「悪の心を読む者たち」 - フィクションよりも引力のある現実の向こう側の闇
★★★★★
一見すると地味めなのですが、高密度でしつらえの良さを感じる一本。実際に起こった事件を下敷きにしているためか変なエンタメ感がなく、いい意味でスタイリッシュじゃないのです。現実にある事件というのはそんな綺麗さっぱり解決するものではないわけで、必ずしも思う通りに進まない展開がむしろリアル。それが純粋に「面白い!」と感じさせるドラマだと思います。特に最初のエピソードである1-2話は、強烈なまでに作品の個性を見せつけていて秀逸な仕上がりに感じました。
1998年から物語はスタートします。刑事のソン・ハヨン(キム・ナムギル)は女性を標的に暴行・強盗を繰り返す「赤い帽子」の男を追っていました。長らく解決できなかったこの事件ですが、被害者のひとりの恋人であるパン・ギフンが逮捕されます。解決を急ぎ自白を強要する上司に対して疑念を抱くハヨンでしたが、結局自白を覆せる証拠までは見つけられず、実刑判決を受けるパン・ギフン。
しかし翌1999年、とある事件をきっかけにハヨンは「赤い帽子」の真相に近付くことになります。ギフンが逮捕されたとき、たまたま同じ警察署内にいた「赤い帽子」の模倣犯ヤン・ヨンチョル。ギフンを見て「彼は犯人じゃない」とヨンチョルが呟いたのを聞いていたハヨンはヨンチョルを訪ね、ヨンチョルとの会話の中から犯罪者の心理について学んでいくことになります。その後、ハヨンは事件の意外な真相を解明し、ギフンの冤罪が証明されることに。
一方、警察組織の中で「犯罪行動分析」の必要性を唱えるクク・ヨンス(ジン・ソンギュ)はハヨンにプロファイラーとしての才能を感じ彼を引き入れ新チームを立ち上げます。プロファイリングという概念が市民権を得ておらず既存の捜査手法を取る現場の刑事たちとぶつかりながらも、犯罪者たちへのインタビューを重ね、増えていく動機なき殺人事件に立ち向かっていく犯罪行動分析チーム。
韓国第1号のプロファイラー、クォン・イルヨン元警察官による同名の著書が原作で、ハヨンのモデルがまさにクォン・イルヨンとのことなので、全12話を通して犯罪心理の重い手触りに終始向き合わされるような作品だと思いました。より一般人の感性に近そうなヨンスと、より深淵を覗き込んでいくハヨンのコントラストもまた面白く、キム・ソジン演じる現場の刑事ユン・テグとの価値観のバランスなど、いろいろな遠近法で眺める犯罪者心理の奥底は、モデルになった様々な実際の事件を知っている人であればドキュメンタリーを見ているような感覚になるのかもしれません。各所で犯人役の演技が素晴らしく実物にも似ているという評価を見かけましたが、そういった細部のリアリティに徹底的にこだわって作られているように思います。
犯人たちはみんな捻れた自身だけの論理を展開し、犯した罪に対して反省も後悔も見せません。彼らに向き合ううちにハヨン自身も精神が追い詰められていくほどなのですが、ドラマとして観ていてもそんな犯人たちの得体の知れない恐ろしさ、気持ちの悪さに胸が悪くなりながら、一方で引きずり込まれて行ってしまうから凄いです。キム・ナムギルの男前っぷりが辛うじてエンターテイメントの香りを残しているものの、それすらも忘れてしまうほど理解しがたい犯人たち。理解しがたいのですが、ものすごく現実感があって綻びがない。この喉につかえる感覚こそがそのへんのフィクションでは表現できないもの。突き詰めて質の高い作品なのだと思います。
▼キム・ナムギル×クォン・イルヨン対談も面白そう
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