「赤い袖先(袖先赤いクットン)」 - ジュノ×イ・セヨン、役を生きるふたりが織りなす世紀の大恋愛
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時代劇は率先しては観ない方なのですが、これはなんだかあまりにも評判がいいので気になりすぎて途中から観始めました。結果、盛大にハマってしまい何度も観返すまでしてしまって睡眠不足に陥るはめに。演技力で話題をさらってきた2PM・ジュノの除隊後復帰作であり、ヒロインは子役出身の実力派女優イ・セヨン。韓国MBCが同名小説を原作に人気監督と「仮面の王 イ・ソン」を共同執筆した脚本家チョン・ヘリという布陣で挑む正統派時代劇です。
歴史上の王の中でも人気の高い「正祖イ・サン」とその後宮である宜嬪成氏という実在の人物のラブストーリー。物語の舞台は1700年代前半の朝鮮で、主人公である世孫(王の孫、後継者)のイ・サン(ジュノ)は、現在の王である祖父によって実の父を殺された過去を持っています。父の件の禍根はあれど、後継ぎとして祖父に大事に育てられてきたサン。いつか王位を継承し力を得たら、人々を助けられる良い王になることを心に誓っています。
そんな中、サンは東宮女官のソン・ドクイム(イ・セヨン)に出会います。聡明ですが奔放で気が強いドクイムに困惑するサンと、サンの身分を知らず、上から目線のサンに腹を立てるドクイム。ですが正面から接してくれるドクイムにサンは次第に心惹かれて行き、ドクイムもまた、サンの人々を守ろうとする姿やドクイムを信頼してくれている様子に気持ちを許すように。サンに対して、「自分はあなたの味方だ」と伝えます。ふたりには幼い頃に出会った縁もあり、宮中の苛烈な権力争いと欲望の波に呑みこまれながらもいつしか育っていく特別な想い。しかし宮女として平穏に生きていきたいドクイムにとってやがて王になるサンとの恋は踏み込むのに躊躇われ、苦しいばかりなのです。状況は目まぐるしく動いていきますが、進みそうで進まないもどかしいロマンスに一喜一憂し続ける全17話。
何はともあれまずは主役のふたりが本当に本当にいい。ジュノは世孫、そして王になっていく役柄に全く違和感がなく、立ち居振る舞いや声に生まれながらの高貴さを漂わせています。そして様々な愛憎に悩み苦しむ姿を何層も積み重なる深みで魅せる圧巻の演技。イ・セヨンもまた、品のある美しい顔立ちながら自由奔放な可愛らしさと芯の強さがあり、時代劇のヒロインとしてこれ以上ない存在感です。世界観にすっと馴染むふたりは説得力があるというか、作品の風格と重みを感じさせる歴史上の人気カップルを人間味あふれる愛おしさで演じていて、本当にそこに生きているかのような姿に序盤からがっつり引き込まれてしまいました。
サンの祖父である王・英祖を演じるイ・ドックァがまた大御所にしかない存在感を遺憾なく発揮していて、恐ろしくもあり、哀しくもあり、王が背負う孤独と狂気をこれでもかと見せつけては時代劇ならではの喜怒哀楽を深めています。サン&ドクイムとある意味での三角関係(?)を織りなすホン・ドクロ役のカン・フンも、甘い顔立ちで狡さと自惚れを巧みに表現して物語に欠かせない厄介者として忘れられない立ち位置に。その他、脇を固めるひとりひとりが強烈な個性を放つ役者陣です。
それから心に刺さる美しい台詞たち。サンがドクイムに想いを告げる場面が何度もあるのですが、自分の後宮になってほしいという言葉とともに、「お前と家族になりたい」と伝えるシーンはふたりのここまでの道のりが集約されているようで、ときめくというよりむしろ感動して溜息が出ました。本当に言葉のひとつひとつが丁寧で場面づくりも徹底して美しく、とにかく記憶に残るシーンがたくさんあります。9話の終わりにサンとドクイムが再会するときと16話のエンディングはかかる音楽が脳に刻まれるような強い印象があってとても好きです。ふたりの関係性は常に移ろっていくので、いつだってその瞬間瞬間が本当に大切で忘れがたいものに。笑いも織りまぜ明るい空気で始まる序盤、王位を継ぐために命懸けの局面が続く中盤、ロマンスの行く末を必死で掴むような切なすぎる終盤と、じわじわと深みに落ちていく構成も振り返ると秀逸で、あらゆるコントラストが最後に収束していくのです。
普段ドラマを観るときはヒロインに共感することが多いですが、この作品ではむしろ、何度想いを伝えてもドクイムの固い意志の前に(王子だろうと王様だろうと)バッサバッサとフラれ続けるサンに感情移入しては一緒に傷ついて(心底ツラいときもある)、それでも諦めるな!と念を送り続ける。そんな感じでした。一方のドクイムの想いは想像するほどに切なく、選び取ったはずの生き方を貫きたいのにサンの側にいたい気持ちを捨てられない。そして誰よりも世孫、王としてのサンを理解してしまう。より本能的に、本質的にサンを愛しているのがドクイムのように思いました。なんというか、サンが世孫から王になって歳を重ねていく大河的な様子も描かれているのですが、最後まで観るとやはりこれはサンとドクイムにしかない形での大恋愛の物語なのです。
しっかりとした時代劇でありながら、登場人物たちの感性はどこか現代的で普遍的な愛について考えさせられます。女官が自分自身の生き方を強い意志で選び、王がひとりの人間としての幸せと真剣に向き合って悩んだりする、この新鮮な感覚が面白さの源なのかもしれません。真っ直ぐなサンの愛とどこまでも包み隠されるようなドクイムの心のやりとりに最後まで翻弄されてしまいましたが、ラストシーンの作られ方にとても意志を感じて震える想いがしました。史実という逃れられない行く先はあるものの、個人的にすごく腑に落ちた終わり方です。そしてサンの涙の美しさに泣きました。
放送中うなぎのぼりだった作品人気により途中で1話追加されての17話構成ということで、結果それが良い形に落ち着いたのか、最終話の後半に残された余韻が様々な感情を往来させる情味に溢れたものになっていて、これはなかなか抜け出せない沼を生んでいます。もうしばらくここにいたい。そんな気持ちにさせられる、心から好きな作品でした。正月早々の最終回にロスが激しくて永遠に反芻してしまっています。
それにしても2021年は「ヴィンチェンツォ」のテギョンもあり、「だから俺はアンチと結婚した」のチャンソンと、気がつけば2PMな年でした。本当に多彩なエネルギーと魅力を持ったグループなんだなという実感。兵役も終わり完全体での活動ふくめ、2022年の2PMに期待しかないです◎
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