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どっちが怪物でしょう / 「モンスター」

さて、昨日からシャーリーズ・セロンの話ばかりしているので、2003年の映画「モンスター」について書いておきたい。アカデミー主演女優賞をはじめ数多くの賞を受賞したシャーリーズの演技と特殊メイクは素晴らしく、主人公である娼婦の殺人鬼アイリーン・ウォーノス本人としか思えなかった。シャーリーズは役作りのために13kgも太り、眉毛も剃り落とすなど、この映画でステップアップしようという気合いが漲っていたが、目の動きから身体の動かし方に至るまで、演技力の高さを見せつけることに成功した。
1989年から90年にかけて七人の顧客を殺害したアイリーン(シャーリーズ・セロン)は、レズビアンの友人セルビー(クリスティーナ・リッチ)と行動をともにしていて、本作もこの二人の生活を撮っているのだが、結局のところ、警察の捜査に協力して司法取引に応じ、アイリーンの極刑を確定させたセルビーこそがモンスターではないかという気分にもなる映画だ。実際にアイリーンは最後までセルビーを愛していると告げ、おそらく彼女が裁判において告白しなかったことがあると思われるからだ。劇中でのセルビーという名はもちろん訴訟を避けるための役名であり、本名は別である。アメリカでは今でもその行方について記事が出るくらいだ。
しかし、アイリーンという女を見ていると、ある種の悲劇を感じてしまう。親は精神病であり、祖父母に虐待され、本人は反社会性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害を患っていると診断された。いろんな精神病にまつわる単語をアイリーンに当てはめることは簡単だが、要するに脳の機能不全を持って生まれた以上、世の中で生活していく上で何らかの困難を抱えるであろうことは必然だったと言える。
おそらく、顔の特徴や体付きなどよりも、脳の特徴がいちばん遺伝しやすいものではないか、という気もする。僕は父方の脳の特徴を強く遺伝しているだろう。はじめてそう感じたのは、父親と同じ形の字を書くと母に指摘された時だった。人の活動はほとんど脳によって統合されているのだから、どんな脳を遺伝したかということはその人の人生を大きく左右するだろう。アイリーンの話を見ていると、そういう意味で可哀想な気持ちにもなってくる。

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