パリといえばなぜか思い出す / 「ダ・ヴィンチ・コード」
パリ五輪が開催されているが、全く見ていない。サッカーの大きな大会やスーパーボウルなら観たくなるのだが、興味のない競技ばかりだ。
さて、パリを舞台にした映画が山ほどあるなかで、僕はなぜか2006年の「ダ・ヴィンチ・コード」を思い出す。トム・ハンクス演じるロバート・ラングドン教授がパリの街を行ったり来たりしながら、バカげた"謎解き"をする映画だ。
2003年に出版された原作小説の大ヒットによって実現した映画なので、そもそも"内容が無いよう"であることは致し方ない。レオナルド・ダ・ヴィンチについて書かれた本も、マグダラのマリアについて考察した本も山ほどあるが、この小説はそれを合体させて、なおかつハーバード大学教授が謎を解きに行き、おまけに小説の冒頭に"事実に基づいて云々"と書かれていたものだから、読解力と想像力に欠ける全国の皆様が「こんなことがあったのか!」「これは事実と異なる!」という茶番に必死になってしまった。
僕はいつも首を傾げたくなるのだが、based on a true story と書かれていたら、それを事実だと受け取る人がそんなに多いのだろうか。小説や映画は絵空事、フィクション、嘘八百であり、そこで登場人物が1億人死んでも葬儀屋に何の影響もない。だいたいどこの国でも"正史"とされている書物は based on a true story だ。「インディ・ジョーンズ」シリーズは、訳の分からない秘宝をめぐってドタバタを繰り広げるというサービスだったし、そのことを観客も踏まえて楽しんでいたからヒット作となった。「ダ・ヴィンチ・コード」はあたかも内容が"事実に基づいている"ように書かれたフィクションだったので、多くのバカ読者が"何か隠された事実が書かれている"と思い込んでしまった。売り方として上手である。
案の定、全国のカトリックをはじめキリスト教の関連団体から抗議をもらいまくったという。こうした宗教団体もフィクションに目くじらを立てたというより、信者から"本当なのか"と次々と訊かれることに腹が立ってきたのだろう。こういう人たちが多いからこそ「ゼロ・ダーク・サーティ」や「アポロ13」は映画として立派に役割を果たしたわけである。
トム・ハンクスはこういう映画の主演がよく似合う。人のよい、良識ある人物として見える。「フォレスト・ガンプ/一期一会」「グリーンマイル」など多くの名作に出演しているが、僕はなぜだか「ダ・ヴィンチ・コード」を思い出してしまう。