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読書感想文 米澤穂信「いまさら翼といわれても」
古典部シリーズ第6弾。本作では、探偵役である折木以外の古典部部員が謎を解く話もあって、最初は「あれ?」と思った。でも、考えてみれば、「古典部」シリーズなのだから、折木以外の古典部部員が主役の話があってもおかしくはないと納得した。
特に印象に残った作品を紹介する。
「鏡には映らない」
この作品では折木の同級生で古典部部員である伊原摩耶花が謎を解く。
シリーズ第一作から伊原は折木に対して当たりがきつかった。どうやらそれには中学三年生の時の卒業制作にまつわる出来事に端を発するらしい。
伊原たちの学年の卒業制作は、絵が得意な生徒がデザインしたレリーフをクラスごとに分割して木彫りにして、鏡の枠に貼り付けるというものだった。
各クラスに割り当てられたレリーフをさらに班単位で分かれて担当した部分を制作していたのだけど、その際、折木の班が担当した部分を折木が一人でやると言い出し、最終的に折木は手抜きのレリーフを提出した。デザインを担当した生徒はそれを見て泣き出してしまい、後味の悪い出来事になってしまう。
その出来事の裏には、ある同級生を救う為という事情があったようだ。
折木は「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に」をモットーとする省エネ主義者である。そのモットーに則るなら、その同級生を救うことは折木にとって「やらなくていいこと」だった筈だ。
もしかしたら誰かがやらなくてはならなかったのかもしれない。でも、少なくとも、他の同級生たちから白い目で見られるリスクを負ってまで折木が「やらなければいけないこと」ではなかった筈なのだ。実際、それで伊原の折木に対する当たりはきつくなった。他の同級生たちからも責められた。
知らないフリをするという選択肢もあった。それでも、当時の折木はなんのかんのと理由を付けて、やったのだろうと思う。救われた同級生以外の誰からも感謝されないことを承知の上で。
前々から思っていた。でも、再認識した。
やっぱり折木は優しい。
「長い休日」という話では、折木が例のモットーを掲げるきっかけとなった出来事が語られる。
その出来事を通して、折木は嫌なことに気づいてしまったのだ。
当時子供だった折木が経験したその出来事やその時の折木の心情を読んで、苦さと切なさが入り交じったような心持ちになった。
いつか折木の「長い休日」が終わる日が来ることを願う。