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こんな映画が撮れて羨ましい / 「レッドクリフ」

いわゆるアクション映画はあまり観ないのだが、ジョン・ウーこと呉宇森の映画は好きだ。「男たちの挽歌」「フェイス/オフ」「ミッション:インポッシブル2」など有名な作品はいくつもあるが、なかでも「レッドクリフ」二部作が良い。
僕は若い頃に吉川英治の小説「三国志」を何度も読んだし、横山光輝の漫画「三国志」は友人宅で読破し、井波律子の訳した「三国志演義」は大人になってから買い、後に正史まで読んだ。多くの登場人物たちによる知略や汗臭いドラマが楽しかった。1人の主人公が「ドラゴンボール」のように活躍する物語より、複数の立場から描かれるドラマの方が好きなのは、三国志の影響かもしれない。
さて、「レッドクリフ」はジョン・ウー監督が気合を入れて撮ったせいで5時間を越える大作になってしまい、けっきょくPart1と2に分けたというバカさ加減からして最高である。曹操の役に張豊毅(中国)、周瑜がトニー・レオンこと梁朝偉(香港)、孫権が張震(台湾)、諸葛亮に金城武と、アジアを結集して映画を作ろうという中国電影集団の威信をかけた映画である。
西暦208年の冬に赤壁(現在の湖北省の長江沿い)で起きた戦いがこれだけ後世によく知られた話なのだから、記録は大切なものであると分かるし、そもそも中国大陸は文献と発掘によって紀元前1000年より昔まで確実に遡ることができる。三国時代なんて"つい先日"のレベルである。もちろん、この時期の日本列島のことはほぼ分からない。大陸がアジアの盟主であったことは疑いのない事実だ。
本作は三国志演義を下敷きにしつつ脚色などを加え、戦闘から恋愛まで放り込んだ映画らしい映画である。本当にこんな会話があったのかな、などと楽しんで観ていられるので、いわゆる"史実"に基づいたフィクションは好きだ。派手な演出などはサービスであって、"実際の赤壁はこんな闘いではなくて(以下略)"などと野暮なことを書き連ねる連中は、史実もまた一種のフィクションだということをまず知るべきである。"正史"は演義よりも本当っぽい、というだけの話だ。
こういうイベントのような映画がアジアで作られるとうれしい限りであるが、この列島の映画はいったいどうなっているのだろう。日本列島の短い歴史の中でも映画の題材に適した事件はたくさんあるのだが、新作映画のタイトルを見ているだけで、邦画の関係者は全員小学生なのかと疑いたくなる。NHKの大河ドラマの題名の方がまだマシに見える。それもこれも、我が国の映画という産業の構造が非常に歪んでいるせいなのだが、その歪みを是正することなく今日に至った理由は、その歪んだ構造から給料をもらっている連中が構造を変える訳がないからである。だから企業間での人の異動、役員のヘッドハント、年功序列の廃止が大切なのだ、と以前から書いていることなので以下は略す。
三国時代だけでなく、あの大陸は長い歴史のほとんどを戦争で過ごしてきた。どこかの列島とは異なり、変化に強い民族なのだ。だから今、必死になって変化を制御しようと苦心しているように見える。民衆の強さをよく知っている国である。
日本で「レッドクリフ」のような映画が撮影される日は来るのだろうか。

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