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「私たちのブルース」 - 家族と故郷はいつも苦く重苦しく、最後に裏切らない

★★★★+

とにかくキャストの豪華さ際立つ作品。シン・ミナと海が並ぶと「海街チャチャチャ」を連想しますが、こちらはもっとずっと現実の苦味みたいなものが滲みる夕暮れの趣きがある一本でした。言われてみれば「ブルース」って、明るいふりをして孤独や悲哀を歌うような、人生のやるせなさを感じる音楽だった気がします。人間ならば誰にでも訪れうる苦節を、海辺の田舎町の息苦しさと親心を、年代も価値観もバラバラな登場人物たちの目線で描き出すオムニバス。

済州島で繰り広げられる14人の物語を順々に紐解いていくのですが、始まりは青春に甘酸っぱい思い出を残したとある男女の再会から。

早朝から済州の水産市場の競売に出かけるウニ(イ・ジョンウォン)。鮮魚をさばいて売り、かたやカフェの経営もしていたり大忙しで働き詰めてきたウニは、気づけば独身ながら莫大な財産を築いていました。そんな折、済州に戻ってきたひとりの男。彼はアメリカにゴルフ留学させている娘が誇りで、その留学費用のために借金も辞さず必死に金策に奔走している銀行支店長のハンス(チャ・スンウォン)です。辞令が出て済州に赴任してきたハンスはウニにとって高校時代に置き去りにしてきてしまった初恋の人。どうしても湧き上がるときめきと、離婚をほのめかすハンスの態度にふたりの距離は近づくのですが…。

家族というのは大概難しいものだと思います。反抗期という言葉が存在するのは、親に対してって、どうしても一度は反抗心を抱いてしまうからだろうし、兄弟姉妹と昔は仲良くなかったとか、今は疎遠だなんて話はよくあります。良いときだけを気軽に共有すればいいわけではなく、愛そうが憎もうが特別な縁で結ばれている相手なので厄介に決まっています。このドラマでは、登場人物みんながそういう意味で家族のようでした。

良くも悪くも村な社会の話で、価値観が前時代的な人もたくさん出てきます。人の容姿なんかをディスるような台詞も平気で出てくるので、それがリアリティであっても嫌だという意見も見かけました。私自身も、その妙に実感のある手触りは時折居心地悪いものでしたが、そのぶん不思議と見終わってからの余韻が消えず、「この感じがブルースなのか」みたいな謎の納得感。

ただ、自分を思ってくれる人の気持ちに甘えて感謝が薄いみたいなキャラクターたちはどうにもモヤっともします。それもまた家族的な繋がりゆえか。中でウニの、独立独歩スタイルだけど情に厚くて、一方で自分の抱える負の感情に対しても自覚的な姿は人間的な魅力を感じるものでした。結局のところは、人間なら誰でも抱きそうな平凡な毒をてらいなく描いていくところがこのドラマの肝。身内には優しくできても相手が変わればいい人ではいられないキャラクターたちに、したくなくても感情移入してしまった部分は否めません。

そういえば終盤に登場する子役の女の子が圧巻の泣きの演技を見せて、他の役者陣の記憶すら上書きされそうな印象を残しているのですが、この子が実は「海街チャチャチャ」で号泣を呼んだ少年の妹だと聞いてびっくりしました。遺伝子が恐ろしすぎてこの子たちが成長したら一体どんな役者兄妹になることやら。メインのキャストは言わずもがな、イ・ビョンホン、シン・ミナ、キム・ウビン、イ・ジョンウン、チャ・スンウォン、ハン・ジミン…これでもかというラインナップで表現の質の高さを見せつけられる一本です(リアルでカップルなシン・ミナとキム・ウビンが一瞬相まみえる場面もあったりして多少のざわつきも)。

恋も友情も裏切りも生き死にさえも同じテンポで、同じ一歩一歩のように描かれている気がしました。人生に起こる出来事というのはもともとそうやって全部が公平な時間として毎日の中を流れていて、もしくは全てのことが等しく大きなドラマだとも思えます。現実逃避させてくれるファンタジーではなく、胸のうちに溜まった澱のようなものと自分なりに向き合うような、そんな全20話。幸せになるためにもがいて苦しみ続けることが生きるということならば、苦味ほど味わいがあるのかもしれません。


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喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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