「模範家族」 - 家族コンプレックスを越えられない人々の鬱々サスペンス
★★★★
Netflixで公開された全10話のドラマです。原っぱだけが広がる田舎の一本道に停まる一台の車。メインビジュアルに描かれているのがわりと古典的なミステリーのシンボルのようで、なんとなくそこに惹かれるものを感じて観ました。コンパクトで鬱々とした世界の息苦しい時間をもがきながら歩いていくような作品です。ヤクザと警察の争いみたいなのを織り混ぜながらも、八方塞がりに陥った「家族」という人間関係を描いていく物語。面白いかと問われると意見が分かれそうですが、日本の映画でも(日本の場合はドラマではなく映画)たまに出会う世界観のように思いました。大きな事件はあるようでなく、暗澹としつつ細い光を探す感じ。
パク・ドンハ(チョン・ウ)は妻とふたりの子供がいる平凡な男です。大学の非常勤講師なのですが、大学教授になろうと欲をを出し、心臓病の息子の手術費用を袖の下に遣ってしまいます。ところがその賄賂を渡した教授が逮捕され、全てが水の泡に。
それでなくても妻のウンジュ(ユン・ジンソ)には離婚を切り出されており、息子の手術費を使い込んだとバレたら家族を失うのは目に見えています。原っぱの中の一本道、車を止めて途方に暮れていたドンハは後ろから別の車がぶつかってきて車を降ります。後ろの車の中を見ると、血だらけの男がふたり死んでいる状態。咄嗟に警察に通報しようとしますが、そのときドンハの目に入ってきたのは後部座席に散らばる大量の札束でした。
お金さえあれば全て解決する。そう思ったドンハは、その金を盗み、死体は自分の家の庭に埋め、車も遠くまで運んで棄ててくるのです。
しかしその金はとある麻薬組織が追っているもので、死体とともに埋めた携帯の電源を切っていなかったためにドンハの住む一帯にヤクザのグァンチョル(パク・ヒスン)が目をつけます。さらにはグァンチョルを追っていた刑事もやってきて、にわかに血なまぐさくなるドンハの近隣。絡み合う思惑も複雑で…。
まずはドンハの出来心による盗みと崩壊しかけている家族。ドンハの妻がどうやら浮気しているらしいということ。グァンチョルの属する組織内の争い。とある刑事がどうしても突き止めたいある事件。さらには警察と組織の間を繋ぐ厄介な結びつき…と、ラインがあれこれあって結構ややこしいなと思いながら観ていましたが、最終的には全体にまとまって着地することができました(回収しきらなかった部分もあるように思いますが)。
殴り合ったり拷問したりもまあまあ激しいのですが、ノワールというよりは主にドンハの優柔不断で鬱屈とした性分による精神的閉塞感が終始際立っています。最後までそれはあまり拭われず、何をやっても今ひとつなのに中途半端な功名心と自尊心から余計なことばかりしてしまう哀しいキャラクター。家族の中の父親であることがさらに残念さを引き立てつつ、子供ふたりは意外と父親として慕っている様子も垣間見せ、ドンハも行動はお粗末ながら家族を思ってはいる。そのあわいに人間の弱さがあるような、そんな存在かもしれません。
ドンハの息子がやたら利発でかわいいのを除くと、あまり好感を持てる登場人物がいないのが正直なところですが、この「ああなんか嫌だ」という感覚こそが、このテのドラマの肝かなと。結末は多少すっきりするので良かったですが、しょうもないことでどんどん負のループに巻き込まれていく面々に対して小骨が刺さったままのような気分で見続け、そこにある種の(嫌気持ちいい的な)面白さを感じる淡々とした展開です。
ちなみにグァンチョルに妙に既視感あるなと思ったら、「マイネーム: 偽りと復讐」でもパク・ヒスンがゴリゴリの組織のボスを演じてましたね。キレ者ヤクザが似合いすぎる。
いかんせんキャラクターが全員少なからず「家族」にコンプレックスを持っているようで、「家族」と呼ぶ相手に対して各々こじれた執着を見せることに。やっぱり「家族」って、多かれ少なかれ誰もが生まれながらに抱える試練か課題みたいなものなのかなと、そんなことをふと思ったりしました。タイトルの落としどころは必ずしも明確ではないものの、なんとなく分かる気がします。そんな終わり方でした。
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