ルネ・クレール 裏レトロスペクティブ
『自由を我等に』を観てないの? バカじゃないの?
ルネ・クレール没後40年を迎えた2021年。10月15日から新宿武蔵野館で「ルネ・クレール レトロスペクティブ」が始まる。4Kデジタルリマスターのきれいな映像で見られる5作品は以下のとおり。
巴里の屋根の下 Sous les toits de Paris (1930年)
ル・ミリオン Le Million (1931年)
自由を我等に À nous la liberté (1931年)
巴里祭 Quatorze Juillet (1932年)
リラの門 Porte des Lilas (1957年)
ルネ・クレールについて印象に残っているのが、柄本佑が子供の頃、母の角替和枝に「『自由を我等に』を観てないの? バカじゃないの?」と言われたというインタービュー記事。Twitterにも同様の話が上がっていた。
どうして印象に残ったかというと、私も『自由を我等に』を見ていなかったからだ。
ルネ・クレール 裏レトロスペクティブ
さて、今回は「ルネ・クレール レトロスペクティブ」の選に漏れた作品を撮り上げる。
(1)『最後の億萬長者』Le dernier milliardaire (1934年)
カジノの収益で成り立つ架空の小国家カジナリオを舞台にしたマルクス兄弟風のドタバタ喜劇。
国家が破綻間近で通貨が不足しているため、人々は物々交換で暮らしている。カジノで賭けるのもコインではなく私物。ここが最高に面白い。
サイレント映画時代から活躍している監督だからだろうか、セリフが分からなくても画だけで笑わせる。
(2)『そして誰もいなくなった』And Then There Were None (1945年)
ルネ・クレールが渡米後に撮った英語作品。
何度も映画化、テレビドラマ化されてきたアガタ・クリスティのミステリーだが、見た中ではこのルネ・クレール版が一番好きだ。
シリアスなミステリーだが、サイレント時代から培った喜劇のセンスがここでも光る(26分30秒ごろから)。
ドリフ、特に志村けんはそうなのだが、私たちの世代が幼い頃に見てきたコントの多くは1920~30年代の映画界が既に開発していた。チャップリン、バスター・キートン、マルクス兄弟。このルネ・クレールの喜劇もどういう影響で上記のようなシーンを生み出したか知らないが2020年代に観ても面白いものとなっている。
セテラ・インターナショナル配給の「ルネ・クレール レトロスペクティブ」では取り上げられなかった。おフランス的な作品でないので取り上げられるとすれば「ルネ・クレール レトロスペクティブその3」くらいでだろうが、選に漏れる作品も面白いルネ・クレールである。