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我思ふ Pt.143 過去の古傷24
↑の続き
この日もリョウ君は自身の彼女と共に私と美結との足となってくれた。
詳細は伏せるがそれはそれは甘い甘い時間を過ごした。
少しでも会話が途切れると唇を重ねるという始末。
へぇ…
今思い返せば、それなりに性春…あ、いや、青春してたんじゃん、俺ってば。
しつこいようだが美結は十五歳。
一挙一動全てが田中み○実さんばりにあざといというかなんというか…そのアレだよ…その…ふーん、エッチじゃんて感じだ。
唇を重ねている時の吐息や、手の位置、表情、声など一々女優だ。
最上川の町はとんでもない女を育てたと思う。
話を戻す。
時間は容赦なく過ぎていく。
仙台駅発東京駅行きの夜行バス発車時刻は夜十時だ。
少なくとも夕方六時前の電車で仙台駅へ向かわなくてはならない。
時は過ぎ、時刻は午後四時。
最上川沿いにあるベンチに二人並んで座った。
天候は曇り、残念ながら夕日は見えない。
「たける様、もうすぐ…リョウ君達迎えに来るね…。」
「あぁ…。俺…合格か?美結の男として。」
私は美結の唇を自分の唇で塞いだ。
「ん…」という美結の声がやけに湿り気を帯びている。
一通り美結の唇と口の中を弄り終えると、私は糸を引かせながら唇を離した。
「ご、合格だなんて…変な事言わないで?あたしはたける様の事が大好きだから…。会う前も、今も。」
「そうか…。ありがとう。」
「たける様…。帰ってほしくないよ…。」
「俺も帰りたくない。だけど…俺はバンドだけをやっている人間じゃないんだ。会社員でもある。だから…帰らなきゃ。」
「うん…分かってるよ…たける様って凄くまじめだもんね。そんなところも大好き。あーあ、なんかさ、たける様には本当に簡単に気持ち伝えられちゃうな。ホント素直に好きって言えちゃう。」
「…。ほ、褒めてんのか?」
「もちろん!」
「ありがとう。」
静かだ。
さすがは田舎町、本当に静かだ。
そんな静寂の中、遠くでリョウ君のマークⅡの音が聞こえる。
もう間もなくリョウ君達がここに来るのだろう。
美結から言われた事は、実は交際した女性皆から言われた事だ。
なんだろね。
言いやすいんだろうか?
「好き」と言いやすい?
どういう事なんだろうね。
典型的なツンデレである妻からも言われたのだから間違いないのだろう。
まぁお得な性質と受取っておくか。
ボボボ…ぶぅおおおヲヲぉん!
おぉ…リョウ君のマークⅡ到着か。
「たける様…また…会いに来て…あたしをまたたくさん抱き締めて…。」
美結はベンチから立ち上がり、私を見下ろした。
私も立ち上がり、美結を見つめた。
そして美結を力いっぱい抱き締めた。
「ハァゥウン…」
美結の吐息が私の耳もとにかかる。
あぁ、俺、ちゃんと青春してたんじゃん。
幸せな事よな。
当時を思い返していたら、俺の人生そんなに悲観するもんでもないって気がついたよ。
私と美結はリョウ君のマークⅡに乗り込み、最寄り駅へ向かった。
車内は無言だ。
そしてあっという間に最寄り駅に到着する。
「またな、美結。リョウ君、本当にありがとうございます。ろくにお礼もできないで…。」
「大丈夫っス。俺、たけるさんみたいになりたい。人助けを仕事にしたいんス。たけるさんに会って、そう思ったんス。俺、就職頑張ります。」
「うん、就職頑張りましょ。」
「たける様…また来てくれるよね?」
「もちろん。必ず来るよ。」
「絶対…だよ…?」
「あぁ絶対だ。」
私自身、そう返事をしながらも妙な違和感を覚えた。
違和感というより胸騒ぎに近いものか。
私は美結を抱き締めて唇を合わせた後、リョウ君と握手をして駅内へと進んだ。
駅内へ進んで最後にもう一度振り返った。
「美結…」
両手で顔を覆った美結と、その隣に背中を私に向けたリョウ君が見えた。
「じゃあな、山形。」
私はその場を後にした。
そして…
続く。
次回最終回です。
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