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実はアメリカ版の用心棒 / 「ボディガード」

たとえば、映画を撮ろうとする。まず、何に困るだろうか。きっとほとんどの人は筋書きとセリフ、すなわち脚本が欲しくなるだろう。才能ある監督は自ら脚本を手がけるが、ほとんどの有名な映画は脚本家の書いた台本(screenplay)を使用している。スティーブン・スピルバーグは長い経歴の中で、脚本を書いた作品は駆け出しの頃の「未知との遭遇」と、2年前の自伝のような映画「フェイブルマンズ」くらいである。こうした事情により、全米脚本家組合というギルドは正当な報酬を求めて数年に一度はストライキを決行するほど、アメリカで最も力のある組合の一つといわれている。台本がなければ映画やドラマを撮ることはできないし、脚本なんて誰でも書けるというものでもない。
「スター・ウォーズ」シリーズの脚本家を務めるローレンス・カスダンという脚本家はもともとミシガン州の広告会社でコピーライターを務めていた。しかし脚本家になるという夢を諦めず、夜中に脚本を書いてはハリウッドの映画会社に送るという生活を続けていたところ、1977年、ワーナー・ブラザースに2万ドルで脚本がようやく売れた。これが後の「ボディガード」である。カスダンはそれから「スター・ウォーズ」シリーズの脚本や自らの監督作で忙しくなり、映画「ボディガード」が公開されたのは1992年のことである。
先日、ドナルド・トランプが銃撃された事件によってシークレットサービスに注目が集まっているので、この映画のことを思い出した。
元シークレットサービスのボディガード、フランク(ケヴィン・コスナー)が人気歌手レイチェル(ホイットニー・ヒューストン)を守る、という、シンプルな映画だが、ホイットニーの圧倒的な歌唱力と主題歌によって大ヒット作となった。僕も若い頃ホイットニーの歌声を聴いて、こんなに歌が上手い人がいるのかと感心したものだった。
劇中でフランクとレイチェルがデートする時、黒澤明監督の「用心棒」を映画館で鑑賞していたように、カスダンはこの脚本を「用心棒」からインスパイアされて書いたと認めている。優れた作品は文学であれ音楽であれ、後進に大きな影響を与えるものだ。「用心棒」という映画もまたシンプルな筋書きで、主人公の三十郎(三船敏郎)の魅力によって成立している作品だ。つまり、映画「ボディガード」の成功はひとえにケヴィン・コスナーのおかげである。映画はキャラクターがしっかり造形されていれば人気になるとも言える。テレビドラマはシーズンをなるべく重ねていきたいという動機があるので、キャラクターよりも意外な展開や新たな謎のような要素の方が重視されている。
脚本家や原作に注目して映画を観るのも楽しみ方の一つだ。

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