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「もうすぐ死にます」 - ひとつの魂を13人の役者たちが奏でるオーケストラ

★★★★★

ソ・イングクとパク・ソダムのビジュアルに期待感をそそられて前半を観始めたら、思いのほかストーリーがよく練られているし俳優陣が豪華。後半も配信開始とともに一気観してしまいました。自死というものに長い時間をかけて向き合う男の物語です。テーマだけで言うと「明日」に通じるものもあるでしょうか。しかしこちらは格段に重苦しい展開でした。最近の世の中的にも深く考えてしまう内容。

ある日、テガングループの最終面接に向かう大学生のチェ・イジェ(ソ・イングク)の目の前に車に轢かれた男が吹っ飛ばされてきます。思わず血だらけでうめく男に声をかけるイジェですが、男はイジェの腕を掴んだまま息を引き取ってしまいます。そのショックで取り乱しまったく集中できなくなってしまったイジェは最終面接も上の空で結局不合格に。そこからまったく就職できなくなってしまったイジェは、苦しいバイト生活を7年も続け、ふたたびテガングループの面接を受ける日がやってきます。

バイト経験しかない履歴書に厳しく突っ込まれながらも、面接官の1人パク・テウに褒められたイジェは手応えを感じますが、その直後に友人から連絡が入り、彼は自分が投資詐欺にあったことを知るのです。貯めたお金を失い絶望するイジェ。ガールフレンドのジス(コ・ユンジョン)との関係もぎこちなくなってしまったイジェは、勢い余ってジスに別れを告げてしまいます。そして家賃を滞納していたために突然部屋を追い出され、さらにテガングループからは不採用の連絡が。どん底に叩き落とされたイジェはビルの屋上から身を投げました。

イジェは気づくとなぜかチャーター機らしき飛行機に乗っていました。しかも顔が自分のものではありません。目の前に見知らぬ女性(パク・ソダム)が居ることに気づくイジェ。彼女は自分は「死(デス)」だと名乗ります。イジェに罰を与えると告げる「死」。これからイジェは死を間近に控えた12人の体に乗り移ることになり、どの体で目覚めようと必ず死ぬ運命なのですが、もしその死を免れることができたら、その人物の残りの人生を生きていいと言います。

「死」が姿を消すと、イジェの入っている体の持ち主の記憶が飛び込んできて、今自分がテガングループの次男パク・ジンテに乗り移っていることが分かります。とんでもない金持ちになっていると気付いたイジェはなんとか生き延びようと試みますが、飛行機が爆発して彼はあっけなく死んでしまいます。そして再び彼の前に現れた「死」は、次なる人生へとイジェを送り込み…。

イジェが経験する12回の人生と死はその中身も実に様々で、観ている側としてはなんとなく回数を重ねるほど深い生になっていくのかなと予測していたのですが、中には驚くほどあっけなかったり、突然終わってしまう人生もあって、油断なりません。しかし実はその12回は緻密に絡み合っており、終わってみるととても大きな物語に昇華しているので脚本の力を感じました。

またいろいろな人の人生をなぞるという設定によって、ひとつのドラマの中にロマンス、家族愛、社会問題、ファンタジー、サスペンス、ホラーと多様なジャンルがうまく共存して収まっているのが見事です(一部急にグロいので要注意)。それぞれの人生を演じる役者の豪華さは言わずもがな。中でもオ・ジョンセ演じる刑事の人生はそれだけでドラマが成立しそうな深みがありました。とにかく新キャラが出てくるたびに「この人が!」となります。

そう考えると主演のはずのソ・イングクの出演時間は実はかなり短い気がしますが、すべての役者が内にソ・イングクの意識を感じさせるのでそんな気もしませんでした。だからすごい。次は誰の人生なんだろう、まさかあのキャラクターだったらどうしよう…なんてドキドキも楽しめました(ただ、乗り移られた本人の意識は失われてしまうと思うので、イジェが生き延びるほどそれが気になってしまったり)。

パク・ソダムの抑えた無機質な演技もさすが。安易に道徳的なことを語ることもなく、ただ淡々とイジェに死とはどんなものなのかを悟らせてゆくのです。視聴者も同じ思考を経験していくのか、エンディングはわりと淡白なのにじわっと来ました。いかんせん、すべてのキャストに拍手を贈りたくなる作品です。ラストシーンの向こうにイジェの幸せな人生があることを願います。



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喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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