
我思ふ Pt.144 過去の古傷〜The last
↑の続き
人間は気の持ちようでどうとでもなるものだ。
あれほど拷問に等しい仕打ちと思えた夜行バスも大した事ないものと感じる。
夜行バス搭乗わずか二回で慣れるものか?
いや、やはり気の持ちようだろう。
空腹以外は何も辛く感じない。
車内では美結の匂い、美結の柔らかい体の感覚を反芻した。
私の記念すべき初の遠距離恋愛の旅は一泊二日で食事は一回のみという究極の貧乏旅だった。
地元から出て生活したことがなくて、音楽ばかりやってきて、旅慣れもしていない二十歳の小僧なんざこんなものだろう。
僅かな金と下着の替え、タオル一枚と煙草五個パックをリュックに詰め込み夜行バスでレッツ・ゴーなんて中々ハードコアな冒険してたんだな。
さて、美結の地元から帰ってからの私の生活はというと、控えめに言って「地獄そのもの」だった。
何が地獄そのものかって?
それは「逢いたくても逢えない」感情と、私自身と美結の激しい「鬱の症状加速」だ。
美結との電話の時間は果てしなく長くなり、電話の最中もお互いに鬱へと落ちていく為に会話にならない、しかし、電話を切れない、しかし、会話にならないという無限ループに陥った。
回線を繋いでおくということはそこに料金が発生する。
昔の通話料金で、無料通話アプリなんてものがない状態で三時間近く回線を繋げていたらどんな事になるかは四十代以上の方なら理解できると思う。
そして美結も私と同じ気持ちだったのか、リストカットも頻度を増していき、私の爪剥ぎも多くなり、常に親指が血塗れ状態だった。
この事を踏まえて御一考いただこう。
熱心な読者様、及び恋愛強者の方なら
ティーブレイクで触れたやべぇキーワードの正体にお気づきでしょう。
それは…
「二人ともうつ病」
「二人とも共依存」
「二人ともヤンデレ」
という事である。
美結も私も通院して治療し、症状も落ち着き始めていたのだ。
しかし、お互い逢ってからというものの、元来の気質も手伝い、思い通りにいかないストレスから再び症状は悪化という何のプラスにもならない交際となってしまったのだ。
そしてもう一つ。
美結から思いを告げられた時に気になってしまった事がある。
私の事を「たける様」と呼んだ事でふとした不安がよぎったのだ。
「自分に酔っている感が激しい」
という事だ。
これね…男性にもいえる事なんだけど自分に酔っている感を漂わせている人はね…モテんのよね…。
なぜってあんた…自分に酔っているという事は「自分のアピールポイントを知っている」という事だし、「自分で思う自分の魅力の出し方を知っている」という事だからね?
そして私の経験則に基づいたしょうもない見解だが、こういう傾向の方は地雷気味な方が多い気がするな。
自分に酔っている≒自分の魅力を放出している≒自分を理解してもらいたい
そう思っていないかね?自称・地雷系の諸君。
そしてそういう方々は理解してもらえないとどうなる?
「なぜ私を理解できぬのだ!」
こう思うだろう。
それを相手に伝えるだろう。
「なぜ自分を理解できぬ!」…それを伝えた時点でその相手とは終わりだと私は思う。
なぜならどんなに長く一緒に居ても、他人を理解する事など不可能だからだ。
無理難題をキレ気味に言われたら「こいつはだめだ」と思うのが普通だろう。
自分は他人を、他人は自分を理解なんぞできない…その真理にいかに早く気が付くかで男女交際の得手不得手が決まると、交際人数三人の恋愛弱者である筆者は思ふ。
なんの説得力もないけど、まぁ参考までにね。
その後の話だが、逢ってから約二週間後、美結から別れを告げられた。
理由は実にシンプルだ。
「辛い」
そりゃあね、そりゃそうよ。
私が感じていたものと同等以上のやるせなさを美結は味わっていたはずだ。
「このままたける様を好きでいたらあたしは壊れちゃう。」
美結はそう言った。
この言葉に私がこの度皆様に申し述べたかった全てが詰まっている。
SNS上で恋に落ちるのもいいだろう。
お付き合いに発展するのもいいだろう。
ただその前に確認してもらいたい。
・どこの人間だ?
・何者だ?
この二つだけでいいので確認してもらいたい。
確認した上で、そいつに財と時間を捧げるに値するかを考えてほしい。
恋の力は偉大?
愛は全てを乗り越える?
んなわけねぇだろ?
「恋には金が必要であり金の力は偉大」
「愛には時間が必要であり、時間を作る事ができる身分と立場は全てを乗り越える」
これが現実だ。
だから私はSNSから始まる恋愛と、遠距離恋愛はお勧めしない。
SNS上で恋に落ちると不思議な事に、どんな環境やどんな奴だろうと関係無いとまで思ってしまい、遠距離だろうが年の差があろうが突き進んでしまう。
何人もそんな人間を見てきた。
自分も含めてだがね。
どうだろうか?
少しはSNS社会を生き抜く上での何か学びのようなものを感じてくれただろうか?
別にそんなもんどうでもいいか。
俺も書いてて楽しかったし、読者諸君が楽しんでくれりゃ学びなんざどうでもいいや。
そして最後に。
リョウ君、私は君にまともな礼も言えずにいた自分をいまだに恥じている。
もう逢うことはないとは思うが、この場を借りてもう一度言わせてほしい。
完全に自己満足ではあるが言わせてほしい。
リョウ君、どんな奴かも分からないよそ者である私を受け入れてくれて本当にありがとう。
強面の君が見せてくれた満面の笑顔を私は忘れない。
本当にありがとうございました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これにて「過去の古傷」シリーズは終了です。
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