誤った対応が客を悪魔に変える
最近では、モンスターカスタマー、モンスターペイシェントという言葉もある程度定着してきましたね。私がどこかの勇者だったら根こそぎ経験値に変えてしまうところですが、残念…ただの町人でした(村人よりはマシ…?)。
運がいいのか悪いのか、私はそこまでのモンスターには出逢ったことがありません。もちろん理不尽な要求をしてくるユーザーや取引先はいましたが、モンスター…というよりは、単純に無能に近かった気がします。あと、お歳を召しすぎて時代と合ってないというか、なんだかよくわからない人とか。
まぁ、モンスターカスタマーが生まれる背景には、元々商品なりサービスなりを提供する企業側に落ち度があったのかもしれません。けれども、土下座だとか理不尽な要求を突きつけ、エンドレスで執拗に企業をイジメ抜こうとしてきます。
が。
そう言う特殊な性癖の人たちは置いておいたとしても、そもそもお客さまに「不満」を抱かせるような何かをしてしまっている時点で、ビジネスモデルのどこかに問題があるということは忘れてはいけません。モンスターなのは勘弁してほしいですが、クレームの発端はそうした落ち度があるからこその表れです。
グッドマンの法則
クレーマーは、表情に出すか出さないかは別にして、たいてい怒りの感情を抱いています。そう、有名な「グッドマンの法則」ですね。
第一法則:「不満を持った顧客のうち、苦情を申し立て、その解決に満足し た顧客の当該商品サービスの再入決定率は、不満を持ちながら 苦情を申し立てない顧客のそれに比べて高い」
第二法則:「苦情処理に不満を抱いた顧客の非好意的な口コミは、満足した 顧客の好意的な口コミに比較して、二倍も強く影響を与える」
第三法則:「企業の行う消費者教育によって、その企業に対する消費者の信 頼度が高まり好意的な口コミの波及効果が期待されるばかりか 商品購入意図が高まり、かつ市場拡大に貢献する」
というやつですね。
したがって、クレームを円満に解決するには、まず何よりも先に相手をクールダウンさせることが前提になります。クールダウンさせるためには、何よりもまず、「原因の特定」と「適切な是正」、そして「速やかな対応」を姿勢として見せなくてはなりません。
なりません…よね?
みなさんも、一般消費者の立場になったら、そう求めませんか?
「スーパーに行って、100円と書かれた商品をレジに持っていったら
300円で計上された。」
問題(と感じていること)の原因は「値札が異なっていること」、是正は「正しい価格を知ること」そのうえで買うのを止めるか、別の商品を選択するかを決めることになると思います。
「新型iPhoneを購入したが、壊れて動かなかった」
問題(と感じていること)の原因は「購入商品から期待した効果が得られなかったこと」、是正は「商品を速やかに交換すること」になるのではないかと思います。できれば、wktkしてたこともあると思うので、即日交換できるのがベターではないでしょうか。
頭文字 D
ところが、自己保身に走る人は、まず第一声から自己保身の言葉を紡ぎだします。その言葉には、お客さまへの配慮等は一切含まれていません。だから、本来は温厚なお客さまでもクレーマーへと変質していきます。
悪意や害意があってクレーマーになるのでなければ、クレームの根本的原因は大抵こちら側にあります。
不用意な一言と言うと、数え上げればキリがないのですが、次の記事では3つのDがつく言葉がマズいんだそうです。
この記事でいう「D言葉」は、一般的に多くの相手にとって次のように伝わります。
「ですから」……〈そんなこともわからないの?〉という「上から目線」
「だって」………〈そんなことを言われても困る〉という「逃げ腰」
「でも」…………〈それは違うんじゃないの?〉という「反抗的な態度」
当然、上司からの叱責などにおいても同様です。必要に応じ、適切な言葉遣いを勘案したうえで意図的にこの言葉を選択しているのであれば良いのですが、大抵の人は無意識のうちに使うことが常態化しています。
IT企業に仕事を依頼するお客さまも同様です。
自分たちでは解決できない課題や問題を、ITの力を使って解決してほしいと望んで依頼しているのです。システムを作ることを目的としているのではなく、問題を"システムを作ることによって"解決してほしいのです。そのため、解決に至っていない終わり方が待ち受けていると感じると、大抵のお客さまは一変してクレーマーに変質します。
「8桁~11桁もの大金を投じて、何一つ解決できなかった…」では、事業が成り立たないわけですから当然の話です。クレーム対応では、通常の接遇より細やかな目配り/気配りが求められるのは、ある意味で当然と言えます。
どう対応すべきなのか?
では、こうした場合には、どのように対応すればいいのでしょうか?
クレーム対応の経験が豊富な担当者なら、状況に応じてうまく切り返すことができるでしょう。中には、気のきいたジョークで一気に場をなごませることができるかもしれません。しかし、慣れないうちは、そんなことはできなくて当然です。
まずは、相手の神経を逆なでする言葉の使い方を封印しましょう。ほんの少し、フレーズを変えるだけで全く印象が異なります。先ほどの記事では
「ですから」→「失礼いたしました」
「だって」→「承知いたしました」
「でも」→「すみません」
とすると良いとあります。
これには、私も賛成です。「言い訳」によって自己正当化しても、相手は絶対に納得してくれはしないからです。加えて、クレーム対応では『否定』を使うのではなく、ほんの少し言い方を変えて『条件付き肯定』を使うようにすることをオススメします。
たとえば、「ですから、〇〇が無いからダメなんです(NO)」と言う否定フレーズに代えて「失礼いたしました、〇〇をお持ちいただければ対応させていただきます(条件付きYES)」と応じれば、余計な怒りを買うことはないはずです。
言っている意味は全く同じでも、与える印象は180度違います。
「ですから、〇〇が無いからダメなんです」は、言い換えれば「○○と言う条件が満たされていないためにできない」と言っているのですが、「満たしさえすればできる」と言う意味自体は変わりません。ですが、言い方が否定的なために、相手には拒絶にしか受け取られません。
最初から「できます、ただし〇〇という条件を満たしていただければ」と言う建設的な意味合いにしてしまえば、問題となるケースもグッと減るはずです(まぁ、相手に悪意があれば、何をしてもダメかもしれませんが)。
でも/だって禁止令
少し話は変わって。
私がプロジェクトマネージャーをしていた頃は、若手のエンジニアの子にそういったフレーズを常用している子がいたので、私の運営するチームでは、
「でも/だって禁止令」
を発令したことがあります。机の上に貯金箱を置いて、日頃の会話から「でも」「だって」と言うフレーズを使うことを禁止し、1回使うごとに100円支払うルールにしました(たまった分は、チームの打ち上げ費用に活用しました)。
「NO」を言わせない代わりに、「YES, BUT」となるよう、
「できない」理由はいらない。今できなくてもいい。
「できる」ための条件を提示しなさい。
時間か?スキルか?情報か?お手本か?環境か?
与えられるものは最大限の条件を満たせるよう、私が動くから、
満たした以上は、達成できるよう最大限がんばれ。
最大限がんばってることがわかれば、結果は私が責任もってやる。
と言い続け、長い時間をかけて訓練させました。昨今でいうところのサーバント型リーダーシップと言うやつですね。まぁ、個々の頑張りが最大値化するように誘導するのも相当苦労しましたけれども。
私がプロジェクトマネージャーをしていたのはかれこれ10年近く前のことなので、当時はそんな言葉なかったと思いますが、私自身、若いころに相当な悪環境で揉まれてきたせいか、「生産性が高くなる現場にするには?」「残業が必要ない仕事の仕方って?」「もっとも仕事のしやすい環境は?」「結果を最大値化して、且つ最も楽に進められる方法は?」を考えるのが癖になっているからかもしれません。
しかし、こうした経験は、そのチームメンバーにとって、簡単に「NO」を言わなくてもよくなる良い訓練になったと思います。それは、クレームを受ける際への対応、あるいはクレーマーへの対応などでも十分活きてくるスキルだったりするのです。
ソフトウェア開発における「品質保証」と言う立場でそのような状況に関わるというのは、大抵が開発チームが起こしたトラブルの時です。私自身が作ったものでもなければ、おそらくは中身を完全に把握していない状況でしょう。
そんな状態で、ユーザーに対策を説明する際、「責任を持って~」と断言できるかどうか怪しいものです。しかし、心の中では当然ながら「責任をもって、ユーザーを満足させる」というつもりでいます。どんなに大変な状況になったとしても、
「最後の最後にお客さまが納得できる形にもっていけばいいんだべ?」
としか考えていません。それさえ満たせていれば、円満にプロジェクトが終了するからです。むしろユーザーが納得していない状態で終わらせると、
・クレーム
・機会損失
にしかならず、いずれ企業の成長を損なうことになりかねません。
ビジネスにおいて、責任感を持てない人間ほど信用できないものはありません。それが、自分の作ったものであろうとなかろうと、関係ありません。ビジネスは個人間ではなく企業間で執り行うものだからです。
よって、こうした意識は個人一人ひとりが持つべきものではありますが、その際に「自分が」ではなく、「我々が」と言う主語を付けて考えられるようになれば、本当の意味で一人前の社会人になったと言えるでしょう。
クレーム対応から適切に解決へと導けるか否かは、ある意味でその業界における「ビジネスパーソンとしての成熟度」も推し量れると言えるかもしれません。