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ジグソウの元ネタ / 「サスペリアPART2」

イタリア映画のスリラーのことをジャッロと呼ぶのだが、このジャンルを開花させたのがダリオ・アルジェントだ。セルジオ・レオーネ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト」などの脚本家として活躍し、映画監督としてデビューして数年後に撮った作品が1975年の映画 Profondo rosso だ。本作はジャッロのなかでも特に面白い。今日のホラー映画にも大きな影響を与えている。なお、本作の2年後にダリオ・アルジェント監督は「サスペリア」を発表するのだが、日本では「サスペリア」の方が先に公開されたので Profondo rosso の邦題が「サスペリアPART2」になっている。どうして東宝東和はこうもバカなのか。Profondo rosso は英語での題名が Deep Red と、ちゃんと直訳になっている。だから僕は本作のことを「深紅」と呼ぶ。

本作は明るい赤を基調とした「サスペリア」と対をなすように、血液のような深い赤色が強調され、暗い部屋や夜のシーンが多く、人間の心理を描写するように撮影されている。映画のポスターを見ても分かるように、これはアルフレッド・ヒッチコック監督の「めまい」のリミックスだ。

なにが「サスペリアPART2」やねん

主人公であるイギリス人のジャズ・ピアニスト、マーカスを演じたのはデヴィッド・ヘミングスだ。ミケランジェロ・アントニオーニ監督の1966年のパルム・ドール受賞作「欲望」(原題は Blowup)で主演したヘミングスを起用したことも、この作品がサイコ系の映画へのオマージュであることを表している。
しかし、ダリオ・アルジェントはただのパクリでは終わらない。「深紅」において効果的に使用されたアイテムは人形である。冒頭に掲げた写真のように、不気味な人形をいくつか登場させ、ただの殺人事件の捜査に留まらず、物語に狂気を漂わせている。なお、この人形がホラー映画「ソウ」に登場するジグソウ・キラーの人形の元ネタである。

東宝東和はバカな邦題を全て直訳に訂正しろ

本作は途中から、マーカスと一緒に事件の謎を解くジャンナという女が登場するのだが、このジャンナを演じていたのはダリオの嫁、つまり女優アーシア・アルジェントの母親である。

「サスペリア」は私が主演のはずだったのに…

マッチョを気取るも実は気弱なマーカスと、男勝りの性格のジャンナという組み合わせは、シャーロックとワトソンのアップデートだ。2年後の「サスペリア」でも音楽を担当していたゴブリンの曲も映画の不穏な調子に合っていて、126分の作品だがその長さを感じさせない仕上がりである。
ちなみに「深紅」に登場する重要な人物のファミリーネームは、劇中ではほぼ言及されることがないものの、Manganiello (マンガニェロ)である。本作の5年前に公開されたベルナルド・ベルトルッチ監督の映画「暗殺の森」に登場するファシストのエージェントと同じ名であり、これは遊び心だろう。
よく出来たジャッロでありつつ、エンタメとして楽しめる佳作だ。とにかく邦題のせいで損をしている作品である。

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