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「わかっていても」 - 恋だと知らずに落ちる恋の痛さと美しさ

★★★★★

ソン・ガンが恋愛に難ありなどうしようもない男を演じると言われたら、それはやはり観たいわけです。「恋するアプリ Love Alarm」のソノもそれなりに問題の多いモテ男タイプでしたが、今回はあらすじなどを見るだけでもかなりダメな男の予感。あの整った顔ともはや何頭身かも分からなくなる現実離れしたスタイルをもって、女が切れないくせに「恋愛はしない」と言い放つ美大生…気になって仕方ありません。夢みたいな王子様が出てくる物語も素敵ですが、現実には何を考えているのか分からない男に振り回されて苦しい恋愛もあるもの。そしてそんな設定の物語がどんな結末に至るのか。配信開始からドキドキ観始めました。

美大で彫刻を専攻しているユ・ナビ(ハン・ソヒ)は美術作家の恋人がいたが、彼の個展でナビをモデルにした卑猥な作品を見てしまい、激しく傷つきます。そして利己的すぎる彼の言動に加えて、他の女との浮気現場を目撃したナビは別れを決意するのです。

そんなナビがバーで一人で飲んでいるところに現れるのがパク・ジェオン(ソン・ガン)。初めは人間違いで声を掛けられたのですが、ナビの名前(ナビ=「蝶」)を聞いて興味津々な様子を見せるジェオン。圧倒的にイケメンなジェオンに親しく話しかけられてナビも悪い気はしません。次第に打ち解けていく二人でしたが、ジェオンに途中でかかってきた電話の相手が女の様子なのを感じ取ったナビは、挨拶もせずその場を去ってしまいます。

ところがその少し後、友人にしつこく飲み会に誘われて顔を出すと、そこにジェオンがやってきて…。彼は同じ美大の学生だったのです。しかもずっとナビに会いたがっていたと言い、積極的にナビに近づいてくるジェオン。当然その容姿で周囲にも人気のある彼ですが、同時に女癖の悪さにも定評がある様子で、ナビは迂闊に絆されないようにジェオンを警戒します。けれど、やはりナビに対してはどこか特別な素振りを見せるジェオンに抗いがたいものを感じるナビ。どうしても距離は縮まって行くわけです。

途中からはジェオンの元カノや、ナビに想いを寄せる幼なじみのドヒョク(チェ・ジョンヒョプ)も登場して、拗れに拗れる恋愛模様。ナビとジェオンを取り巻く友人たちもまた、それぞれにリアルな恋愛を展開していきます。

女遊びをしたいダメ男というよりは、ただ本能に対して素直で、一方で特定の相手を作る恋愛感情がイマイチ理解できていないジェオン。そんなジェオンを見ていると、そもそも恋愛ってなんなんだろうという気分にさえなっていきます。一人の相手としかしてはいけないのが恋愛なのか。それとも、本当の恋愛をすると他の人が目に入らなくなるのか。倫理観なのか、感情なのか。ジェオンは恋愛ができないのか、ただ今までは恋愛をしていなかっただけなのか。普通は恋の概念を学んでから恋をするところを、ジェオンは恋の定義を持たないまま無意識に異性との関係に身を委ねているようです。

初恋のまま朴訥に情熱的にナビへの恋心を見せるドヒョクは実に真っ当で、正直ドヒョクもものすごくいい男だと思うのですが、ドヒョクとの対比が濃くなることでジェオンの気持ちもまた輪郭が見えてくるようになります。それがなんというか、ものすごく切ない。胸が潰れそうなほど切ないのです。自分の一方的な価値観だけで女の子と遊んでいたツケがまわってくるジェオン。ですがその痛みとともに、蝶が羽化するように恋に目醒めるジェオンの姿は綺麗だなと思いました。

「恋するアプリ」で印象に残ったのもそうでしたが、ソン・ガンの恋に傷つく演技は妙にえぐられるような共感をおぼえます。「Sweet Home -俺と世界の絶望-」を経て表情の口数がより増えたような、そんな気もしました。ソン・ガンのイメージとしては「ナビレラ」が本当に素敵な作品でしたが、今回のパク・ジェオンという役もまた、ソン・ガンの魅力の一面をふんだんに惜しみなく活かしています。

対峙するハン・ソヒのナビが、(間違いなくその辺にはいない美人でありながらも)ごく等身大の感性に満ちた、不器用で共感できる女心を見せてくれて、それこそがドラマを観ていてジェオンにときめいてしまうゆえん。リアリティは反面で地味さにも繋がりそうですが、美大生たちの日常は土台華があるのでどことなくお伽話感もあり、変にドロドロせずとても後味良く観られました。お気に入りです。


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喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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