「ドクター・プリズナー」 - ナムグン・ミンの存在感が魅せる精巧な復讐劇
★★★★
たまたまメインキャストが出ていたバラエティ番組を見かけて役者の顔ぶれが気になったので観てみたドラマでした。やっぱり「能力は抜群だけど本心を読みづらい」みたいなキャラクターにナムグン・ミンはよくハマります。
概要で言うと、主に病院と刑務所を舞台に権力に人生を狂わされた医師が財閥を敵に復讐を遂げていく王道の物語。
テガン病院の外科に務めるナ・イジェ(ナムグン・ミン)は、お金のない患者のために自腹を切ったりするほど患者想いで情熱に溢れた医師です。ある晩、交通事故で彼がよく面倒を看て親しくしていた患者の夫婦が運ばれて来ます。イジェの必死の救命措置にも関わらず夫は息を引き取り、身重の妻も重体に。
せめて妻を救おうとするイジェのところに、テガングループ常務のジェファン(パク・ウンソク)がやって来て、かすり傷の妹の治療を先にしろと言うのですがイジェは断ります。逆上したジェファンにより手術を終えたばかりのイジェが上司に呼び出されやいのやいの言われていると、その間に患者の妻の容体が急変しそのまま亡くなってしまうことに。
さらにジェファンの嫌がらせを受け、病院を追われてしまうイジェ。母親の手術を条件にとあるVIPの病気を仕立てあげて刑務所から出すための書類にサインをしてしまったことを利用され刑務所にまで入ることに。しかも母の手術は行われず、母親をも失ったイジェは復讐を心に誓うのです。
それから3年後、麻薬所持で逮捕されたジェファンが西ソウル刑務所に入ることに。そこで待ち構えていたのが、刑務所医療課長の後任としてやって来たイジェというわけです。
当然、ジェファンを突き落としていくことが物語の基本筋かと思いきや、現・刑務所医療課長のソン・ミンシク(キム・ビョンチョル)や、ジェファンの義理の兄でテガングループ後継者筆頭であるジェジュン(チェ・ウォニョン)などなど、癖の強い魑魅魍魎が次々に登場し、復讐の構図はどんどん複雑になって行きます。
迷子になるほどのややこしさはありませんが、登場人物の多さを緻密に消化し、物語が進行するにつれて少しずつグラデーションのように悪役が入れ替わっていくつくりは韓国ドラマらしい香りに満ちています。また「刑の執行停止」を狙って病気を捏造する、というのが結構キー表現になるのですが、病気を作り上げる過程の描写はこのドラマ独特かもしれません。
そして悪役は悪役で振り切って憎たらしいものの、中には元来が小者でかえって人間らしいと言うか、結局はイジェの側につくキャラクターもいたり、真人間のわりに魔がさしたりする人もいたり、常にどんでん返しが待ち構えている感じはどことなく西洋ドラマ的な力強さもあり、最後まで一定の緊張感を保って突っ走ることのできる作品。
冒頭であそこまでキング・オブ・クズとして君臨していたジェファンが気づいたらすっかりただの単純なお坊ちゃまになっていた点については少々疑問も残りますが、変わり身ふくめて印象に残るキャラクターです(終盤はむしろ愛嬌があって可愛いくらいの存在に)。
恋愛要素こそないものの、精神科医の役で登場するクォン・ナラが画面に華を添え、息抜きをもたらす笑いもありますが、全体を通して言えるのは「やはりナムグン・ミン!」ということ。見た目の仕上がりの良さも当然あるのですが、決して大きくは見せない表情のコントロールで、情と復讐心を良い塩梅に使い分ける独特の世界観。声の出し方も彼ならでしょうか。個人的にはこの次の「ストーブリーグ」でそれが極まっているように思いますが、やはり唯一無二の役者さんだなと感じました。
直前に「ヴィンチェンツォ」を観ていたせいで正直そこまで衝撃はありませんでしたが、イジェは善良な医者が闇落ちしたダークヒーローでもあり、ラストシーンはなかなか強烈。「いや、この人は…」と思って終了する面白さがありました。一気に観れます◎
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