。
任せる範囲を明確にする
少しずつ委譲する
判断基準を共有する
失敗の余白を作る
抜擢と組み合わせる
こういうことを意識すると、
単なる「役割の引き継ぎ」ではなく、
「組織が強くなるための仕組み」 を作れる気がする。