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「あなたに似た人」 - 愛より憎で濃く彩る沼の味のメロドラマ

★★★★+

最初はミステリーというかサスペンスだと思って観始めたのですが、冒頭で匂わせるわりには特に殺人事件とか起こらないな〜と不思議になってよく見たら「メロドラマ」と書いてあり、ものすごく納得しました。まさに愛と憎の濃くてドロドロした部分だけ煮込んでみたこの感じ。日本の「昼顔」を思い出しました。ハマると深いやつです(ハマりました)。

物語の中心となるのは、チョン・ヒジュ(コ・ヒョンジョン)とク・ヘウォン(シン・ヒョンビン)という二人の女性。

ヒジュは貧しい家庭で育ったものの、富も名声もあってヒジュを慈しみ愛してくれるヒョンソンと結婚し、娘と息子を授かり理想的な家庭を築いています。そして結婚後に始めた絵で思いもよらぬ成功を収め、今では大規模な個展を開くような人気画家に。

ところがある日、中学生の娘のリサ(キム・スアン)が学校で美術教師に鼓膜が破れるほど殴られるという事件が起こります。仮に娘に落ち度があるとしてもこれは酷すぎる、と殴った教師に会いに行くヒジュですが、その女性教師・へウォンに見覚えがあって…。

このへウォンがとにかく不気味なのです。美人なのにやつれてくたびれた身なりをしており、リサを殴ったことを執拗なまでに謝ろうとするわりに、表情に反省の色はない。ここまでは本当にサスペンスです(なのでとりあえずきっと殺人事件が起こるんだろうなと思ってました)。

へウォンの姿が変わりすぎていてヒジュはすぐには気づけなかったものの、この二人には実は深い因縁がありました。以前、美大生だったへウォンに絵の手ほどきを受けていたヒジュ。そしてその間に存在するひとりの男性、豊かな才能と恵まれた容姿を持つソ・ウジェ(キム・ジェヨン)は、へウォンの美大の先輩で恋人でしたが、当時すでに夫と娘のいたヒジュと出会い、恋に落ちてしまったのです。

そのもつれにもつれた愛憎の果てに、ウジェの身には何かが起こっており、へウォンは企みを持ってヒジュに近づいてきている様子。ヒジュは一見すると何事もなく、姑の嫌味に耐えながらも穏やかで幸せな家庭を守っていますが、少しずつ世界は歪んでいきます。

つまりまさしくメロドラマなのですが、愛よりも復讐や執着に軸足を置いて話が進んでいくのが面白いところ。全てが許せず拗らせに拗らせて暴走するへウォンと、ウジェとの過ちを「地獄だった」と言って今の家庭を守ろうとするのに、ウジェを真剣に愛した記憶も彼への罪悪感もどこか捨てられないヒジュ。どちらも理解できれば、もどかしくもあり、まあでも全体にはへウォンが独りよがりで腹立たしい感じに物語は進んでいきます。

このへウォンを演じているのがシン・ヒョンビンということに初めは気づいていませんでした。シン・ヒョンビンと言えば「賢い医師生活」のギョウル。ギョウルも陰気で感情が読みづらいタイプのキャラではありましたが、根は優しく仕事ができる、一方で恋をするととても可愛らしい女子です。なのでこのへウォンとの違いに驚きました。そしてへウォンだけで言っても、このドラマの中では明るく輝いていた頃から、全てを失い残った憎しみだけで生きるようになってしまうまでを幅広く表現しています。けれど幸せだった頃にもどこか現在のへウォンの一片を感じさせるあたりが、この女優さんの凄さだなぁと思いました。

対峙するチョン・ヒジュを演じるコ・ヒョンジョンも、曖昧な笑顔で多くを語るベテランの成熟した演技を思わせつつ、妻であり母であることを大切にしているのに若くて才能豊かな男との恋に落ちていく葛藤がリアルで、すっかり引き込まれてしまいます。みんな結局は自分が中心なので、正直どこに本当に愛があるのか、実はどこにもないのか、次第に分からなくなっていくのですが、つまるところ人間の感情というのはそういう陽炎のようなものなのかもしれない。そんな気分になりました。

そしてもちろんキム・ジェヨンのウジェという存在感。「100日の郎君様」で演じていたハン・ソヒを陰ながら誠実に愛し続ける刺客・ウヨンの役がとても印象に残っていましたが、ウヨンとはまた違う形で恋にのめり込んで周りを見失っていくウジェの姿が中毒性が高くて、「これは沼だな…」と思いながら観ていました(ハマりました)。感性に振り切った無謀な若者の危うい魅力が光ります。ウジェが断崖の上でヒジュの名前を叫ぶシーンが妙に好きです。

相手の幸せを願うより自分の幸せを手放したくない人たちがそれぞれの形で周囲を傷つけていく物語に心臓の奥がズキズキ痛みますが、最後まで独特の湿度を貫いた完成度の高い作品。ただ、やっぱりこういった作品でハッピーエンドはどうしても難しいので、悲しい余韻を受け止められる気分のときに観るのがベターです。


▼独特の佇まいで目が釘付けになってしまうキム・ジェヨン。


▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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