我思ふ Pt.126 過去の古傷12
↑続き
ギタリストと共にいつものバリューなファミレスに入り席に座る。
と、同時に二人とも煙草に火を点ける。
あーこの時は良かったよねー(棒読み)
もう無条件にテーブルに灰皿が常備されていたからね。
ん?あたしゃめでたく煙草やめましたよ。
いつまたやりだすか分からんけど。
食事の注文を終えると私は切り出した。
「なぁ、ところで何で行くの?大阪まで。まさか車じゃねぇだろ?」
わしら田舎モンはどこ行くにも車だ。
いや、わしらの村だけかもしれんけどね。
しかも…これは同県内だが比較的都市部近郊出身の妻から指摘されて発覚したのだが…
同じ場所に四人で食事に行くと仮定する。
日時は週末の昼で、その四人は全員休日で全員他に予定無しとしよう。
そのシチュエーションであれば、誰かが車を出したりして一台、もしくは多くても二台で食事をする場所に向かうのが普通…なの…?
知らんけど。
だがオラん村はんな事しねぇ。
男は黙って一人一台で向かう。
だから四人が車四台でその会場へ向かうわけだ。
え?コレ普通じゃね?と当時まだ付き合い始めて間もない妻に言ったら結構ドン引きされた記憶がある。
話を戻す。
いくら当時レギュラーガソリンが80円代だからといっても大阪まで単独渡航はコストだけじゃなくて身体的にも無理がかかるだろう。
じゃあ新幹線?飛行機?
フリーター生活を満喫してやがる二十歳そこそこの実家寄生の小僧にそんな金あるわけねぇよな?
で、お前はどうするんだと。
彼の答えは、私が初めて聞く交通手段だった。
「んん?あぁ、夜行バス。」
私は彼の答えを聞いてもよく分からないという素振りで煙草を吸い込んだ。
「夜行バス…?バス…?」
「そう。」
「夜行…って夜走るって事か?」
「そうだよ。だから安いの。寝て起きたらもう大阪って事だよ。」
「あぁ、そうなの?どんくらい時間かかんの?」
「時間?ちょっと待って…」
ギタリストはズボンのポケットからボロボロの手帳を取り出して数ページめくると頷いた。
「東京駅の八重洲口を22時に出て…大阪に着くのが…朝6時だな。」
「は、8時間もバスに揺られてくのか!?マジで!?」
「おん。別に大した事ないだろ?寝てるだけだし。」
「いや、そりゃそうだけど…で?費用は?」
「安いよ?片道6,000円。」
「!!??」
記憶は曖昧だが確か新幹線自由席の半額以下だったはず。
驚くべき安さだ。
なるほどこれならこのフリーター生活満喫野郎でも大阪に行けるわけだ。
「すげぇな。そんなもんがあるとは知らなかった。よく調べたな。」
「まぁパソコン使えばどんな情報でも手に入るからな。検索エンジンに、東京 大阪 交通手段 安いって打ち込んでポチッとすりゃ何でも出てくる。」
「な、なるほど…。」
当時自分のパソコンを持っていなかった事もあり、私は情弱だったのだろう。
「調べてやろうか?東京から山形。」
このタイミングで着丼したイカスミパスタにフォークに巻き付けながらギタリストは私の目を見ながら言った。
余談だが奴はイカスミパスタが大好物だ。
どこへ行ってもイカスミパスタ。
「お?マジ?」
「うん。飯食い終わったら一回ウチ来いよ。」
「そうか。じゃあ…お言葉に甘えるかな。」
フリーター野郎に先を越された気分だが、そこは別に気にするところではないか。
元々全てこのギタリストに大概のことは先を越されている。
初彼女、初ライブ、童貞喪s…いや、何でもない。
だから今回だって先を越されてといっても、いつもの事だ。
私はいつもよりスピーディに食事を終えた。
続く
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