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これがアメリカの強さ / 「ブルース・ブラザーズ」

シカゴを舞台にした映画といえば「スティング」や「逃亡者」など数多くの作品があるものの、やはり1980年の映画「ブルース・ブラザーズ」が筆頭になるだろう。コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」に登場するキャラクターを主人公にした、この"おバカ"な映画は全米で大人気になり、日本のバラエティ番組は本作の音楽をはじめ演出などを真似しまくった。ユニバーサル・ピクチャーズの作品なので、しばらく前までUSJにおいてもブルース・ブラザーズのショーが開催されていたそうだ。この列島ではTOHOシネマズのおかげでほとんどの人が"みんなが観ている映画を観る"のだから、「ブルース・ブラザーズ」なんて知名度は低いだろう。
本作はあらすじもヘッタクレもない。ジョン・べルーシ演じるジェイクと、その弟エルウッド(ダン・エイクロイド)が、自分たちの育ったカトリックの孤児院の固定資産税5000ドルを支払うために、有名なミュージシャンを集めてバンドを結成し、ライブ活動によって5000ドルを調達しようとする、というだけの話である。その過程において、ミュージシャンたちとの歌やダンス、コメディが次々と繰り広げられ、ついでにアメリカ・ナチ党や警察をおちょくりまくる。
そもそも、バンドを結成するという神の啓示をジェイクが受けたのはトリプル・ロック(三位一体のシャレ)というバプテスト派(カトリックではない宗派でアメリカ最大)の教会であり、その牧師がジェームズ・ブラウンである。そしてエルウッドは"We're on a mission from God"(俺たちは神からの使命を果たしてるんだ)を口説き文句として使っている。もう全てが笑いである。
ジェームズ・ブラウンの他にも、レイ・チャールズ、アレサ・フランクリン、キャブ・キャロウェイ、ジョン・リー・フッカーなど有名なアーティストたちが出演している。黒人音楽へのリスペクトを表した映画だ。これは1980年の映画だが、アメリカでは黒人の音楽を忌み嫌う白人が少なくなかった。黒い帽子に黒いスーツ、そしてサングラスという出で立ちはブルースのミュージシャンたちへのオマージュとして採用したらしいものの、「メン・イン・ブラック」や「マトリックス」など多くの映画がこの格好を真似している。バカなコメディを演じつつ、世の中の差別に一石を投じる内容になっている。
僕の高校時代の友人は本作の大ファンだった。僕もブルースが好きだったので、よくCDの貸し借りをしていた。当時は映画や音楽が"外の世界"を案内してくれた。今やスマホを通じて手軽に世界中へアクセスできる時代なのに、日本のパスポート取得率はたったの17%である。外の世界を旅せず、本もろくに読まず、流行るものはアニメとワクチンだ。ずいぶん"クール"な国民である。
さて、警察をおちょくっている本作のラストシーンではシカゴの市庁舎の前に数百人の警察官や州兵が集まるのだが、その多くは本物の警察官や州兵である。こういうジョークをみんなで楽しむところがアメリカの強さである。

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