見出し画像

「今日のウェブトゥーン(今日のウェブ漫画)」 - 大きくて優しくて前向きな応援に癒されたいとき

★★★★+

2016年にTBSで放送された日本のドラマ「重版出来」の韓国版リメイクである本作。「重版出来」が大好きだったので(本当にいいドラマでした)、リメイクには少々抵抗があったのですが、キム・セジョンが主人公ということで日本版の雰囲気もうまく活かされてそうだなと思い観始めました。国も時期も違うので基本設定こそ多少翻案されていましたが、エピソードだったり全体を包む優しい人間ドラマの味わいは活かされていて、なんというかオリジナルへのリスペクトを十二分に感じる仕上がりに。何より、表現の違いはあれどヒロインの明るくておおらかで周りを元気にしてくれるキャラクターが作品の肝なことに変わりがなく、観ていて気持ちのいいドラマでした。

将来有望な柔道選手だったオン・マウム(キム・セジョン)は、試合中に対戦相手の選手に大怪我を負わせてしまったことがトラウマとなり柔道家の道を諦めていました。情熱の行き場を探しながらアルバイト生活をしている中、たまたま警備の仕事で出版社のパーティーの現場に行ったことをきっかけに、ずっと大好きだったウェブ漫画に関わる仕事へのチャレンジを考えます。優秀なライバルたちの中で選考に落ちてしまうマウムでしたが、彼女のキャラクターに興味を持った編集長のチャン・マンチョル(パク・ホサン)の努力によりウェブトゥーンチームに1年間の契約社員として採用されることに。

気合い満々で入社するマウムですが、同期のク・ジュニョン(ナム・ユンス)はマウムの体育会系のノリに対して冷たい視線を送ってきます。担当する作家たちもそれぞれに問題があったりクセが強かったり。時代に合わせて紙からウェブに移行したもののネットの心無い書き込みに触れて原稿を引き上げると言い出すベテラン作家のペク・オジン(キム·ガプス)や、恋人に振り回されて突然連絡を絶ってしまうナ・カンナム(イム・チョルス)のために駆けずり回ることに。ですが大変な状況に陥っても衰え知らずの元気と前向きさで最終的にうまく解決してしまうマウムは次第にPDとしての力を周囲にも認められていきます。そんな中、新人発掘のために開催された「ウェブトゥーン・キャンプ」でマウムはシン・デリュク(キム・ドフン)に出会います。壊滅的に絵は下手なのですが、引き込まれる構成や斬新で強烈な物語にマウムは本能的に才能を感じ取ります。けれど周りの彼への評価は低く…。

まずは作家たちとの信頼関係を築いていく過程が丁寧に描かれます。それぞれクリエイターとしてのこだわりや難しさはあってもみんな結局いい人で、最初から色彩豊かで温かい人間ドラマに癒されました。そして当然のように訪れるマウムと他の編集部メンバーとの対立。ここでもみんな抱えてる背景があるわけです。いずれも人間味に溢れていて、怒ったり悩んだりすることがあってもいつだって大きい心で他人を受け止めることができるマウムに毎回なんだか「ありがとう」という気持ちになりました。

ものすごいスピードで才能を伸ばしていくデリュクはいつしかマウムを「自分の神」とまで言うように。日本版でもそうでしたが、このデリュクの存在と彼の作品「ピーヴ遷移」はこのドラマが漫画をテーマにする上で心臓のような位置にあると思います。天才の孤独や才能が発掘されていく過程の面白さは実に見応えがあるものです。そのほか、劇中にたびたび登場する漫画作品たちのリアリティがすごくて実際に読んでみたくなりました(日本版ではwebサイトで劇中作品の一部が公開されてましたそういえば)。

個人的に好きなのはペク・オジンのもとで万年アシスタントをしているイム・ドンヒ(ペク・ソクグァン)のエピソード。デビューしている作家たちの才能の合間で、天才などではないドンヒの苦しみが描かれます。そんな彼とデリュクの交わりは大きな意味を持ち、「ものづくり」というものに深く遠く思いを馳せて泣きました。

あとはいつしか始まるマウムとジュニョンのラブライン!ふたりが同僚として仲良くなるだけでも微笑ましいのに、気づいたらマウムのことが大好きになっているジュニョンは眺めてるだけでこちらが幸せになります。「人間レッスン」のあのクズ男と同じ俳優とは思えず(笑)。どんどんかっこよくなるジュニョン。でもその先にはやっぱりマウムが本当に魅力的な女の子だというのがあるのです。あふれかえるほどの朗らかさと眩しさは現実に近くにいたらともすればちょっと鬱陶しいかもしれないですが、マウムのような人が全力で自分を応援してくれたら、なんでも頑張れそうな気がします。彼女がPDという役割なのも大きな意味があるのでしょう。

紙媒体ではなくウェブが舞台になっている時点で原作タイトルの「重版出来」を物語に盛り込むのは難しいわけですが、脈々と受け継がれる核は同じだと思えるリメイクでした。気楽に楽しめるテンポの良さもあり、ものを作る人の苦しみと、それを支えて応援する人の人間味ある力強さに癒される上出来な16話です。


▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?