見出し画像

ノワールと呼ばれるジャンル / 「L.A.コンフィデンシャル」

1940年代から50年代のアメリカを描いた、モノクロの陰影を強調したような暗く沈んだ雰囲気の映画をフィルム・ノワールと呼ぶのだが、この時期のロサンゼルスを舞台にしてノワール調で撮影し大ヒットした作品が、1997年の「L.A.コンフィデンシャル」だ。前回の記事で取り上げた「セルピコ」がニューヨーク市警の腐敗に立ち向かった男の伝記であるのに対し、「L.A.コンフィデンシャル」はロサンゼルス市警に関わる現実の出来事を題材にしたフィクションである。
原作はノワールと呼ばれるジャンルの第一人者、ジェームズ・エルロイの同名の小説だ。ちなみに、2006年のブライアン・デ・パルマ監督の映画「ブラック・ダリア」の原作者でもある。
さて、そもそもこの映画はタイトルが現実に触れている。Confidential とは機密や秘密などの意味がある単語であり、また、1950年代から発行されていたスキャンダルやゴシップを載せるジャーナリズムの雑誌が Confidential なのだ。劇中ではシドが仕切っている Hush-Hush という雑誌に名前を変えている。
また、1951年に発生したロサンゼルス市警の警官による暴力事件"Bloody Christmas"も扱っているし、ギャングのボスとして登場しているミッキー・コーエンとは実在したボスである。
このように、映画の背景をしっかりと1950年代のロサンゼルスにセットした上で、三人の警官を主役にして物語は進む。謎の事件で父親を亡くした、出世が第一の政治家タイプ、エド(ガイ・ピアース)。とにかく乱暴な警官らしい警官、バド(ラッセル・クロウ)。シドと組んで事件を華やかに演出したいジャック(ケヴィン・スペイシー)。この三人を中心にして、ロサンゼルス市警に巣食う腐敗を暴いていく手腕は、ジェームズ・エルロイの原作が優れているおかげである。
ちなみに、ジャックは Badge of Honor と呼ばれるロサンゼルス市警を扱うテレビ番組のアドバイザーを務めているという設定だったが、この番組はかつて放送されていた実際の番組 Dragnet のことだろう。
もちろん、フィルム・ノワールらしく、ファム・ファタール(運命の女)も登場する。キム・ベイシンガー演じるリンがそうだ。キムはこの作品の演技によってアカデミー助演女優賞を受賞している。僕はダドリー役のジェームズ・クロムウェルの演技が良かったと思う。アカデミー賞の選考基準こそ闇である。
さて、ノワールと呼ばれる表現は、世の中を真っ直ぐ見つめていない。腐敗や犯罪など、社会の負の側面に注目し、そのことによって映画全体が暗い雰囲気を帯びている。また、陰影を強調するように撮影するため、光が当たっているところと、闇の部分がスクリーンの中に存在している。そして主人公はどこか冷笑するような、斜に構えた態度である。こうすることで、世の中つまり人間の"暗い部分"を効果的に伝えることができるようになる。今日でもノワール調の映画はたくさん撮られていて、それらはネオ・ノワールと呼ばれているが、それは人間が"隠したいこと"をいつも抱えているからである。
「L.A.コンフィデンシャル」は気楽に楽しむことができるネオ・ノワールの佳作である。ラッセル・クロウは本作がハリウッド・デビュー作に当たる。映画の初心者にも薦めやすい一作だ。ただ、上に書いたように、フィクションとは現実に立脚して作られるものなので、よく見るとノンフィクションにも見えてくるという仕掛けになっている。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?