話を聞く力がない人は仕事ができない
ビジネスパーソンが身に付けるべきスキルは膨大ですが、そのすべての根幹にあるのが「言葉の取り扱い方」です。
なぜならどんなに優れた意見やアイデアでも、アウトプットが不適切だと色あせてしまいますし、言葉を発するという基本スキルのレベルが低いと発案者の評価まで下がることすらあるからです。
すなわち
"アウトプットファースト"
の考え方が身についていないと、結局自分の殻に閉じこもって、相手を見ていないビジネスしかできなくなってしまいます。一流の人間ほど話すのが上手く感じたり、言葉遣いに繊細に見えたりするのは、たった1つの発言が適切かどうかで仕事の成果が一変する場面を幾度となく経験してきたからでしょう。
では、どうすれば一流のビジネスパーソンや決定権のある役職者に対して
適切な言葉遣いができるようになるのでしょう。
たとえば、新入社員には仕事以前に覚えたい「社会人としての基礎用語」と言うものがあります。
しかしこの基礎用語、新人だけに向けたものではありません。
当然ですよね。
新人だけが知っていても、中堅やベテランが知らなければ結局コミュニケーションは成立しないのですから。新人だけが知っておけばいいもの…というものは存在しません。新人以降の全てのビジネスパーソンが、ずっと覚えてもらわなくては困ります。
ですが残念ながら5年、10年キャリアを積んでいても、誤った言葉遣いで評価を下げる人は多いのが現状です。これは外部の研修などでもよく耳にしますし、日々実感することでもあります。
「言葉遣いやマナーを研修に取り入れてほしい」とリクエストされる傾向は大企業ほど顕著で、そういった研修機関のカリキュラムの9割に言葉遣いが含まれると言っても過言ではありません。
たとえば、こんな言葉遣いを耳にしたことはないでしょうか。
アドバイスをくれた上司に「参考にします」
取引先への電話で「〇〇様はおられますか?」
来客にお茶を差し出すときに「お茶になります」
これらはわかっている人から見れば、失笑を買うレベルの明らかな誤りですよね。
1つめの「参考にします」は「考えの足しにする」というニュアンスがあり、目上の相手に使うのは失礼にあたります。「勉強になります」が正解です。このように表面上は丁寧に見えても、実は相手を下に見ている言葉遣いを「見下し敬語」と呼びます。
ほかにも取引先との会話で自社のことを「×当社(〇弊社)」と言ったり、メールや郵便などで目上の人相手に「×殿(〇様)」と書いたり、上司や取引先の発言に対して「×そのとおりです(〇おっしゃるとおりです)」と言ったりするなど、知らずに相手を格下扱いしている例は少なくありません。
2つめの「〇〇様はおられますか?」は敬うべき対象を間違えた「逆さま敬語」です。敬語が逆さまになるのは、謙譲語(自分を下げる言葉)と尊敬語(相手を立てる言葉)の使い分けができていないのが原因かもしれません。きちんと社会人教育を施している企業であれば、必ずと言っていいほど眠くなるカリキュラムの中に「敬語(尊敬語/謙譲語)」の使い方があると思います。この例でいえば「おる」は「いる」の謙譲語で、自分に使う言葉。相手の所在を問うときは、尊敬語の「いらっしゃいますか?」を使うのが正解です。
ほかにも取引先との会話で「×ご承知ですか(〇ご存じですか)」や「×鈴木課長がおっしゃっています(〇上司の鈴木が申しております)」など、ウチとソトの違いを適切に表現できていない言葉遣いが目立ちます。
3つめは、結論から言うと「お茶になります」ではなく「お茶でございます」が正解。「なります」と言われるようになった理由は諸説ありますが、飲食店のアルバイトなどでこう習った人も多いようです。同じく「×こちらのほうは(〇こちらは)」「×早める方向で(〇早めるように)」などのように、語尾をぼかす「ぼかし敬語」は、とくに若い人が使いがちです。
これらは「何となくソフト」な印象を与えるものの文法的には誤りで、イラッとする人も多い間違いです。
このように敬語の使い方1つとってもさまざまな誤りがありますが、厄介なのはいずれも自分では「丁寧な言葉遣いができている」と勘違いしていることです。
言葉遣いは、周囲が注意してくれるうちが華です。
取引先が指摘してくれることは皆無なほか、歳を重ねるほど相手にされなくなり心のなかで失笑されることになります。誤りを正す機会を逸すれば、この先何十年と信頼を失い続けることになるのです。
それを示すデータはきちんと存在しています。
文化庁では『国語に関する世論調査』というものが行われていますが、その中で大手企業数十社に対するアンケート調査において「昔に比べて言葉遣いが乱れていると感じることはあるか」と質問したところ、
管理職で「強く感じる」「感じる」と回答した人は合計68.7%
管理職以外の人の回答(54.9%)と比較して、約14%高い結果となっています。
ここからわかるのは、責任ある立場の人ほど言葉遣いの乱れを重く見ているということ。仮にあなたが管理職だとして、言葉遣いが丁寧な部下とそうではない部下、どちらに仕事を任せたいと思うでしょうか。
能力に大差がなければ、当然前者です。
適当な言葉遣いしかできないままでは、責任ある仕事は任せられません。誤った言葉遣いはキャリア形成にもマイナス作用を及ぼすわけです。まぁその上司が必ずしも正しい言葉遣いができているかどうかははなはだ疑問ではあるのですが。
正しく美しい言葉遣いは、「誰でも」「何歳からでも」身に付けられます。
しかし会話に苦手意識がある人ほどはまりやすい落とし穴があります。
それは「自分が話す言葉ばかりに意識を向ける」ことです。
ビジネス会話の基本は「相手の話をきちんと聞く」こと。
会話が苦手と感じている人のほとんどは、実は「話し方」そのものでなく「聞き方」に問題があります。流麗な言い回しやしゃれた切り返しなど必要ありません。大切なのは、誠実な受け答えで「相手の気持ちを受け止める」こと。それだけで相手に満足感を与えるため評価は格段に上がります。
「相づち」で承認欲求を満たす
相づちは、相手に「話をしっかり聞いている」ことを伝える重要なサインです。「はい」や「ええ」といった相づちは、たとえるなら相手の投げたボールが確実に届いたことを知らせるミット音のようなものです。これがないと、相手は「ん?届いた…のかな?」と自分の言葉が本当に伝わっているのかわからず不安になります。
さらに、相づちの効果をもう1つあります。
「はい」「ええ」を繰り返すだけではなく、会話の内容に応じて
「さすがですね!」
「とてもよくわかります」
「それは存じませんでした」
といった「共感(感動)を表す一言」を入れてみましょう。人は誰でも、自分の話を聞いてほしいもの。それだけで相手の承認欲求は満たされ、会話が弾み、雑談もうまくいきます。
「応答」の変化で差をつける
日常会話だけでなく、命令や指示を聞くときでも好印象はつくれます。
若い人は多くの業務を上司や取引先の指示を仰ぎつつ進めていくと思いますが、返事が「わかりました」「ありがとうございます」だとしたら非常にもったいないと思います。
「わかりました」は「承知しました」「かしこまりました」に、「ありがとうございます」は場合に応じて「恐れ入ります」と言い換えてみましょう。どちらも仕事に取り掛かるうえでの緊張感が伝わり、相手に「任せられるな」と思わせられます。
このような応答のバリエーションは、ほかにも知っておくと大変便利です。
・上司や取引先が、贈り物をくれたときは「ありがたく頂戴いたします」
・自分のために動いてくれたときは「お言葉に甘えさせていただきます」
・褒めてくれたときは「おかげさまで……」
と、感謝の気持ちを伝えるだけでもさまざまな形で適切な言い換えができます。一流と呼ばれる人ほど、自分の言動に対してどのような言葉で応答してくるかでビジネスパーソンとしてのレベルを見抜くもの。
どれだけ言葉の選択肢に幅があるかで、日頃の教養の度合いもすぐにバレます。ここで大きな差が開くんですね。
話の最後に「確認」する
たとえば、あなたが上司や取引先から業務内容の説明を受けたとします。
このとき頭の中で完璧に内容を理解できていたとしても、必ず最後に
「承知しました。では〇日までに××をお送りいたしますね」
と声に出して確認しましょう。私はベテランと呼ばれる歳や身分になっても常に行っています。つい先日も転職したばかりということもあって、ある打合せの記録(議事録)作成を自ら引き受けましたが、上司からは「月曜日中に」と言われましたが
「リミットは月曜日中ということで承りましたが
それほど時間はかかりませんので、早々にお送りします」
と返しました。「そこまでしなくていいよ、月曜にしか見れないし」とも言われましたが、いつ見るかなんて関係ないんですよね。私がいつ提出するかを声に出してあらかじめお伝えしているだけなので。
やることは、
・最低限、相手から聞いたことを手短に復唱して、理解を証明する
これだけです。私の場合はそこに+αで今後の計画を述べてはいますが、最初に復唱していますよね?
とても簡単ですが、これだけでミスは激減し、相手は確実に伝わったことに安心します。忘れてはならないのは「言葉遣いは相手への“心遣い”」だということ。言葉遣いを確認するだけで、その人がどんな性分の人かわかってしまうことだってあります。
敬語を覚えることも大切ですが、本当に心のこもった受け答えなら多少の間違いは目をつぶれるものです。反対に、上辺だけの相づちはバカにされた気分になる最低のコミュニケーションです。
言葉遣いには、その人が仕事や他人に対して、心の中でどのような目を向けているかが表れます。つまり、
あなたが言葉を口にするときは、相手から心の中も覗かれている
のです。