ただの吉本新喜劇 / 「バーン・アフター・リーディング」
デビュー以来いろんな役をこなしてきたブラッド・ピットは、やはりバカを演じることが最も似合っている。それはおそらく、ブラッド本人がアメリカ中西部出身だからだろう。田舎で育った気さくなブラッドは、若い頃に身の回りにいた田舎者たちを模倣しやすいのかもしれない。
2008年の映画「バーン・アフター・リーディング」において、ブラッドはスポーツドリンクばかり飲んでいる頭の悪いチャドを演じた。この映画はコーエン兄弟によるコメディなので、ブラッドも過剰なまでにバカっぽく大袈裟に演技している。僕はコメディでも真面目に演じてほしいので、コーエン兄弟による漫画じみた演出はあまり好きではない。「ドント・ルック・アップ」のようなコメディが好きだ。しかし、この戯画化されたキャラクターの方が"一般ウケ"はするのだろう。
この映画は出演者がとにかく豪勢だ。失職したCIA分析官オズボーンを演じたのはジョン・マルコヴィッチ、その妻で小児科医ケイティ役がティルダ・スウィントン。ケイティと不倫している連邦保安官ハリーはジョージ・クルーニーが演じ、チャド(ブラッド・ピット)の同僚リンダはフランシス・マクドーマンドだ。
これだけの名優を揃えたのだから、もう少し真面目なトーンで撮っても良かったんじゃないかと思う。いまから面白いことをしますよ、という雰囲気のコメディは、先にタネを明かしているマジックのようだ。いわば吉本新喜劇である。サタデー・ナイト・ライブのコールドオープンのように、演者たちが真面目に振る舞ってくれる方がより可笑しくなると思う。
コーエン兄弟はウォシャウスキー兄弟姉妹のようにハリウッドで有名だが、「ファーゴ」くらいしか面白い作品がないのではないかと思っている。もちろん全部を観たわけではない。「ノーカントリー」でずいぶん名を揚げたものの、あれはコーマック・マッカーシーの小説が原作である。
僕がいま注目しているコメディの制作者は、サタデー・ナイト・ライブのヘッドライター出身であるアダム・マッケイだ。「バイス」や「ドント・ルック・アップ」の監督と言えば分かりやすいだろう。
映画も客を呼ばなければならないので、監督や脚本家を広告塔のように仕立て上げることが多い。コーエン兄弟もウォシャウスキー兄弟姉妹もクリストファー・ノーランも、要するに客寄せパンダである。決して才能に恵まれているわけではない。