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「死神さん」 - シュールとキャッチーの黄金比。配信ドラマのエネルギーがここに

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久しぶりにビジュアルに惹かれて一気観してしまった日本のドラマです。huluオリジナルで配信はシーズン1が2021年、シーズン2が2022年とのこと。huluは長いこと退会していたので(このたび日本版の「愛していると言ってくれ」を観たくて再度入会)、まったく存在を知りませんでした。予備知識ゼロ(主演が田中圭ということだけサムネイルから理解)だったのですが、観初めてすぐ「マイルドな"ケイゾク"って感じだなぁ」と思っていたら、やはり堤幸彦作品ということで。こういった作風も今ではすっかりひとつの大きな流れとして定着したとはいえ、唯一無二の感性ですし、と同時にTRICK以降がそこまで刺さらず(SPECすらも)いまだにケイゾクの影を追っている身としては、かなり「好きな堤幸彦」に触れられた気がしました。

主人公は被疑者の無罪が確定した、いわゆる「冤罪事件」の再捜査を専門に担当する警視庁の警部補・儀藤堅忍(田中圭)。すなわち身内の恥を白日のもとに晒すのが彼の仕事です。事件のたびに当初の関係者の中から相棒を選定するのが彼のスタイルなのですが、その相棒となった者は組織にとっては鼻つまみ者となってしまうため出世の道を絶たれたり退職したりとなりがち。そんな儀藤にいつしかつけられたのが「死神」というあだ名でした。

パシリとして情報収集に奔走する警察官・南川メイ(前田敦子)や、毎度選ばれるクセの強い相棒たちとともに、事件のもともとの本質を洗い出していく儀藤。しかし誰しもが何か裏の一面を持っているもの。儀藤はどこまでもマイペースですが、やがて物語は意外な方向へ転がってゆきます。

儀藤のキャラクターは端的に言えば笑ゥせぇるすまんの喪黒福造みたいな感じで、外見も喋り方も仕草も全てがちょっと異様なまさに死神。もはや田中圭であることを封印していますが、物語の核となる存在感を見事に生み出しています。他のキャラクターたちも一様にどこかシュールで、堤幸彦節が全開。素っ頓狂で話が通じないいかにもな役はシーズン1における儀藤の助手である南川メイ(前田敦子)が、複雑な過去を抱えたキーマンにシーズン2の助手・小刀祢葵(山本舞香)、飄々とした解剖医の吉田鋼太郎はどこを切っても吉田鋼太郎。などなど。世界観が全体的にズレているので、ひとりひとりに何か違和感があってもはじめは気づかない。それが面白さの軸だと思います。ですから一見すると1話完結で進んでいく物語も、ひとまわりしたあたりから違う様相を見せ始める。既に登場していたキャラクターや見過ごしていた伏線たちが、急に輪郭を持つのです。さっきまでめちゃめちゃハートウォーミングだったのに一気にサイコな空気に突き落とされるこの落差が堪らない。サウナと水風呂を行き来するようなアレです。

ただ「ケイゾク」のときはもう終盤は常識を振り切ったその先へ行っていたというか、言葉で説明できない範疇になっていたと思うのですが(観ていて振り落とされないように必死だった)、この「死神さん」シリーズに関しては、だいぶ視聴者に優しい仕上がりになっている気がしました。まだ完結していないからでしょうか。とはいえ、しばらく感じることがなかった90-00年代初頭の日本ドラマの高いクオリティを現代フィルタで巧みに濾した良作品。この緻密さと変拍子は他の追随を許さないところがあると思います。そしてやはり現代においてこれを実現できるのは地上波ではなく配信ドラマなのかという納得。シーズン3の予定が立っているのか知らないのですが、ぜひとも続きが観たいです。

そういえばシーズン2を観たあとたまたまタイミングで「おっさんずラブ」を観たら同じ田中圭×吉田鋼太郎の組み合わせとはまったく思えず面白かったです。何かが中和されました。

果てしなく余談:シーズン2の第3話で儀藤とコジローが下鳥と荒木を追いかけるシーンのロケ地が長く暮らしていた馴染みのある風景だったので三度見しました。東急池上線・石川台駅近くの希望ヶ丘商店街と線路沿いの坂道、儀藤が滑り台を滑り降りるのは雪ヶ谷八幡神社。聖地巡礼にオススメです。


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喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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