見出し画像

国連の本当の姿 / 「バグダッド・スキャンダル」

石油食料交換プログラム(Oil-for-Food Programme)という言葉をご存知だろうか。イラクで20世紀の末から数年間にわたって行われた、国際連合によるイラクの国民のための措置だ。これは経済制裁によって疲弊したイラクの経済があまりにも市民たちの生活に影響を及ぼしていたため、石油を売った利益によって食料や医薬品を市民に配るという制度である。
勘の良い方ならお分かりかと思うが、こうした制度は汚職の温床になる。そして、2003年に米軍を中心とした軍隊がイラクへ侵攻した後、事実が明るみに出た。国連の歴史上、最悪の汚職事件である。
フセイン大統領の得た利益だけでも100億ドルに達する可能性があるという、とんでもない汚職事件は、BNPパリバが取引を一手に引き受け、世界中の実業家や政治家が関わっていることが分かってきたものの、国連は本件についての一切の資料開示や調査協力を"拒否"しているため、全貌は闇に葬られたままだ。
このプログラムの責任者はべノン・セヴァンという名のアルメニア系キプロス人の国連職員であり、この男の部下として働いていたマイケル・スーサンというデンマーク人職員が告発したことによって、先進国は大騒ぎになった。
という、政治の姿をほぼそのまま映画にしたものが、2018年の「バグダッド・スキャンダル」だ。こういう映画は観客を楽しませるというよりも、映像として残しておくこと、そして1人でも多くの人に知ってほしいという制作者たちの"心意気"なので、面白いとかつまらないなどと言っても仕方がない。それでも、ベン・キングズレーの太々しい態度の演技が良く、"よくできました"をあげたい作品に仕上がっている。政治を面白く見せるなんて大変な作業だ。
ベン・キングスレーは劇中でパシャと呼ばれる人物を演じているが、これがべノン・セヴァンをモデルにした人物だ。べノンは騒動になるとキプロスへ出国し、アメリカとの犯罪人引き渡し条約がないことから現地で隠棲している。
BNPパリバの大口の個人株主のイラク系イギリス人の男はイラク石油省に勤めていた過去があること、このプログラムで暴利を貪ったのが主にロシア、フランス、中国という安全保障理事会の常任理事国であること、アメリカが調査に熱心に関わったこと、当時のコフィ・アナン事務総長が関わっていたこと、これらの事実を総合すれば、国連が調査を"拒否"することが分かるだろう。日本人は国連という組織をアンパンマンのような団体だと勘違いしているようだが、ここは国際汚職連合のようなものである。
たまにはこうした政治の現場を眺めてみることも良い刺激になる。現実の外交とはあまりにも浅ましく、卑しく、そして人命など眼中に無いことがよく分かる。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集