「D.P. -脱走兵追跡官-」 - 沼深いバディもの、目を逸らせない"脱走の理由"
★★★★★
公開を心待ちにしてきて、心待ちにしすぎて、いざ公開されたらもう勢い余って一瞬で完走してしまいました。面白かった。予想以上にキャッチーな面がありつつも想定外のアグレッシブさで全6話、映画のように一気観できる作品です。
父親の暴力や理不尽な世間から逃げるように入隊した二等兵のジュノ(チョン・ヘイン)。しかし軍隊でもやはり先輩兵士のいじめや暴力がはびこっておりうんざりする中、ジュノはその観察眼やボクシング経験を買われて脱走兵を捕まえる軍務離脱逮捕組(D.P.)に配属されることになります。バディを組むことになるホヨル(ク・ギョファン)とともに、次々と脱走兵たちを追っていくうちに、彼らが抱える様々な事情や痛みに触れていく物語。
兵役のない日本に暮らす身としては、こんな風にど真ん中に軍を舞台にしたドラマというのがどういうものなのか、観るまであまりイメージが湧いていませんでした。中でも「脱走兵を捕まえる兵士」と言われると、結構ヘヴィそうだな…というのが最初の印象。ですがいざ観始めると、まずジュノとホヨルの軽快なバディものとしての面白さが際立ち、だいぶ意識が置換されます。ジュノの特に可愛げもなく醒めた性格に対して、任務には真面目にあたるけれどユーモアを忘れないホヨル。ホヨルのことはなんだかんだと信頼していくジュノと、そんなジュノを可愛がるホヨル。とてもいい組み合わせです。そしてふたりを乱暴ながらも見守る上官のボムグ(キム・ソンギュン)。
順調にD.P.として経験値を積んでいくふたりですが、やがて最大の試練が。そこまでも避けて通れなかったのが脱走兵たちの「脱走の理由」でしたが、ことさら超重量級の案件が立ちはだかることになります。ラストはなかなか呆然としてしまう感じでしたが、やはり物語全体を通して大きいのは隊内でのいじめの問題。現実世界でもちょこちょこニュースで見かける話ですが、ここまで正々堂々と作品の主軸に添えられていることに強烈なメッセージを感じました。正常心を失って抑えの効かなくなるいじめ。いじめられる側もまたどこかで決壊してしまう。韓国の軍隊に限らずあらゆる場面にのしかかるテーマですし、出口のない闇に掴まるような暗澹とした気持ちになります。
そうした厚みのあるテーマを緩急自在に表現していく脚本と、主役ふたりのどちらかと言えば平凡な青年寄りなポップさに対応するように、脱走兵たちを演じる役者陣が隙のない命懸けの演技を見せる、その対比がまた作品の引力を強めていました。
先日ちょうど「チョン・ヘインの I ♡ NEW YORK」(チョン・ヘインが友人とニューヨークを旅するドキュメンタリー)を観ていたのですが、笑顔を絶やさず屈託のない素朴な青年、という感じがしみじみ感じられて、このD.P.は設定自体はそこからだいぶ落差がありますが、それでもやっぱりチョン・ヘインという俳優の稀有な「平凡さ」は最強に魅力的だなと思わされました。彼が主人公であることで、ドラマにリアルな手触りがします。
楽しく魅せる部分と重苦しく考えさせる部分を絶妙に練り合わせてくるつくり、それを6話というとても観やすいサイズに収めてくるあたりがNetflixオリジナルの巧さにも感じます。とりあえず着手すればあっという間にゴールできると思うので、積極的にオススメしたい一本。
▼シーズン2にも期待
▼「D.P.」での強烈な演技で百想芸術大賞の助演賞を受賞したチョ・ヒョンチョルの印象的なスピーチ
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