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「First Love 初恋」 - 初恋は誰にとっても運命で、奇跡

★★★★★+

随分とひさしぶりに日本のドラマをしっかり観ました。キャストもコンセプトも申し分なく、ティザーを見ただけで何か心が震えるものをおぼえた作品。配信開始を待ち構えて観始めましたが、序盤からもう青い恋のきらめきと痛みが溢れるように響いてきました。佐藤健と満島ひかりという組み合わせがつくる化学反応としか言えないような絶妙な磁場に引き込まれて、全9話、たぶんみんな一気観してしまう系です。そして何より宇多田ヒカルの「First Love」という曲の凄みが根底にある作品。時代を軽々と超える名曲だからこそ、こんな風にピースを繋ぎ合わせられるのだと思わされました。

はじまりは1990年代後半の北海道。高校生の也英(八木莉可子)はクラスメイトの晴道(木戸大聖)と恋人同士になります。青いきらめきに満ちた、高校生らしい恋を育んでいくふたり。ですがそれぞれに進学し遠距離恋愛をしている中で、ふたりをとある不幸が襲います。

約20年が過ぎて30代になった也英(満島ひかり)と晴道(佐藤健)。也英はタクシードライバーとして働いていました。彼女にはどうやら息子がいる様子ですが、伴侶の姿はありません。一方の晴道はビルの警備の仕事をしていて、結婚の話をしている恋人がいるものの、ずっと也英のことを探している様子もあり…。

序盤は也英と晴道の恋のはじまりと現在が少しずつ交互に描かれていきます。状況がなかなか見えないのですが、ただただふたりの再会を待ち焦がれる気持ちで話が進みます。也英を一途に探している晴道の姿がどうしても切なくて、それだけで最初から胸がいっぱいになってしまいました。

也英の素朴で、息子をまっすぐに愛する姿もまたドラマの世界観の中心にあるもの。とても素敵な女性だけどどこか自信がなくて運命の波に押し流されてきてしまった也英が、物語を過剰に飾り立てることなく、けれど丁寧に織られた布のように手触りのあるものにしていると思います。

本当に満島ひかりと佐藤健というキャスティングが抜群で、ただ演技が巧みという話ではなく、晴道の中にある宝物のような初恋とどうしても晴道に惹かれてしまう也英の魂みたいなものがふたりから溢れて見えました。高校生時代を演じる八木莉可子と木戸大聖のふたりも、初々しい恋が人生を賭けたものに変わっていく過程を実によく演じています。どうしても満島ひかりと佐藤健と顔が違う違和感はあるといえばありますが、そこは逆に満島ひかりと佐藤健の演技が見事なまでに八木莉可子と木戸大聖のそれにリンクしていて、ああ同一人物なんだと感じました。

細かい部分でいえば粗い箇所もあるかもしれないのですが、一にも二にもこのドラマの主題は「初恋」で、誰しもが知っている初恋にしかない眩しさをどこまでも優しく強く描いています。具体的な物語を超えて響いてくるその幸せと痛みが叙情的で、全編通してなんだかずっと心が震えて泣きそうになっていました。説明しすぎることなく、台詞に頼ることなく、初恋の尊さと美しさをただただ教えられる作品です。8話で「First Love」が流れるシーンは本当に秀逸。

つくづく、恋愛はタイミングに左右されるものだとも感じました。けれどタイミングが合わない時期があっても最後に辿り着くのが運命の恋なのかもしれません。運命という言葉はともすれば安易に聞こえかねないのですが、魂の奥底で結びつくような相手はやっぱりいると思いますし、也英と晴道はきっと心のどこかで、いつかまた巡り会うことをちゃんと分かっている。そんな気がしました。だから穏やかな気持ちで最後まで観ていられます。

映像や音の美しさ、贅沢に撮影されているのが伝わるクオリティ、物語、役者、音楽。どれを取っても、日本のドラマでこんな作品を観られることに幸せを感じる一本でした。


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