【考えるヒント】 撮影監督とか脚本家にも注目してみてね
アカデミー賞の作品賞がほぼ茶番と化して久しいものの、他の部門ならまだマシである。前回の記事で取り上げた映画「レヴェナント:蘇えりし者」において、美しい自然の雄大を撮影したのはエマニュエル・ルベツキというメキシコ人の撮影監督なのだが、この男は2013年の映画「ゼロ・グラビティ」、翌年の「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」、さらに翌年の「レヴェナント:蘇えりし者」と、なんと3年連続でアカデミー撮影賞を受賞している。名前が示すようにリトアニア系のユダヤ人の家庭で生まれたメキシコ人である。アメリカで活躍するようになってから、ティム・バートン監督の「スリーピー・ホロウ」をはじめ、マイケル・マン監督の「ALI アリ」、「バーン・アフター・リーディング」など、映像に目を奪われる作品を数多く撮影している。そのため、映像美にこだわるテレンス・マリック監督の作品も多く手がけた。
そんなルベツキが撮影した作品のなかでも、特に女が喜んだ映画といえば1998年の映画「ジョー・ブラックをよろしく」だろう。これはイケメン全盛期のブラッド・ピットをカッコよく見せるための181分である。ルベツキはなるべく自然光で撮影するよう心がけている男らしく、メイクだらけの女優には迷惑かもしれないが、確かにその映像は観客が間近で俳優たちを見ているかのように錯覚させる。
本作は死の使者として現世にやってきたジョー・ブラック(ブラッド・ピット)が、ビル(アンソニー・ホプキンス)をあの世へ連れていくまでの間に、その娘のスーザンと恋に落ちるという、ただそれだけの話である。要するに、ブラッド・ピットを愛でるための181分だ。もちろん、監督と脚本は「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」でタッグを組んだ2人なので、決してどうしようもない作品というわけではない。「死と税金」という劇中の会話がラストシーンの伏線となっていたり、実はよく出来ている。ただ、とにかく長すぎるのだ。アンソニー・ホプキンスの演技は素晴らしい。「ハンニバル」が本作の3年後に当たり、まさにホプキンスの全盛期と言ってもいいだろう。
ルベツキは本作の翌年に「スリーピー・ホロウ」を撮影してアカデミー撮影賞にノミネートされている。このように、気に入った脚本家や撮影監督に注目して映画を観てみるのも面白い。映像は特に"センス"が問われる部門なので、ボーッと映画を観ていても「この映画を撮影したのは誰だろう」と、気になることがある。直近で撮影賞を受賞したのはクリストファー・"ADHDの客寄せパンダ"・ノーラン監督の作品を担当しているホイテ・ヴァン・ホイテマだ。他にも「裏切りのサーカス」や「007 スペクター」を撮っている。僕はこれらの作品の映像に特に注意していなかったので、センスが合わないのだろう。
良い映画に出会ったら、監督はもちろんのこと、脚本家と撮影監督を覚えておくと、次に観る映画を選ぶときの参考になる。