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読書感想文 古沢和宏「痕跡本の世界 古本に残された不思議な何か」
痕跡本とは、書き込みだったり、線引きだったり、メモが挟み込まれていたりなど、前の持ち主の「痕跡」が残された古本のこと。これらの本からは、前の持ち主がどのようにその本を読んだかをうかがい知ることができるのですが、それが、ヘタしたら本来の内容よりも面白い場合があるのです。
(中略)
人の数だけ本の読み方があり、そして物語が存在します。痕跡本にあるのは、本と人との「関係性」の面白さなのです。
愛知県犬山市で「五っ葉文庫」という古書店を営む著者が出会った痕跡本とその痕跡、そこから広げた著者による前の持ち主がその痕跡を残すに至った経緯の妄想を紹介している。
著者の妄想が正解かどうかは分からない。でも、それでいい。その本に残された痕跡から前の持ち主と本を巡るドラマを想像するのが痕跡本の醍醐味だから。
痕跡本は新刊書店や電子書籍では絶対に手に入れることのできない、大袈裟な言い方をすれば、地球上に一冊しかない本だ。それゆえ一度手放すともう巡り合うことはないかもしれない。だからこそ手放しがたくなる。
私自身、何冊か痕跡本を持っているだけに痕跡本に思い入れがある著者の気持ちが分かる気がした。
ビブリア古書堂の栞子さんの曰く、「人の手から手へ渡った本には、中に書かれている物語だけではなく、本そのものに物語がある」という。
その本に残った痕跡は前の持ち主の人生を垣間見るきっかけになりうるものだ。ある人が人生のある時点で出会い、読み、思うところ感じるものがあって残した痕跡。
他人に見せる前提ではないからこそ、不完全な形で痕跡が残され、だからこそ色々と想像の余地があるのだ。そんな本が何らかの事情で持ち主の手元を離れ、別の誰かの手に渡り、新しい物語が生まれる。
それってとってもロマンチックなことじゃないだろうか。
人と本の関わり方について考えさせられる一冊。